投稿日:2025年8月18日

エネルギー単価の時間変動を工程稼働に反映し電力費を価格に織り込む

はじめに

エネルギーコストは製造業において無視できない経営課題の一つです。
特に近年、電力・ガスの単価はその日の需給バランスや時刻によって大きく変動します。
この「時間変動型エネルギー単価」は、日本の製造現場に大きな影響を与えつつあります。
昭和型の「固定単価・均一稼働」から、令和の「変動単価・最適稼働」へのシフトは、調達担当、工場長、経営層の誰もが避けて通れないテーマです。

そこで本記事では、「エネルギー単価の時間変動を工程稼働に反映し電力費を価格に織り込む」という新しい視点で、工場運営や価格決定をどのように切り拓くべきかを、現場目線の実践的な手法も交えて詳しく解説します。

エネルギー単価の時間変動――なぜ避けられないのか

電力市場の構造変化とコストへの影響

日本の電力市場は、電力取引自由化や再生可能エネルギーの比率増加によって激しく変動しています。
特に「スポット価格」と呼ばれる卸電力市場価格は、早朝から日中、夕方~夜間にかけて数倍〜数十倍にも変動することがあります。
工場がピーク時間帯にフル稼働していれば、従来の通年平均単価では見えてこなかった「ピーク電力コスト」に直撃され、利益が圧迫されてしまうのです。

業界に根強い“固定単価志向”からの脱却

昔ながらの製造業の調達や生産管理では「電気代は年平均で管理」が一般的でした。
多くの現場では、「月間、年間の予算枠」だけで計算し、細かな時間変動には目を向けてきませんでした。

しかし、このアナログな手法から抜け出せずにいる企業は、競合よりもコストハンディを背負い続けることになります。
環境規制や脱炭素化の流れも加速する中、エネルギー使用とそのコストを「ダイナミック」に捉える視点が不可欠です。

工程稼働の柔軟なコントロールが重要な理由

「重い工程」が電力ピークを招く

工場ラインの中でも特に「電気炉」「加熱・溶解」「大型モーター」「コンプレッサー」工程は、ピーク電力の主犯格です。
全工程を一律に稼働させるとどうしても「夜明けとともに稼働開始→“昼間ピーク”帯で重なる」という、最悪の高コスト構造に陥ります。

“工程ごとのタイムシフト”発想の導入

では、どう改革すべきか——―。
ポイントは「単価が安い時間帯に優先的に重い工程を移す」ことです。

たとえば、午前4時〜8時に電力単価が安いなら、その間に焼成工程や溶融工程など電力消費の多いプロセスを集中させます。
逆に日中(9時〜16時)など単価が高騰するタイミングには、軽負荷工程や手作業、あるいは保守・点検を積極的に割り当てるのです。

そのためには、生産スケジューラやMESシステムなどのデジタルツールと現場オペレーションの密な連携が不可欠です。

電力費を製品原価・販売価格へ“適切に織り込む”方法

従来型原価計算の限界

多くの工場では「電力費を月間平均単価×使用量」で原価へ配賦しています。
ですが、時間単位でのエネルギーコスト変動は完全に無視され、繁忙期や電力需給がひっ迫した際のコストアップが反映されません。

このため、原価算出が「実情と乖離」し、販売価格調整や営業判断が本来よりも遅れがちです。

“変動直結型”の原価計算へ転換

理想的な手法は「ライン単位・時間帯ごとの電力使用量」と「時価単価データ」を逐次集計し、「製品原価へリアルタイム反映」する仕組みです。
具体的には、下記のフローになります。

1. 工場ごと、ラインごとの時間帯別電力使用量(スマートメーター活用)
2. 卸電力市場(JEPX)や自社契約単価の時間ごとデータ取得
3. 工程ごとの実績稼働と対応する単価を掛け合わせて細分化した電力原価を算出
4. 社内管理システムへ自動連携→製品原価や販売価格見直しデータとして利用

ここまでやると、「コストを見据えた生産スケジュールの再編成」や「価格転嫁を前提とした計画的な営業活動」が圧倒的に精緻になります。

顧客への「エネルギー変動費」明示・転嫁の工夫

昨今は原材料サーチャージと同様、「エネルギー変動費サーチャージ」を明示する流れが加速しています。
【例】
・月次・四半期ごとに電力スポット単価の変動分を追加請求
・価格表の注記に「電力単価連動制(JEPX *)」と明記
・ピーク時期のみ一時的加算 など

この工夫により、「納得感のある価格調整」が可能となり、バイヤー側も事前にコスト計画を立てやすくなります。
サプライヤー側も「なぜ今月だけコストアップなのか?」の説明負担が大幅に減ります。

デジタル化・フォワードオペレーションの必然性

工場のIoT化とエネルギーマネジメントシステムの進化

“昭和アナログ型”では、現場作業員の経験頼みで工程順序や稼働開始・停止を決めていました。
しかし今や、IoTセンサによる消費電力計測、AI予測による最適化(デマンドレスポンス)、MESと連動した自動スケジューリングなど、デジタルと自働化の融合が主流です。

工場のIoT化は、従来のような「後追い管理」から、「事前にピークに備える」「システム自体が最適風にコントロールする」へ大きくシフトさせます。

人材育成・現場感覚の融合が肝心

ただし、成功のカギは「机上のシステム設計」と「現場感覚」の融合です。
ラインごとの癖や、設備の立ち上がり時間、安全ルールなど、現場でしかわからない“肌感覚”を無視すると、絵に描いた餅で終わります。

そのため、工程ごとの責任者・班長・オペレーターからボトムアップで意見を吸い上げる「現場主導型のシステム構築」が最重要です。
現場とIT部門が連携してデジタル化の“現実解”を追求するべきです。

バイヤー・サプライヤーの双方が知っておきたい業界動向

プライシング交渉で問われる「合理的コスト根拠」

購買側(バイヤー)も、サプライヤーの価格改定要請を鵜呑みにはしません。
エネルギー費相場、稼働パターンの違い、周辺工場とのコスト差――こうした根拠明示の有無が商談の成否を決めます。
従来より「見える化」に優れる新手法を採用することで、双方が納得感のある価格調整が実現します。

サプライヤーに求められる「説明責任」と「柔軟性」

バイヤー視点では、「変動費連動制」や「ピーク回避策」の導入状況、電力安定供給リスクへの備え等の施策を明瞭に説明できるサプライヤーには信頼感が高まります。
同時に、社内稟議や会計処理の事情に合わせたサーチャージ方式や、契約更新サイクルへの調整提示など“柔軟なカスタマイズ力”も歓迎されます。

まとめ/新時代の工場経営・原価管理の到達点

電力をはじめとする「エネルギー単価の時間変動」をいかに現場生産活動へ反映させるか。
これは単なるコスト押さえの発想に留まりません。
工場経営そのもののあり方、バイヤー・サプライヤー双方の関係性、メーカーとしての社会的責任をどう果たすか――現代製造業の根幹テーマです。

【具体的なアクション】
・工程ごとの時間帯別エネルギー原価集計と反映
・ダイナミックプライシング(変動費連動契約)の導入
・IoTによる工場全体のデジタル制御・自動化推進
・現場と経営、営業、ITが一体となった現場主導の運用
・取引先にも納得される形での価格改定、説明責任

昭和的アナログ管理から抜け出し、「変動をチャンスに変える」発想と体制構築こそが、これからの時代を勝ち抜く製造現場の新常識です。
各社が早期に意識改革に取り組み、より合理的で納得感のあるサプライチェーン構築へ、その第一歩を踏み出すことを強くおすすめします。

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