投稿日:2025年8月22日

航空貨物の搭載落ち時に複数便分散でリスクを下げる運用方法

はじめに

航空貨物の国際輸送は、製造業のグローバルサプライチェーンにおいて極めて重要な役割を果たしています。

しかし、航空スケジュールの遅延や貨物の搭載落ち(搭載予定貨物が実際には積まれない事象)は、現場に多くの混乱や追加コストをもたらします。

特に、納期厳守が求められる製造業にとって、航空貨物の搭載落ちは深刻な課題です。

本記事では、20年以上の現場経験をもとに、搭載落ちリスクを低減するための「複数便分散運用」の実践的なノウハウを解説します。

今後バイヤーや物流担当者を目指す方、またサプライヤー側でバイヤーの視点を学びたい方にも、現場目線に立ったヒントを提供します。

航空貨物の「搭載落ち」とは何か

搭載落ちの実態

航空貨物の「搭載落ち」とは、航空会社またはフォワーダーが出荷スペースを予約していたにもかかわらず、貨物が実際の航空機に積載されず、次便送りや数日後の便に持ち越される現象です。

その理由は様々で、ブッキング量が過剰だった、出発地の天候不順やシステム障害、乗り継ぎ地でのトラブル、人手不足など、昭和時代から続くアナログな運用体制にも一因があります。

気をつけたいポイントとして、
– 輸送キャパシティの逼迫
– 貨物の内容や重量の偏り
– フォワーダー間の優先順位づけの違い
などが複雑に絡み合っています。

なぜ搭載落ちは深刻なのか

製造業のバイヤーや物流担当者にとって、航空便の未搭載=1日、2日という短延滞でも生産ライン停止や納品不履行の大きなリスクとなり得ます。

半導体・電子部品、精密機器などジャストインタイムでの納入を求められる分野では“1便遅延=数百万円のダウンタイム”というケースも珍しくありません。

こうした現場のプレッシャーは、調達購買担当や現場責任者、さらには上層部にも大きなインパクトを与えています。

従来型運用の課題〜昭和の名残りをどう乗り越えるか

単一便依存のリスク

昭和の高度経済成長期や、バブル崩壊後も長らく見られた運用パターンは、「予約時点で空きが中央管理され、1便にまとめて出荷する」というものでした。

コスト削減やオペレーションの社内効率化を優先すると、どうしても「まとめて少数便で出して着荷後全量受け入れ、社内搬送も一括化」が定着してしまいがちです。

しかし、航空便のオーバーブッキングや急な需要変動時には、この“一括依存”こそが最大のリスク要因となります。

アナログな現場ゆえの難しさ

現場では、依然としてFAXや電話、Excelなどアナログなオペレーションが多く残り、リアルタイムでのブッキング状況把握が困難なことが多いです。

空港の現場担当、フォワーダー担当者、さらに製造現場の物流担当もそれぞれ独立的に動いており、部門間で情報共有が遅れ、リカバリーにも時間がかかります。

こうしたアナログ業界ゆえの“情報遅延”こそが、搭載落ち時の影響範囲を拡大させる温床にもなっています。

複数便分散運用がもたらすリスク低減の原理

なぜ分散が有効なのか

最も本質的な分散のメリットは、特定の便で万が一トラブルが起きても、他便で残りの貨物が予定通り運ばれるため、「全量滞留」という最悪の事態を避けられる点です。

これは、サプライヤー・バイヤー双方のリスクマネジメントに直結します。

例えば、10トンの緊急貨物を1便に全量詰め込むのと、2トンずつ5便に割って送るのでは、リスク分散効果が圧倒的に異なります。

フォワーダーや航空会社のオーバーブッキング慣行にも対応しやすくなります。

ラテラルシンキングで考える分散戦略

単に「複数便に割って出せば安心」と思いがちですが、現場で本当に有効な分散のためには、もう一歩深い工夫が必要です。

– 出発空港だけでなく、到着便やトランジット空港も分散させる
– 複数の航空会社(アライアンス)を活用する
– フォワーダーの得意ルートと弱点を分析し、“強い時間帯”に分散する
– 輸送予定日を週単位で前広にアクションする

このようなラテラルシンキング(水平思考)、つまり“今のやり方のワクを外す”工夫こそが、実践現場では効きます。

現場目線で実践する分散運用ノウハウ

工程設計段階での分散計画

調達計画の段階から
– 重要度・納期優先度で貨物をグループ化
– 複数便を想定した輸送計画をセットで準備
することが肝要です。

特に「どのロットは必着か」「どのロットは許容納期に余裕があるか」を工場・本社・サプライヤー同士で明確化しておくと、搭載落ち時の再配分や優先順位決定がスムーズに進みます。

フォワーダーへの的確な指示の出し方

アナログな現場では、「その日の出荷が何便になるか」「積み替えポイントでの分散状況」など、現場担当者と直接確認を取りながら進めることが不可欠です。

– ブッキング時点での複数便分割の指示
– 優先順のきめ細やかな伝達(例:第1〜第3便は必着、第4便以降は遅れても可)
– “着荷確認”や“輸送途中での状況共有”をルーチンに落とし込む

これらの小さな積み重ねが、最終的に納期遵守率を劇的に向上させます。

事後PDCA・フィードバックの重要性

分散運用が功を奏したかどうかは、「何便にどれだけ載ったか」「搭載落ちが何便で発生し、そのカバーはどう行ったか」などの詳細データを事後分析することによって評価できます。

物流部門だけでなく、調達・生産・品質管理の各部門で情報を共有し、次回の分散戦略に反映させるPDCAサイクルの構築が現場の成熟度向上につながります。

2024年現在:アナログ産業×デジタル活用の新地平

デジタル化が進む一方、昭和からのアナログ慣行が根強い現場では、「デジタル・アナログ融合型」の運用が効きます。

例えば、
– フォワーダーのWebポータルでリアルタイム搭載状況をチェック
– FAX送信と同時にチャットツール、クラウドストレージでも履歴を残す
– 納期管理や万が一の連絡体制は“アナログもセット”で備える

現場で働く誰もがデジタルに精通しているわけではないからこそ、手取り足取りの“情報ダブルチェック”が肝心です。

サプライヤーの場合、“バイヤーがなぜ分散を指示するのか”“バイヤーの本当の狙いは何か”まで深く洞察し、協働できる姿勢が信頼につながります。

サプライヤー視点からの気づき

分散運用に伴い、梱包や出荷管理、書類作成が煩雑化します。

それでも、「もし全量搭載落ちが起きた場合の損失」と比較すれば、目先の追加コストは十分に正当化できます。

バイヤー側の狙いを理解し、受動的でなく“能動的なリスク提案”まで示せるサプライヤーは、長期的な取引関係において選ばれるパートナーとなります。

まとめ〜搭載落ちに怯えない分散運用のススメ

航空貨物の搭載落ちはグローバル製造業の現場において避けがたいリスクです。

単一便依存から複数便分散への発想転換が、納期遵守と事業継続性のカギを握ります。

従来のアナログ運用の良さを維持しつつ、デジタル活用とラテラルな視点で“新しいリスク管理手法”を現場に根付かせることが、今こそ問われています。

バイヤーへの道を歩む方や、サプライヤーとして一歩踏み込んだ対応を目指す方に、本記事が実践のヒントとなれば幸いです。

リスクは予測できるからこそ備えができる。

ぜひ今日から、複数便分散で、あなたの現場にも新しい地平線を切り拓いてみてください。

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