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関税分類の誤りで輸入差止めを受けたときの救済申請と事前教示活用法

目次
関税分類の誤りで輸入差止めを受けたときの救済申請と事前教示活用法
はじめに:製造現場で頻発する関税分類の壁
製造業に携わっていると、国際取引の中で避けて通れない関税問題に直面することが多々あります。
特に、新たな原材料や部品、機械を海外から輸入する際は、輸入申告時の「関税分類(HSコード)」が正しいかどうかが極めて重要です。
関税率はカテゴリによって大きく異なり、分類の誤りは単なる追加課税に留まらず、最悪の場合「輸入差止め(税関での貨物の留置き)」に繋がることもあります。
今回は、長年の実務経験を交えつつ、関税分類の誤りによるトラブル発生時の救済申請手続き、そして再発防止に役立つ「事前教示制度」の活用方法を丁寧に解説します。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとしてバイヤーの思考を知りたい方にも、現場目線の実践的な指南となる内容です。
関税分類の基礎:なぜ誤るのか?
関税分類(HSコード)とは
まず、HSコード(Harmonized System Code)とは、国際貿易で取引されるあらゆる物品を世界共通のルールで分類するための番号です。
この番号によって税額が決まり、輸入可能品目の可否、必要な手続き、さらには輸入制限品の識別までが行われます。
特に製造業の現場では、「部品単体なのか完成品なのか」や「組み合わせ品の評価(税関通称サブアッセンブルか完成品か)」によって分類が異なる場合が多く、ちょっとした記載ミスや解釈の違いが大きなトラブルを招きます。
現場で起きやすい関税分類誤りの実例
たとえば、工場の自動化設備として輸入したパーツが「単なる鋼板」扱いになると思ったのに、実は「機械の部分品」としてより高い税率が適用されたケース。
また、同じ電子基板でも用途(産業用か家庭用か)の違いで関税が変わることがありますが、現場担当者や貿易事務がカタログや仕様書だけで分類してしまい、意図せぬ課税を受けることもあります。
昭和時代から続く“現場の勘”やアナログな運用に頼っている企業ほど、最新のHS制度改定や輸入制限リストの更新についていけていないという課題も根強いです。
関税分類の誤りによる「輸入差止め」 発生時のリスク
輸入差止めがもたらす現場インパクト
もしHSコードの誤りを指摘された場合、貨物は通関できず、「一時差し止め」となります。
ここでの主なリスクは以下のとおりです。
・予定納期の大幅な遅延(生産ラインの停止や納入遅れ)
・保管料、蔵置料などの発生(港湾での長期保管コスト)
・関税追徴や制裁措置(場合によってはペナルティ付き課税)
・最悪の場合、貨物の没収や再輸出命令
特に調達購買や生産管理、サプライヤー側から見ると、上記によるサプライチェーン断絶、信頼毀損は一企業の経営を根底から揺るがす危機となるでしょう。
輸入差止め時の救済申請〜具体的な手続き〜
まずやるべきこと:差止め通知の確認と状況把握
税関から「差し止め通知書」を受領したら、まずは指定された内容を冷静に確認しましょう。
・指定されたHSコードと自社が申告した内容の違い
・なぜそのカテゴリになったのか(税関の根拠や見解)
・追加書類や説明が求められている範囲
多くの場合、製品仕様書・用途説明・組立図・サンプル品など、追加証拠が要求されます。
現場や開発部門と連携し、客観的かつ正確な情報を迅速に提出することが重要です。
事後修正申告と異議申し立て
もし自社の主張が認められない場合、「異議申立て手続き」が可能です。
この場合、申告者(原則として輸入者=バイヤー)が直接、税関長宛てに異議申立書を提出します。
内容には、
・貨物の詳細な物理的仕様
・用途および自社での利用状況
・世界的な通例分類や、他国の分類実績
・必要に応じて第三者(メーカー等)からの証明書
等を盛り込みます。
税関の判断に納得できない場合、法律上「税関長の裁決」に対して不服申立てや、その後に裁判所に行政訴訟することもできますが、これには相当の時間と労力が必要です。
現場で役立つコツ:情報提供は「客観的かつ論理的」に
昭和から続く伝統的アプローチで、主観的な語りや「うちの業界では…」という論拠は通用しません。
仕様書、成分表、技術基準書、実際の使用現場の写真や導入履歴など、確たる証拠をもとに、理路整然と主張することが説得力となります。
また、同様の物品輸入履歴があれば、過去の通関記録(インボイス、輸入許可証)を活用するのも有効です。
再発防止の鍵〜事前教示制度の戦略的活用〜
事前教示制度(Advance Ruling)とは何か
関税分類の誤りを未然に防ぎたいなら、税関が運用する「事前教示制度」を積極的に活用しましょう。
これは、輸入前に貨物のサンプルや仕様書を税関に提示し、「この物品はどのHSコードが該当するか」を“公式に教えてもらう”仕組みです。
一度、事前に税関が判定した分類に従えば、原則として後日覆されることはありません。
手続きのポイントと現場目線のアドバイス
事前教示を使う際は、以下を意識するのが現場でのキモです。
・輸入前にできるだけ早く申請(リードタイムに注意)
・サプライヤー(海外メーカー)から詳細データを必ず入手
・技術部門や品証部門とも連携し、資料の正確性を担保
・想定用途や日本国内での利用実態まで明記
また、「同系統・類似品」でもちょっとした仕様差で分類が変わる場合があります。
可能なら、見込み輸入品すべてについて事前教示を取るのが理想ですが、業務効率を考え「金額規模が大きい品」「初めて導入する規格品」など優先順位を付けるのも現実的な施策です。
知っておくべき事前教示の注意点
事前教示結果は、「特定の物品・特定の輸入条件」にだけ有効となります。
量産時や仕様変更時、サプライヤー変更の際は、あらためて教示を取り直す必要があるケースもあります。
また、他の企業名義の教示結果を自社に適用することはできませんので、「自社として」公式に判定を受けることが現場リスクの低減に直結します。
まとめ:デジタル時代のバイヤー・サプライヤーが取るべき関税戦略
現場目線のアクションプラン
1. HSコードは絶対に“現場の勘”ではなく、最新ルール・根拠をもとに。
2. 新製品や新規サプライヤーとの取引では、必ず事前教示を活用。
3. 輸入差止めが発生したら、冷静かつ迅速に追加資料を準備し、客観的事実を元に説得。
4. 社内の関連部門(調達・品証・技術・輸出入担当)連携体制を強化。
5. HSコードや輸入関連法規制の最新動向は常にキャッチアップ。
バイヤー・サプライヤーの関係性強化へのヒント
関税分類の正確さは単に自社にとどまらず、サプライヤーとの健全な関係構築や、グローバルサプライチェーンの安定運営の土台となります。
特に、今後はAIやデジタルツールも活用しつつ、「人」の判断・現場知見も融合させる柔軟な対応力が問われます。
「なぜ今この品物をこのコードで輸入するのか」を全社で共通認識として持ち、変化の早い時代でもたくましく対応できる現場体制をつくりましょう。
現場×経営×時代を横断するラテラルシンキングが、真の競争力を生み出します。
今後も製造業の現場から、最前線の知見を発信し続けていきます。
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