投稿日:2025年10月11日

糸段・ネップ混入を減らす原糸検査と自動異物除去装置の活用

はじめに:製造現場を取り巻く品質課題

製造業の現場において、品質の安定は企業収益や顧客信頼の土台となります。
特に繊維産業や不織布業界などでは、「糸段」や「ネップ」の混入が製品クレームや歩留まり低下、さらには企業ブランドへの信頼喪失といった重大リスクに直結します。
近年、自動車産業など他業界からの厳格な品質要求や、多様なロットでの小口生産化が進むなかで、この「糸段」「ネップ」といった異物や欠陥への対応力がますます問われています。

本記事では、20年以上の生産現場経験と、調達・品質管理の両視点から「糸段」や「ネップ」混入対策を深堀ります。
昭和・平成の熟練者頼みの目視検査やアナログ管理から、最新の自動異物除去装置の導入動向まで、実体験に基づき現場目線で解説します。
これからバイヤーを目指す方や、自社の強みを打ち出したいサプライヤーの担当者にとっても、現場の課題感や求められるマインドを理解できる内容となっています。

糸段・ネップとは?~現場でなぜ問題なのか

糸段・ネップの定義と混入メカニズム

「糸段」とは、原糸のつなぎ目や太さのムラによって生じる段差・厚みの異常です。
一方「ネップ」とは、異繊維や不純物、繊維の玉(小さな塊状の欠陥)が糸やシートに混入することで生じます。
この2つは、原糸メーカーから製造現場、さらには最終製品に至るまで様々な工程で混入・発生するリスクを孕んでいます。

混入のメカニズムとしては、原綿・原料段階での不均一性や異物、紡績工程での巻き付け・断糸、輸送・保管中の埃やゴミ付着などが主な要因です。
また、生産設備の老朽化やメンテナンス不良、人為的なミスなども混入を助長します。

顧客クレームと歩留まり低下の実情

糸段やネップが製品に混入すると、どのような問題が起きるのでしょうか。
代表的な事例は下記のとおりです。

– 製品シートや不織布に目視で分かる凹凸・ムラ・筋となって現れる
– 印刷やラミネート工程での不具合、ヒートシール強度のバラツキ等の二次トラブルが発生
– 顧客(特に自動車・医療メーカー等)からのクレームやリコールにつながる
– 歩留まり低下(不良率増加)、原料ロス、コスト増加、納期遅延

また、全数検査や抜き取り検査に頼る従来方式では、「人の目」頼みとなり、見逃しも多くなります。
特に繊維・フィルム製造のように高速かつ連続的な工程では、作業者の集中力や経験に大きく依存している実状があります。

原糸検査の現場最前線~その実態と課題

従来型:目視検査の限界

筆者が長年経験した現場でも、原糸受入時や工程内では、熟練作業者が「目視検査」を繰り返していました。
基準票を片手に、原糸ボビンの1本1本を入念にチェックし、不良ボビンを特定・排除しています。

この方式にはいくつか課題があります。

– 熟練度向上までの教育コストが高い
– 人ごと、時間帯ごとの差が大きく「ムラ」につながる
– 夜勤や繁忙期など疲労・注意力低下による見逃し
– 客観的データの蓄積やトレースが困難

また、工場全体の歩留まり・品質指標を見える化する際も、人の目検査のみでは改善サイクルが回りにくくなります。

高度化する要求:バイヤー・顧客視点のプレッシャー

近年の自動車/医療業界では、「原糸1本1本の異物・欠陥データをトレーサブルに管理」「全数自動検査記録の提出義務」などが要求されるケースが増えています。
サプライヤーの立場からも、これにどう対応しているかは信用評価や入札競争力に直結しています。
このような時流の中、昭和的な「目視と経験」だけでは太刀打ちできないのが現実です。

自動異物除去装置の導入動向と実運用のコツ

最新技術と現場適合:主なタイプと特徴

「人の目」検査の限界を突破するため、ここ数年で原糸検査工程には様々な自動異物除去装置が導入されています。
主な方式には下記のようなものがあります。

– 画像処理カメラ方式:原糸の表面を高速カメラでスキャンし、AIや画像解析ソフトで糸段・ネップ・異物などを自動抽出
– X線・超音波異物検査:繊維内部の異物や空洞を非破壊で検出
– ブロワ式・ピッキング式除去:自動で不良原糸ボビンを払い出し/切り離し

装置の精度向上・高速化が進み、工程自動化ニーズとも相まって導入実績が着実に伸びています。
またIoT連携やAI解析技術も進化しており、検査データと生産工程情報、原糸ロット番号をひも付けて一元管理するシステム化も可能となりました。

実運用でのポイント:“人と機械のハイブリッド化”

ただし「装置さえ入れればOK」ではなく、運用設計が非常に重要です。
私が現場改善で感じたポイントは以下の通りです。

– 自動装置で“検出した”糸段・ネップ不良のしきい値(基準値)設定が肝
→顧客基準・バイヤー要求を正確に踏まえて設定する
– 不良排除後の原糸管理(どのロット、どの工程で除去されたか記録)
– 異常発見時やトレンド把握時、さらに「根本原因調査」に生かす体制
– 最終責任者(現場長・品質管理)がデータを活用する習慣

結局のところ、機械の強み「高速・繰り返し・記録」を生かしつつ、ベテラン現場の知恵、現物知識による判断を組み合わせることが最重要です。
装置頼み一辺倒や「人の目だけ」もNG、両者のバランスが納得品質への近道と言えるでしょう。

サプライヤー&バイヤーの本音:現場対話力の重要性

バイヤーが求めている“見えない不安”とは?

バイヤーの立場で考えると、糸段やネップ不良は厳しい納品判定や指摘と直結しますが、それより恐れているのは「何が混入しているか分からない、見えないリスク」です。

– 不良ロットの混入範囲が特定できない
– 原因究明がサプライヤー任せで、本当のことが分からない
– データや記録が整備されておらず、何となく現場に丸投げ

こうなると、発注先の信用評価は大きく下がりますし、交渉優位性を失いかねません。
逆に言えば、サプライヤーは「どの原糸ロット、どのくらい不良率が生じて、どう排除したか」「発生時の原因アクション記録」というトレーサビリティ(追跡性)がバイヤーの安心材料になります。

“受け身”から“攻め”の現場改善へ

過去の現場経験から言えば、「クレームが来たら対応、それまではとりあえず流す」という受け身の現場文化は、現代の厳しい競争環境では大きなリスクとなります。
ポイントは下記のような点です。

– 「全数検査+自動記録→予防保全型」の生産スタイルへの転換
– 小さな不良であっても“再発防止”につなげる現場報告・フィードバック体制
– 装置データを使った工程改善、目視との差分検証
– バイヤー側への現場見学、データ開示などを通じた“本音対話”

この「攻めの現場改善」を進めるうえで、現場リーダーや管理職の巻き込み、スタッフ一人ひとりの意識教育も欠かせません。

アナログ業界からの脱却とIT活用のヒント

昭和的現場の課題とラテラルシンキング

日本の繊維・原糸業界を含む多くの現場では、「ベテラン頼み」「帳票の二重管理」「検査記録は紙ベース」といった昭和・平成時代からの慣習が色濃く残っています。
これを一気に最新鋭化せよ、というのは現実的ではありませんが、ラテラルシンキング(水平思考)を用いることで、新たな現場デジタル化の道筋が見えてきます。

例えば、
– まずは部分工程のみ、画像判定等の自動化をトライアル導入
– 不良時のアラームや写真付きメールの自動送信化
– 農業や食品業界の異物混入対策の“ベストプラクティス”を応用(異業種から学ぶ)
– クラウド型の工程トレースやモバイル報告ツール導入で“紙→デジタル”への一歩を踏み出す

といった具合です。
一気に大規模化しようとして“失敗例”は多いので、小さく始めて成功事例を積み重ねることも成功の武器となります。

まとめ:現場目線で未来を見通す力

糸段・ネップ混入対策には、「現場ベースでの着実な検査体制」と「技術進化への積極対応」の二本軸が肝心です。
自動異物除去装置やデジタル化によって、バイヤー・サプライヤー双方が不安なく安心して取引できる土台づくりができます。

一方で「現物」「現場」「現実」と向き合い続けるアナログ現場の良さも忘れずに、その知恵や改善力を最大限に生かす姿勢が最終的な差別化に直結するでしょう。

今や世界的な品質競争が加速し、日本のものづくり現場こそ“攻めの品質管理”が問われる時代です。
これから製造業に関わる皆さんに、「現場から新たな価値を創造する」という強い意識で、一歩踏み出してほしいと強く願います。

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