投稿日:2025年10月1日

デザイン性のない報告が経営会議で却下される失敗談

デザイン性のない報告が経営会議で却下される失敗談

はじめに – 製造業現場で起きがちな「数字だけ」の報告

製造業の経営会議や報告会で、「これだけの実績を数値で明確に示しているのに、なぜ却下されたのか?」と悔しい思いを経験した方は少なくないでしょう。
技術や現場重視の空気感が強く残る昭和型のアナログ業界でも、その傾向は根強く存在しています。
そして実は、この“数字だけ”を伝える報告が経営層の心に響かず、せっかくの取り組みや改善提案が却下されてしまうという失敗は、製造業のあらゆる現場で繰り返されているのです。

筆者自身も、生産管理・調達購買・品質管理・現場監督といった現場の最前線で報告業務や経営会議と向き合ってきました。
今回は、現役世代やバイヤー志望者、またはサプライヤーの立場で「バイヤーの思考」を学びたい方まで、すぐに現場で活かせる“経営層に通る報告のデザイン性”について、失敗事例を交えながら深掘りしていきます。

なぜデザイン性のない報告は却下されるのか

「デザイン性」と聞くと、華やかなグラフィックやビジュアルをイメージされるかもしれませんが、ここでの「デザイン性」とは「情報設計力」と言い換えることができます。
要するに、「相手が理解しやすく、行動を起こしやすい形で情報を伝える能力」です。

では、なぜ経営会議では数字や表だけでは通らず、情報設計・デザイン性を求められるのでしょうか。

意思決定は情報の「納得感」で動く

経営層は膨大な案件や課題を毎日同時並行で判断しています。
その判断軸は「論理」と「直感」の両方。

しかし現場と違い、経営層には現場の生々しいニュアンスや苦労が伝わりにくいのです。
数字だけの報告では「現場の熱量」や「未来の意味」がわかりません。

つまり、
「なぜこの改善案でなければならないのか?」
「この報告の裏にどんな現場の問題意識や期待があるのか?」
「経営判断として投資やリソース割り当てをして損はないか?」
その“納得感”につながるストーリーが映像的に浮かばない限り、決裁サインをもらうのは難しくなるのです。

典型的な失敗例 – 数字で満足してしまう現場

例えば調達購買の現場で、コストダウン提案を経営会議に通そうとしたときのことです。

【失敗例】
「部品AをB社からC社へ切り替えれば、年間1000万円のコストダウンが可能です」
というデータのみを提示。

すると経営層からは、
「なるほどコストダウン効果は理解できるが、なぜC社なのか?品質や納期リスクは?現場はどう受け止めているのか?」
「既存サプライヤーとの関係性や今後の調達戦略にどう影響する?」

こうした“経営視点”の疑問が噴出します。

表やグラフだけ、あるいはプレーンな数値の説明に終始していたため、報告書もプレゼンも説得力を欠き、結局は
「現場もう一度整理して、ストーリーも添えてから再提出してくれ」
で不承認、という結末になってしまいました。

このような失敗は現場でよく見られる現象です。

「伝わる報告」の本質は“共感を呼ぶ情報設計”

数字や結果を羅列するだけでなく、全体像や背景を図解し、
「現場でどんな課題があり、どんな葛藤があり、それを打破するための今回の打ち手がどれほど価値があるのか」
を伝えることが求められます。

具体的には、
– 背景や課題を一枚絵で見せるビジュアル設計
– ストーリーテリングで「なぜ今この提案なのか」の歴史性
– 一目で現場感やリスクが分かるアイコンやチャート
– 実施前後の比較を「体感値」として訴求
– 現場の声(エビデンス)の引用を混ぜる

など、経営層の共感を引き出し、“数字の裏にある現実”を可視化できる報告資料が欠かせません。

昭和型アナログ業界に根付く「現場重視」の落とし穴

製造業は伝統的に「技術・現場がモノを言う」文化が強い業界です。
数字は絶対、統計こそ事実、という意識が未だ昭和の時代から根付いています。

そこでありがちな現象が、
「本来は現場の知恵や工夫、挑戦心や熱意こそ価値の源泉なのに、それを“可視化しきれず”数字のみで説明し、肝心の思いが伝わらない」
という構造です。

経営層も現場出身者が多いため、
「現場での説明が今ひとつピンとこなければ、決裁しない」
「数字は大事だが、数字“だけ”では意思決定しない」
という無意識の判断が働き、なかなか現場提案が通りにくいのです。

サプライヤーやバイヤーも同様で、経営層や意思決定者の感情や共感を引き出したいのであれば、単なる数値報告から一歩進んだ、ストーリー性とデザイン性が必要不可欠です。

現場が求められる「データ×意味×ストーリー」の三位一体設計力

これからの製造現場・バイヤー・サプライヤー人材が意識すべきなのは、ただKPIやコストダウン、リードタイム短縮を列挙するのではなく、

「この数字の裏に、どんな苦労や工夫、現場のドラマがあるのか」
「その課題解決によって会社はどのように生まれ変わるのか」
「自社の調達・生産体制・サプライヤー戦略の未来像まできちんと語れるか」
といった“ストーリー性”です。

その上で、
– 相手が納得する「Before/After」の体感イメージ
– アナログ現場でも直感的に理解できる図解やイラスト設計
– 数字に「現場の肌感」「イレギュラー対応」「暗黙知」を加味した説明
– 現場関係者の声や取組みエピソードの挿入

といった「伝わる報告=デザイン性×ストーリー×データ」の三位一体を設計する力が重要です。

実践方法 – 明日からできる“伝わる報告”三つのポイント

1. **背景・目的を10秒で伝える一枚図解を用意する**
現場の課題や経営判断の狙いを、一目で理解できる図やフローで示します。
数字の羅列ではなく、「どんなストーリーがあるのか」を可視化する工夫が大切です。

2. **報告内容ごとに「現場視点の物語」を挿入する**
たとえば改善案なら、「こんなトラブルが現場で起きている」「現場作業員やラインリーダーの声」など具体的事例を交える。
経営者がその場にいるかのような情景を想像できるように、物語として短くまとめます。

3. **意思決定後の未来像・リスクもビジュアルで示す**
決裁者はリスク管理も重視します。
改善案を採用することでどんな成果につながるのか、懸念点やリカバリー策まで整理されたフローチャートやイラストで示し、安心感を醸成します。

最後に – 失敗を無駄にしない現場力の進化へ

デザイン性のない報告でせっかくの提案が却下されてしまう経験は、現場を持つ製造業なら誰しも通る道です。
その悔しさや葛藤を乗り越え、自分やチームの報告に「物語を持たせる」「相手目線の情報設計へ進化する」ことが、昭和型から脱却する“新しい製造業”への第一歩となるでしょう。

現場経験を武器にした、数字だけで終わらない“伝わる提案力”を身につけ、これからの製造業バイヤー、サプライヤーとして「共感と意思決定を動かす一流人材」を目指してください。
報告は、現場と経営をつなぐ“未来をつくる言葉”です。
失敗を糧に、更なる高みへ挑戦していきましょう。

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