投稿日:2025年8月18日

トラック待機料の見える化で内陸配送の非効率を削減する配車設計

はじめに:製造業の現場で深刻化する「トラック待機料」問題

製造業において物流の効率化は避けて通れないテーマです。
特に工場と倉庫、さらにはサプライヤー間を結ぶ内陸配送で「トラックの待機料」が大きなコスト課題となっています。
これは荷物の積卸し作業の遅延や、施設内の受入体制が整っていないことで発生する追加料金で、決して軽視できません。
バイヤーの立場から見れば、調達コストの圧縮に重要な意味を持ち、サプライヤーとしても受注拡大やクレーム回避のために改善すべき領域です。

本記事では、現場目線でトラック待機料の「見える化」を軸に、内陸配送の非効率をどのように削減していくべきか、実践的かつ時代に合わせた配車設計のポイントを伝えていきます。

トラック待機料とは何か?その発生メカニズムと現場のリアル

「待機料が発生する」場面と現実

トラック待機料は、ドライバーや車両が配車先で荷物の積込みや卸しを待つ時間が発生し、一定時間を超えて停車してしまった場合に、運送会社から請求される追加料金です。
例えば「2時間以内は無料、以降は1時間ごとに〇〇円」や、「半日待機〇万円」といった課金ルールが一般的です。

ところが生産スケジュールの乱れや受入側の入出ゲート渋滞、ピッキングの遅延など、内陸配送の現場はさまざまな要因で待ち時間が発生します。
昭和的な現場力で「トラックはとりあえず敷地に待機させる」慣習が今も根強い工場も多く、デジタル管理の浸透が遅れているためコストがブラックボックス化しがちです。

誰がそのコストを負担しているのか

多くの場合、直接的な待機料の支払いはバイヤーである荷主(製造メーカー)となります。
一方、現実には「配車の指示が遅れた」「入荷予定と実際の時間が乖離した」「時間指定ができない伝統的システム」などサプライヤー側の事情も内在しています。
お互いに責任の押し付け合いをしてしまい、現場でのストレスや関係性の悪化も起きやすくなっています。

このように、トラック待機料は誰にも直接利益をもたらさず、かつ物流全体を非効率化する元凶となっています。

「見える化」で待機料削減へ デジタルとアナログ融合の第一歩

なぜ「見える化」が必要なのか

待機料削減の最初の一歩は、現場でどこで・どれだけ待機料が発生しているかを「見える化」することです。
全社の物流費用データの中で「待機料」という科目が明示されていない、あるいは運賃に溶け込んでしまっているケースが非常に多いのが現実です。

待機料項目の可視化で、どの拠点・どの工程・どの時間帯に、どのくらい無駄なコストが発生しているか数値として把握できます。
これにより、バイヤーは調達価格の交渉材料を得られ、サプライヤーも対策提案の根拠が持てるようになります。

アナログ業界を変えるには、シンプルな仕組みから

デジタル管理といっても、最初から高価なWMSやTMS(運送管理システム)を導入する必要はありません。
まずは紙の納品受付票やエクセル台帳に、受付時刻・積込みor荷降ろし完了時刻・車番などの項目を記録するだけでも十分なデータが蓄積できます。
「いつ」「だれの」「どの荷物が」「どれだけ待ったか」という履歴を、現場単位で1ヶ月単位で一覧にするところから始めてみます。

多くの現場で「納品・引き取り記録」を人手でやっていますが、その内容が非常に曖昧になっていることが多いです。
これを変えるだけで翌月から劇的に無駄コストの全体像がつかめます。

非効率の本当の原因はどこにあるのか?多面的な要因分析

受入・出荷設備とスケジューリングのボトルネック

待機料を削減するためには、どの工程がボトルネックになっているのか徹底的に洗い出す必要があります。
内陸配送で多く見られる非効率の原因として、以下のようなものがあります。

  • 積込み・荷卸しスペースが不足している、動線設計が古い
  • 受入・出荷の受付人員が足りず窓口で長蛇の列
  • 一日の受入上限数を超える予定配車が組まれている
  • 出荷品の準備(ピッキングや梱包)が終わっていないのにトラックが先に着くスケジュール組み
  • ステークホルダー間で正確な配車情報が共有できていない

これらはどれも、サプライヤーとバイヤー双方が「現物」を見て初めて気づくことが多いです。

昭和からの「とりあえず並べば良し」風土が障壁に

製造業の多くの現場では「物流=生産の付帯動作」「とりあえず敷地に並ばせてしまおう」という昭和的風土・慣習が色濃く残っています。
これが、現場リーダーや工場長クラスが残業してまで回している実態を覆い隠してしまい、結果待機料という形でコストを内部化できない要因になっています。

「どうせ昔からこんなもの」と諦めてしまう前に、現場の声やデータを経営層も共有し、DX(デジタル変革)だけに頼らずアナログの仕組みも見直す勇気が必要です。

待機料を削減する実践的な配車設計:5つのステップ

1. データ収集と業務可視化(ボトルネック発見)

まずは配車ごとの待機時間データを集め、工程ごと・曜日ごと・サプライヤーごとに集計します。
「週明けの午前中に集中」「特定の部材納入で長時間化傾向」など、具体的な傾向を見える形で提示します。

2. 現場レイアウトと人為的オペレーションの再設計

現場の動線やリフト作業、受付の処理スピードなど設備面や現場作業フローを見直し、拠点ごとの課題を洗い出します。
一例として、積込・荷卸スペースの増設や受付自動システム導入よりも、作業順序の見直しやスタッフの配置転換が即効性のある改善策になる場合もあります。

3. 電話配車から「予約型配車システム」への移行

どれだけ現場力が高くても「電話一本で明日の午前に納品してほしい」方式では、配車枠が混雑しやすく待機料を増やしがちです。
無料のGoogleスケジュールやLINE WORKSの予約管理など、小規模現場でも試せる低コストの仕組みから「予約型配車」に移行することで、トラックの集合時間をコントロールしやすくなります。

4. サプライヤーも巻き込む「現場改善ワークショップ」実施

バイヤーだけでなくサプライヤーの現場担当者、運送会社のドライバーを巻き込んだ業務フローの棚卸しや改善会議を定期開催します。
お互いの事情を理解し合えば、「積みに来てと命じるだけ」から「どうせ待つのだからコーヒーでも」となり、コストだけでなく人間関係の質も向上します。

5. 成果指標(KPI)を設定し定期的に進捗測定する

「待機料総額を1年で〇%削減」「1配車あたりの待機時間平均を〇分以下に」などのKPIを設定し、成果を見える化します。
削減コストを再分配として、取引先へのインセンティブや新たな物流投資に活用するサイクルが重要です。

最新トレンド:配車計画システムとAI自動配車

近年はAIを活用した自動配車システムが登場し始めています。
これらは膨大な配送先・道路状況・天候・積込所のキャパシティなど多変数をリアルタイムで勘案し、最も待機時間が少なくなるようスケジューリングすることができます。

ただし導入にはコストもかかり、全てを自動化できる現場はまだ限られます。
中小規模の製造拠点では、まずはWEBブラウザで管理できる配車台帳や、拡張エクセルによる簡易管理からスタートし、企業拡大とともにシステム統合を目指すのが現実的です。

おわりに:現場目線の変革が製造業の未来をつくる

トラックの待機料は、サプライチェーン全体の非効率化を象徴するわかりやすい指標です。
見える化、現場参加型ワークショップ、段階的なデジタル移行という地道な改善活動こそ、「昭和から抜け出せないアナログ業界」に必要な最適解となります。

バイヤー志望者にとっては、配車設計力の有無が調達バリューを大きく左右します。
そしてサプライヤーとしても「バイヤーはどこを見ているか」を知り、より高付加価値な提案が可能になります。

持続性ある製造業の発展には、現場の実態を知り、「待機料見える化」による地道なコスト最適化から始めましょう。
それが業界全体の競争力アップの第一歩となるのです。

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