投稿日:2025年11月11日

陶磁器カップの製版で焼成時のズレを防ぐための基準マーク設計と版配置

はじめに:陶磁器カップ製版における焼成時のズレとは

陶磁器カップの生産現場では、製版作業における「焼成時のズレ」が長年にわたり現場を悩ませる要因となっています。

焼成プロセスを経ることで、素地や絵付けの部位がわずかに歪み、絵柄やロゴなどが理想の位置に収まらないことが多々発生します。

特に昭和時代から続くアナログな作業手順や目視確認が色濃く残る現場では、“なぜズレるのか”に対する本質的な理解や対策が後回しにされがちです。

しかし、バイヤーや最終顧客にとってズレのない、美しい製品品質は厳格に求められます。

本記事では、私の長年の現場経験や最新の業界動向も交えながら、焼成時のズレを構造的にとらえたうえで、基準マーク設計と版配置のポイント、現場で実践できる最適解を解説します。

焼成時に生じるズレの本質とその要因

なぜ焼成でズレるのか?根本原因の解剖

陶磁器の焼成工程では、型に流し込まれた素地が1200℃前後の高温で焼き締められるため、素材自体の膨張や収縮が不可避です。

また、版を用いた加飾(転写、シルク印刷など)部分についても、インクや釉薬の流動、乾燥過程での移動、下絵紙の膨張といった細かなズレ要因が複雑に絡み合います。

昭和期から続く生産ラインでは、作業員の熟練度に頼った「勘・経験・度胸(KKD)」による版配置が主流で、自動化やデータによる管理が遅れがちです。

そのため、同じ版を同じ型に乗せたとしても、毎ロットごとに焼成ズレのパターンが変わることがよくあります。

消費者とバイヤーの品質要求の変化

かつては「ちょっとしたズレも陶磁器のあじ」と受け止められることもありました。

しかし近年は顧客ニーズやバイヤーの品質要求が大きく変化し、数ミリのズレさえ「不良」と判断されることが一般的です。

特にブランドロゴ・記念品など、法人向けの大量案件においては、焼成後の誤差と再現性を極小化するための設計・製版ノウハウが成果を左右します。

ズレを最小化する“基準マーク設計”とは

基準マーク導入の意義とメリット

基準マークとは、「ここを核にして絵柄やロゴの配置を決める」という物理的な基準点を素地または型に設定することです。

これにより、作業者の主観によるズレや配置ミスを減らし、工程ごとの確実なトレーサビリティを担保します。

現代の製造現場においては、“一貫した品質を安定供給する”ための根本的な対策として、基準マークの設計が不可欠になっています。

実際の基準マーク位置の決め方

カップ型陶磁器において基準点を設定する場合、把手(ハンドル)の位置やカップ底部に主基準を設けるのが一般的です。

例えば、以下のように設計するケースがあります。
・“底面外周部の特定位置を0点とし、そこから時計回りに◯度の位置に版配置を合わせる”
・“ハンドル真裏を基準線とし、そこから左右何ミリ・何度で中央モチーフを配置する”

これにより、未焼成状態だけでなく、焼成後の微妙な縮みにもロジカルな補正が効かせやすくなります。

基準マークは“消せるもの”で設計を

実作業では、仮に基準マークの一部がうっすら製品表面に残った場合、あとから簡単に消せる(例:焼成により消失する、あるいはインクで薄く仮付けしただけで拭き取れる)ように工夫すると、作業しやすさと生産性の両立が図れます。

焼成プロセスまで見据えた“版配置”の深層設計

焼成収縮率を反映した版データ設計

現在多くの現場で見落としがちなのが、“実際の焼成収縮率”を考慮した版データの設計です。

陶磁器工場独自の土質(陶土の種類)、焼成温度、型サイズなどによって焼成後の縮み率は5%前後変動し、小さなカップでも1~2ミリのズレが発生し得ます。

この傾向値を現場・品質管理と連携し、過去実績データを収集・分析することで、

「版データを何%拡大・縮小補正し設計するか」

「モチーフ配置位置を基準マークから何mm内寄せ・外寄せするか」などを標準化できます。

現場と製版・転写工程の綿密なすり合わせが重要

製版担当者と現場作業員が“机上理論”だけでなく、リアルな製品サンプルで実際に焼成後のズレを試作検証し、その結果セットでフィードバックを受ける“現場起点のPDCA”を習慣化するのが理想です。

バイヤーからの急なお題、サプライヤーとしての納期短縮要請が舞い込んだ際も、こうしたデータベースがあることで的確な根拠をもって調整提案できます。

アナログ現場とデジタル化の融合で新時代を拓く

ベテランの“勘所”をデジタルに落とし込む

昔ながらの職人による“手元の感覚”は実は非常に高度なノウハウの結晶です。

この隠れた知見を「デジタル化」し、専用の版位置マニュアルやQRコード記録、画像解析を活用した仕組みに展開すれば、新人作業員や異業種からの多様な人材がミスなく対応できるようになります。

「この型ならハンドル裏基準から5mm左に版を寄せれば焼成後に真ん中に来る」「冬場は収縮率が上がるので3%余裕をみる」といった現場の知恵を、具体的な数値でナレッジとして残す工夫が必要です。

AI・画像処理によるズレ判定と自動補正の可能性

近年、大手メーカーでは画像認識を活用し、製版工程や焼成後サンプルの微細なズレを自動解析し、フィードバックループを設計する事例も増えてきました。

こうした最先端技術と現場の生きたノウハウが融合することで、さらに高い品質と歩留まりを安定的に実現することが可能となります。

サプライヤーとバイヤーが協創する“新しい価値”の創出

バイヤー視点で見る基準マーク・版配置の重要性

バイヤーの立場から見ると、“出来上がった製品”だけで品質を論じるのでは遅く、企画・設計段階から
「焼成ズレリスクをどう抑え、安定品質を担保できるか?」
を具体的に打ち合わせできるサプライヤーか否かで評価が大きく分かれます。

ロットごとに品質評価基準を明確にし、基準マーク設計・焼成補正値など“見える化”して透明性の高い報告体制を整えることで、厳しい品質要求にも柔軟に対応できる体制が築けます。

OEM/ODMでも信頼を呼ぶ“現場力”をアピールしよう

これからの製造業サプライヤーは、単なる「作業請負」から一歩進み、「工程設計の論理」「ズレ最小化の設計思想」まで含めた提案力が武器になります。

「基準マークを設けてPDCAを高速化しています」
「焼成ズレを事前に予測値で補正しています」
といった現場独自の工夫や実績事例を積極的に発信し、信頼を勝ち取ることが何より重要です。

まとめ:昭和から現代へ、工場現場で進化する製版技術と品質管理

陶磁器カップの製版では、未だアナログ要素が現場に色濃く残っていますが、今こそ
・基準マークの設計と徹底活用
・データ蓄積による再現性・最適化
・デジタル技術との融合でPDCA高速化
を推進することが大切です。

バイヤー、サプライヤー、現場作業者が一体となり、熟練の知恵と最新技術を組み合わせれば、“焼成ズレ”という課題も他社との差別化ポイントへと変換できます。

これまで蓄積してきた現場力を時代に合わせてアップデートし、「これぞ日本のものづくりの進化系だ」と誇れる製品づくりに、ぜひ一人ひとりが挑戦していきましょう。

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