投稿日:2025年10月4日

現場会議で繰り返される恫喝が生む心理的安全性の欠如

はじめに ― 恫喝が当たり前だった製造業の現場

日本の製造業では、いまだに「現場は厳しくあって当然」「怒鳴ることで人が育つ」という昭和型の指導スタイルが根強く残っています。
実際、現場の会議室やライン周りでは、プロジェクトの遅延や品質トラブルの際に大声で怒鳴り、部下を恫喝する光景が今も珍しくありません。

私自身、20年以上にわたり調達購買、生産管理、品質管理、工場長として多くの会議に参加し、この“怒号の文化”をくぐり抜けてきました。
しかし、今やグローバル競争やデジタル化の波が押し寄せる中、このスタイルがもたらす弊害が浮き彫りになっています。

本記事では、現場会議で恫喝が繰り返されることが現場やサプライヤー、バイヤーの心理的安全性をどのように損ない、どう改善すべきかを、現場経験者の視点で深掘りします。

現場会議の「恫喝」はなぜ生まれるのか

従来型製造業に根付くヒエラルキー文化

製造現場は「ミスは許されない」「上意下達が絶対」という圧倒的な階層社会が築かれてきました。
古い世代は「黙って言うことをきけ」「納期遅延や不良発生は絶対悪」と無言の圧力をかけ、エスカレートすると大声で威圧することも当たり前でした。
その理由は、品質クレーム一つで取引が失われる、客先から指摘があると会社全体に損失が及ぶという熾烈な責任意識からきている面もあります。

会議が「叱責」の場になる構造的な原因

実際の現場会議では以下のような場面で恫喝が起こりがちです。

– 生産トラブルやクレームの報告時
– 納期未達が発覚した際の責任追及
– KPI未達へ対策を詰める進捗レビュー

多くの会議が「なぜ起きたのか説明しろ」「徹底的に原因を出せ」と問い詰め型になり、本来の問題解決よりも“吊し上げ”や“自己保身”の空気が支配します。
「下手に説明すれば余計怒られる」「上司の顔色をうかがう」風潮が蔓延し、新しい視点や本質の議論ができなくなります。

恫喝が生む心理的安全性の欠如

心理的安全性とは何か

「心理的安全性」とは、Googleの研究で話題になった、チームのメンバーが失敗や意見表明をしても心理的リスクを感じない職場環境を指します。
心理的安全性が高ければ、社員一人ひとりが自発的に意見を出し、新しい学びや改善案が生まれやすくなります。

恐怖が現場を“思考停止”に追い込む

恫喝が蔓延する現場会議では、

– 失敗を隠す、報告が遅れる
– 問題の根本原因より表面上の対症療法に終始する
– 本音が言えない、現場の声が経営層に届かない

こうした現象が頻発します。
私の経験でも、本来報告されるべきライン不具合や品質データが「上司に怒鳴られたくない」心理から現場でトーンダウンされ、後手後手になったケースが少なからずありました。
「どうせ言っても怒られるだけ」と感じる現場からは、改善や挑戦の芽が摘まれてしまうのです。

イノベーションを阻害する“恫喝文化”

現場にとって見逃してはならないのが、恫喝による心理的安全性の低下は「イノベーション(変革や改善)」の大敵である、ということです。
デジタル化、省人化、グローバルサプライチェーン…製造業の大変革期に最も必要なのは、現場の多様な知恵・失敗から学ぶ姿勢です。
「新しい設備を導入したい」「現場の工夫を全体に展開したい」と思っても、上司の顔色をうかがう風土では、誰もリスクある提案はしなくなります。

サプライヤー・バイヤーにも広がる弊害

恫喝は社内にとどまらない

厄介なのは、こうした恫喝の文化が社内会議だけでなく、取引先のサプライヤーとの会議や交渉にも染み出している点です。

– サプライヤーが品質トラブルを起こした際に怒鳴りつける
– 費用値下げ要請で威圧し一方的な交渉を仕掛ける

その瞬間、サプライヤー側も「表向き合わせているだけ」「なるべく自社の不利な情報は出さず、指示された範囲でだけ動こう」と心理的な防御モードに入ってしまいます。

バイヤーの本音も伝わりにくい

逆もまた然りです。
バイヤー側も「上司に詰められたくない」と忖度して、実は本当に必要なコストダウン策や仕入れ先の技術力活用を積極提案しなくなります。
これでは、安価な購買ばかりでモノづくり競争力の本質的進化につながりません。

グローバル取引における日本的“恫喝”の危うさ

海外のサプライヤーや外資系バイヤーからは、日本企業の「会議で激昂」「問題発生時に犯人探し」「謝罪要求」文化はしばしば理解不能と思われています。
グローバルサプライチェーンの時代、こうした古い商習慣は多様性や信頼の構築を著しく妨げます。

現場目線で考える:心理的安全性を高める具体策

1. 問題“個人”ではなく“プロセス”に焦点を

トラブルやミスが発生したとき、個人を感情的に責めるのではなく、必ず「なぜこのプロセスで失敗したのか」と現場作業や工程設計に原因を求めましょう。
形式的な「再発防止報告」ではなく、現場の作業員・管理者も巻き込んだ“なぜなぜ分析”を徹底することが重要です。

2. 反省会を「学びの場」へ変革

定期的な現場会議を、ミスや失敗を“責める場”ではなく“ナレッジシェアの場”へ切り替えましょう。
私が実施した現場では、「今回は○○ラインで○○トラブルがあった。どうしたら次は未然防止できるか?」と全員で知恵を出し合う形式に変えることで、参加者自ら課題提起しやすくなりました。

3. 現場の“成功体験”を積極的に称賛

「○○さんが改善したこの仕組みでトラブルが減った」「今回は新しいアイディアで効率が上がった」など、現場主導の成功も、管理職やバイヤーからしっかり言葉で承認することが重要です。
これが現場の士気向上と自発的な改善活動を促します。

4. サプライヤーと“パートナーシップ型”の会議へ

サプライヤーとのミーティングでは「問い詰め」「吊し上げ」にせず、「一緒に原因究明し再発防止を考える」「お互いの情報を開示して課題に立ち向かう」姿勢にシフトしましょう。
例えばトラブル報告に対しても「なぜこのようなトラブルが起こったのか、どういうサポートが出来るか」と対話型にし、責任追及よりも連携重視の文化を醸成します。

5. 管理職・バイヤー研修による意識変革

リーダー層に対しては「恫喝が及ぼす影響」「心理的安全性の基礎」「傾聴や共感のコミュニケーション」などの研修やワークショップを根気よく行うことが重要です。
これを年次評価や昇進要件に組み込むことで、現場の文化自体が本質的に変わっていきます。

アナログ業界だからこそ“変革”の余地あり

もちろん、昭和型意識が根深い製造業界では「今どき温いこと言っても現場は変わらない」「結局最後は怒鳴らないと通じない」という声もあがるでしょう。
しかし、現場主義にこだわるからこそ、地道な対話やロジックを重ね信頼を築くことでしか、真のチーム力・“現場力”は伸びません。
逆に今こそ、アナログ的な現場で「心理的安全性」を土壌に据えれば、変革は二乗三乗のスピードで進みます。

まとめ ― 昭和の恫喝会議から未来型現場へ

日本の製造業は“現場力”を武器に世界をリードしてきました。
しかし、恫喝による指導や恐怖で支配する会議文化は、もはや技術革新やグローバル競争のスピードについていけません。

責任追及型の会議から、現場が自由に意見を言え失敗から学べる「心理的安全性」の高い職場環境へ転換することが―
サプライヤーもバイヤーも、現場担当者も管理職も、全員の成長・現場力の底上げ・持続的な競争優位へとつながります。

現場で恫喝が日常だった時代を経験した者として、今こそ自らの会議スタイルを見直し、小さな変化から始めましょう。
それが、「強いものが勝つ製造現場」から「心理的安全性で創造性あふれる製造現場」への、最善の第一歩となります。

You cannot copy content of this page