投稿日:2025年10月27日

地元企業がオリジナル製品を作るときに必要なリサーチ・ストーリー・機能の三位一体

はじめに:製造業現場から見る新しい「ものづくり」の必要条件

製造業に長年携わる中で、地元の中小企業がオリジナル製品を世に送り出すプロセスには、特有の難しさと醍醐味が存在すると感じます。

一方で、DX(デジタルトランスフォーメーション)の波に飲まれきれず、昭和流の「勘と経験と根性」が色濃く残っている現場も多いのが現状です。

その中でこれからバイヤーを志す方や、サプライヤーとしてバイヤー心理を知りたい方のためにも、地元企業が新たな製品を創出する際に不可欠となる「リサーチ」「ストーリー」「機能」の三位一体について、実践的かつ現場目線で徹底解説します。

リサーチ:現場のリアル課題と真のニーズを深掘りする

表面的なヒアリングだけではモノは売れない

多くの製造業企業では、企画段階で既存顧客や営業部門へのヒアリングを通じてニーズ把握を行うことが通例です。

しかし、現場で痛感してきたのは「本音」と「建前」は違うということです。

お客様が口にする要求はしばしば現在の仕組みや慣習の延長線上にあります。

真に価値あるオリジナル製品を作るには、顧客の現場での「ありたい姿」や「まだ気付いていない課題」に深く切り込むリサーチ力が不可欠です。

現場観察のすすめ:机上の空論を打破する

昭和世代的な手法ですが「現場・現物・現実」の三現主義が今も生きます。

現場に出向き、実際の作業手順や困りごとを観察しましょう。

たとえば、某板金部品メーカーでは、顧客工場の定期巡回を行い、梱包材の廃棄コストや保管スペースが悩みであることに気付き、折り畳み式の新型コンテナを商品化して成功しました。

現場が見えていなければ決して気付けない本質的課題です。

机上のマーケットデータやネットリサーチだけでは開発の足元はもろくなります。

バイヤー心理を読む:発注側の論理を先回り

私が購買業務を担当していた頃、サプライヤーから提案されて心動かされたのは「自社の調達課題」に寄り添ったものです。

コストだけでなく、納期リスク、生産の平準化、トレーサビリティ対応といった、調達サイド独自の悩みに刺さる製品や仕組みは強みとなります。

単なる「良い商品」ではなく、「なぜ今これが必要か」に対する当事者の論理をリサーチで突き止めることが差別化の第一歩です。

ストーリー:共感を呼ぶ背景づくりと地元ブランド化の鍵

スペック勝負から物語勝負へ-中小企業の生き残り戦略

大手と違い、地元の中小メーカーが単純な価格や性能比較では勝てないのは明らかです。

そこで重要なのが「ストーリー設計」になります。

開発のきっかけ、お客様や地域との向き合い方、自社の想いや文化―これらは新規参入や価格競争では再現できません。

購買側が「応援したい」と思う背景、「現場だからこそ分かるリアリティ」が強力な武器になります。

社内・地域巻き込みが価値共創の起爆剤

地元企業がオリジナル製品を開発する際は、「誰のために、何のために作ったのか」を明らかにすることで、共感が生まれやすくなります。

たとえば、ある木工メーカーは、地元の障がい者施設と協力し組立工程の一部を委託。

その社会貢献ストーリー自体が顧客企業のSDGs活動や調達ポリシーにも合致し、発注決定に大きく寄与しました。

単なる製品情報ではなく、「なぜ・どのように作るか」を周囲を巻き込んで発信することが成果を大きく左右します。

買い手から「パートナー」へ認識を転換させる

ストーリーの力によって、単なる取引先ではなく、自社の本質的な課題や成長に深く関わる「パートナー」として認識されることが、地元企業の未来を切り拓きます。

形式的な会社案内ではなく、現場での泥臭い苦労や細やかなこだわり、失敗と挑戦の歴史など、リアルなエピソードを積極的に語りましょう。

それによって「この企業となら一緒に事業を伸ばせる」と感じてもらうことが、長期的な商談の安定化につながります。

機能:本質的な使いやすさと“痒いところ”の設計

細部が品質の分かれ目、現場目線のフィードバック重視

オリジナル製品の成否を分けるのは「スペック上は問題ない」ではなく「本当に現場で使いやすいか」です。

たとえば新型治具や装置の導入時、設計者の意図と異なり、実際の現場ではボルトが外しづらい、清掃が手間だ、修理対応が複雑など“想定外”の課題が多発します。

昭和的な「使いながら慣れる」の精神を脱却し、現場の生のフィードバックを限界まで吸い上げるプロセスを重視しましょう。

バイヤーの「リスク回避」思考に寄り添う設計・サポート

調達側からすると新製品導入は常にリスクです。

故障時の迅速な対応、スペアパーツの供給体制、トラブル時の現場派遣体制など、単なる機能だけでなく「安心サポート」も含めた設計を求めています。

昭和から抜け出せないアナログ業界では、FAXや電話が主流な場面もまだ健在です。

「メール・SNSだけのサポートでは不安」といった声にも、柔軟に対応できる運用体制を設計に反映したいところです。

持続可能性・トレーサビリティへの対応力

近年の業界トレンドとして、SDGsやカーボンニュートラルなどの環境規制、さらに調達品の安全性や流通経路の透明化(トレーサビリティ)への対応が強く求められています。

新製品開発にあたっては、製品寿命、リサイクル性、サプライチェーン管理体制まで視野に入れた機能設計が必要不可欠です。

「どの部品が、どこの企業で、どんな材料で作られたか」を説明可能な体制が、今後の調達現場で選ばれる条件となるでしょう。

三位一体の重要性-部分最適では生き残れない時代へ

  1. 「リサーチ」によって真の現場ニーズや顧客心理をつかむ
  2. 「ストーリー」で他社には真似できない信頼と共感を生み出す
  3. 「機能」で現場目線の本質的な使いやすさと持続可能性を実現する

この三つは互いに補完し合うもので、どれか一つが欠けても製造業の現場では選ばれません。

見せかけのスペックや流行りに流されず、地元企業ならではの強みと誠実さを磨くことが、これからの「ものづくり」に不可欠な姿勢と言えるでしょう。

まとめ:業界の常識を疑い、現場から新しい地平線を拓く

地元メーカーがオリジナル製品を生み出し、強いブランドとなるには、「古い常識」から一歩踏み出す勇気が求められます。

ラテラルシンキングの視点で、既存の調達・開発・生産管理のあり方を見直し、顧客も知らない現場価値を発見する。

ストーリーや地域性を最大限に活かしつつ、時代の要請である品質・持続可能性・サポート体制にも妥協なく取り組む。

読者の皆様の現場でのチャレンジが、業界全体の底上げにつながることを心から願っています。

是非、リサーチ・ストーリー・機能の三位一体で新しい挑戦を始めてください。

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