投稿日:2025年11月8日

ジャケットの襟が立体的に見える芯地とプレスの関係

はじめに:ジャケットの襟が与える印象の重要性

ジャケットの襟(ラペル)は、装いの印象を大きく左右します。

ビジネスシーンやフォーマルな場面において、襟が立体的に美しく仕上がっているジャケットは、着る人の品格や信頼感を高めます。

この襟の立体感を生み出す要素として、「芯地」と「プレス技術」の組み合わせが非常に重要です。

本記事では、製造業における実践的な現場目線で、ジャケット襟の芯地とプレスの関係、そして昭和的なアナログ工程と最新技術の融合のポイントについて、深掘りしていきます。

バイヤーやサプライヤーも現場のものづくりの知識を深め、判断軸を強化できる内容となっています。

芯地とは何か:襟の骨格を担う「名脇役」

芯地の役割

ジャケットの襟は布だけで美しい立体感や丸みを出すことはできません。

そこにそっと忍ばせる「芯地」が、襟の形状を保ち、絶妙なハリや柔らかさを作り出します。

芯地とは、表地の内側・裏地の間に入れて布地にふくらみや強度、安定感を与える素材のことです。

特に襟部分には「ラペル芯」と呼ばれる専用の芯地を使い、それぞれのブランドごとに独自の配合や厚みを決めることが多いです。

芯地の種類と特性

芯地にはウール、バイリーン、ポリエステル、不織布などさまざまな素材があります。

ウールの天然素材は柔らかい曲線や包み込むような立体感を作りやすく、一方で合成繊維は強度や量産時の扱いやすさに優れています。

バイヤーの皆さんが注目するべきは、それぞれの素材がもたらす最終的な見た目と機能性です。

ブランドの方向性や用途に応じて、どの芯地がふさわしいか現場と対話する姿勢が求められます。

プレス工程の役割:職人技が仕上げに宿る

襟に命を吹き込むプレス作業

芯地が布地の中で骨組みとなっても、襟が平坦なままでは立体感や高級感は生まれません。

そこでカギを握るのが「プレス工程」です。

生地と芯地を重ねた状態で、専用のアイロンやプレス機で温度・圧力・時間をコントロールしながら整形していきます。

このとき熟練した職人は、生地の縮絨具合や芯地の伸び・縮みを見極めながら微妙な手加減と角度でプレスを行い、襟先の絶妙な丸みや反り返りを作り出します。

この一連の職人技によって、襟がまるで生き物のように立ち上がるのです。

アナログプレスと最新設備の融合

昭和から続く職人によるハンドプレスの技術は今も受け継がれています。

一方で、近年は自動プレス機やAIを利用した温度・湿度管理など、デジタル技術の導入も進んでいます。

ベテラン職人が感覚で判断してきた最適な圧力や動作をデータ化することで、量産時の安定再現が可能になりました。

バイヤーとしては、どの工場が〈どこまで手仕事にこだわり、どの部分を自動化しているか〉を見極めるスキルが求められます。

プレス工程の見学は、サプライヤー選定の判断材料として非常に有効です。

製造現場で起こる課題とその対策

襟の立体感はなぜ崩れるのか?

現場でよく問題になるのは「襟がペタッと寝てしまう」「着用するとすぐに型崩れする」といった現象です。

その多くは、芯地の貼り付け精度・プレス温度・湿度管理・縫製時のテンションコントロールの不備から生じます。

特に大量生産工程では、限られた時間で効率よく作業を進める必要があるため、芯地のセッティングやプレスの加減が疎かになりがちです。

このような課題は「最終仕上げ工程でカバーする」のではなく、「各工程ごとの分業連携」「芯地・プレス工程の管理基準明確化」など現場力の強化でしか解決できません。

デジタル化・自動化時代の新しい課題

AI付きプレス機や自動芯地貼りマシンが導入された現場では、今まで人間の勘や職人の経験だけで対処していたことが、数値データで「見える化」されています。

しかし、このデータと職人の感覚との差分や、芯地の微妙な個体差への対応、マシンの不具合対応など、また新たな技能が必要となります。

サプライヤーの立場では「設備だけでなく、その管理をうまく回す人材がいるか」「従来の手仕事の知見が現場に残っているか」を自社の強みとしてアピールできるかが競争力の源泉となります。

昭和アナログ業界の強さと変革の必要性

職人技の価値は今も健在

昭和時代に確立された手仕事文化は、日本の高品質ジャケットの礎です。

この職人技は世界に通用する競争力にもなります。

一方で、職人の高齢化や技術伝承の遅れ、人手不足による現場力の低下という問題も顕在化しています。

芯地一つとっても、「この生地にはこの厚み」「この型紙にはこの曲げ方」など、経験の蓄積が即、仕上がりに反映されていました。

バイヤーにとっては、こうした熟練工場とのパートナーシップや、技術継承への投資にも注目していく必要があります。

脱アナログ時代への展望

製造業の現場は、今や技術革新の波にさらされています。

アナログな手仕事とデジタル化・自動化の融合が求められ、芯地やプレスにおいても「標準化された工程」「再現性」「省人化」と「伝統技術の残存性」の両立がポイントです。

昭和的な現場目線を活かした品質の高さを武器としつつ、未来志向で工程の可視化・標準化を進めることが、ブランドやサプライチェーン全体の競争力向上に繋がります。

バイヤー・サプライヤーは何を見るべきか

現場を見る目、会話する力

バイヤーはサプライヤーの「芯地選定・加工力」「プレス工程の安定性」「どの程度の標準化と職人技が融合しているか」を客観的に見極める力が必要です。

単にコスト・納期だけでなく、「仕上がりの美しさ・再現性」「工程管理の安定度」といった現場力も重視しましょう。

一方サプライヤーは、現場の技術力を「言語化」し、アピールすることが現代では求められます。

「うちの職人はすごい」だけでなく、「最新設備とどのように組み合わせているか」「再現性・安定的生産をどのように実現しているか」を伝えることで、信頼や案件獲得に繋がります。

まとめ:ジャケットの襟は技術と知恵の結晶

ジャケットの襟の立体感は、単なる材料や機械だけでは決して再現できない、芯地とプレスという二つの工程の融合で生まれます。

昭和から続く職人の技術と、現代の自動化・標準化のバランスが、品質と生産性を両立させています。

製造業バイヤーは、こうした現場の知見にアンテナを張り、サプライヤーは自社の知恵・強みを正しく伝えることで、新時代のものづくりにつなげてほしいと思います。

ものづくりの現場が持つ奥深さと、革新への可能性を、これからも現場目線で発信し続けていきます。

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