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機械構造物の残留応力対策とその測定法

目次
はじめに:機械構造物の残留応力とは何か
機械構造物を設計・製造する際に、避けて通れない課題の一つが「残留応力」です。
残留応力とは、物体に外力をかけていない状態でも内部に残っている応力のことを指します。
この応力が原因で、構造物の変形、割れ、部品寿命の低下、さらには重大な事故につながるケースも少なくありません。
長年製造現場で働いた経験からも、残留応力への正しい理解と対策は、品質確保とコスト削減の両面で欠かせないテーマであり、日本の製造業が次のステージに進むための重要な鍵だと実感しています。
本記事では、現場目線での残留応力の本質と、その測定法・対策について具体的事例を交えながら解説します。
さらに昭和以来のアナログな慣習が根強く残る製造業界が、なぜデジタル技術や新たな視点を取り入れる必要があるのかについても、掘り下げていきます。
残留応力が発生するメカニズム
加工工程で発生する残留応力
多くの機械部品や構造物は切削、曲げ、溶接、鍛造、熱処理など多様な工程を経て形作られます。
各プロセスでは、材料に外部から力や熱が加わるため、表面と内部で冷却速度や変形量に差が生じます。
この変化により、応力が材料内部に固定され、「残留」するのです。
たとえば、鋼板の曲げ加工では、外側が引っ張られ、内側が圧縮される力が働くため、加工後に形状が安定したように見えても、内部には見えない応力が溜まっています。
この状態でさらに切削や溶接などを重ねると、既存の残留応力が再分布し、最終製品で想定外の歪みや割れが発生します。
溶接部における残留応力の特徴
特に溶接では、母材と溶加材の急激な加熱・冷却によって、局所的に非常に高い残留応力が生じます。
溶接部では、急冷部分に引張応力(割れを導きやすい)が、周囲に圧縮応力(寿命を左右する)が蓄積されます。
昭和の高度成長期に大量生産された溶接構造物の事故原因を遡ると、残留応力が起点となる事例が多数存在します。
昭和流の“勘と経験”も大切ですが、安全性と信頼性を求める現代のモノづくりにおいては、目に見えない残留応力を“数値”で把握し、コントロールする考え方が不可欠になっています。
残留応力がもたらすリスクと業界動向
現場で起きる具体的なトラブル事例
・大型部品の機械加工後に予想外のソリや歪みが発生
・溶接箇所からのクラック(割れ)が後工程や納品後に発生
・熱処理後に寸法精度が規格外になり、不良品の発生率が上昇
・長期間使用した設備部品に突然の破断
これらは全て、現場で繰り返し目にした事例です。
いずれも残留応力が“見えない敵”として裏側に潜んでおり、「現場で一体何が起きているのか」「どう予防できるのか」の情報を関係者で共有する仕組みの構築が急務です。
サプライヤー・バイヤー間での認識ギャップ
実は、サプライヤー(部品メーカー)とバイヤー(完成品メーカー)の間で、残留応力への意識に大きなギャップが存在しています。
サプライヤー側では、コスト重視の要求や納期優先の慣習に追われる中で、「どうしてそこまで厳しく品質要求するのか」「なぜ追加工程が必要なのか」が伝わりにくいことがあります。
バイヤー側もまた、顧客の工程設計や海外現地工場のサプライチェーン全体で、“見えない品質リスク”をコントロールしきれていないのが現状です。
このギャップを埋めるためにも、残留応力の測定とデータによるコミュニケーションが、サプライチェーン全体の生産性・信頼性・ブランド価値向上に直結するのです。
主な残留応力の測定方法
X線回折法
最も一般的なのが「X線回折法」です。
金属結晶の格子歪みをX線で読み取り、そのずれから応力状態を数値化します。
非破壊検査であり、現場の完成品検査や工程内での寸法変化予測にも利用できます。
近年ではポータブル型装置も開発され、国内大手メーカーから中小企業まで活用範囲が広がっています。
しかしながら測定範囲や材料への適用性に制約があり、特殊材料や大型構造物では他の手法と併用するといった工夫も現場では重要です。
穴あけ法
「穴あけ法」は、構造物の特定部位に小さな穴を開けることで周囲の歪みを測定し、応力分布を解析する半破壊検査です。
比較的安価かつ手軽に実施できる一方で、測定箇所に傷が残りやすいため、工程設計や検査部位の選定には管理者のノウハウが試されます。
昭和から続く現場の“勘どころ”を活かしながら、データ解析技術と組み合わせた新しい活用事例も増えています。
超音波法・磁気法・その他の最新技術
最近は「超音波法」「磁気法」など、重要保安部品への非破壊検査ニーズの高まりと自動化技術の進展を背景に、多彩な測定法が登場しています。
例えば、超音波の反射/伝播速度から応力を推定する方法や、材料磁性特性の変化を利用して評価する磁気法などです。
AI画像解析技術と連携した機械学習による新しい間接評価法も研究開発が進んでいます。
業務自動化・スマートファクトリー化の潮流とも合致しており、日本の製造業がアナログからデジタルへの転換期を迎える今、「多様な計測技術の組み合わせ&現場フィードバック」が成功のカギになっています。
残留応力低減の実践的な対策
応力除去焼鈍の活用
最も広く使われるのが、「応力除去焼鈍(SR焼鈍)」です。
機械加工や溶接工程後、部品を一定温度で加熱し、徐々に冷やすことで内部応力を緩和します。
工程内でタイミングよく焼鈍処理を織り込むことで、生産効率(スループット)を大幅に向上させることも可能です。
一方で、昭和的な慣習として「焼鈍はコスト増加・スケジュール遅延の原因」とされる企業文化も根強いです。
最新の加熱炉・IoT温度監視システムを導入し、最小エネルギーで最大効果を得るプロセス最適化が、今後の現場改革に不可欠となります。
加工・設計段階での予防的工夫
残留応力は、加工や設計の段階から“予防”を徹底することによって、後工程の手間やコストを大幅に抑えることができます。
例えば
・左右対称な切削配分や加熱冷却サイクルの設計
・溶接順序や溶接量の最適化(熱集中を避ける、順を追った拘束解除)
・最終仕上げ工程でのストレスリリーフカットの導入
などです。
古典的手法とデジタルCAE(応力解析シミュレーション)を組み合わせて設計レビューを行うことで、現場トラブルを未然に防ぐことができます。
現場と設計部門・品質管理部門の連携強化
残留応力対策は、単独部門だけで成立しません。
現場作業者、設計者、品質管理者、サプライヤーやバイヤーも含めて、工程ごとに「数値」で残留応力リスクを見える化し、納入仕様に組み込む・作業標準に落とし込むことが大切です。
品質管理部門だけに任せきりにせず、「全工程の情報が一元化・共有される」データベースの活用や教育活動が、昭和的なアナログ現場に新風を吹き込む重要なステップとなります。
デジタル化・自動化が残留応力管理にもたらす変革
IoT・センシング技術の現場適用
これまで以上に厳格な品質・安全要求を満たすためには、IoTセンサーや生産設備からリアルタイムでデータを取得・監視する仕組みが欠かせません。
たとえば、溶接ロボットのアーク温度・振動計測データ、加熱工程の全自動記録装置などは「いつどこで、どれだけ応力が残りやすいか」を定量的に把握でき、異常検知や予防保全にもつなげやすくなります。
AI・デジタルツインによる最適化&予兆検知
AI・デジタルツイン技術の進展により、設計段階から応力分布を詳細にシミュレーションし、最適な工程設計提案やトラブル発生前の予兆警告も実現されつつあります。
デジタル技術と現場の暗黙知が融合すれば、アナログ時代には不可能とされていた「現場ごと、部品ごと」に最適な残留応力管理が可能になります。
日本の製造業がグローバル水準で競争力を保つためにも、積極的なテクノロジー導入が業界喫緊の課題です。
最後に:残留応力課題に取り組む意義と未来
機械構造物の残留応力は、目には見えませんが「見て見ぬふり」をすると大きな品質問題、コスト増大、重大事故に繋がるリスクがあります。
バイヤー、サプライヤーを含めた全関係者が“自分ごと”として、現場起点でデータを見える化し、予防的対応を当たり前の文化とすること。
昭和時代の成功体験をアップデートし、デジタル技術も柔軟に取り入れる「学び続ける現場力」を身につけること。
それこそが、これからの製造業の発展と、皆さん自身が“誇れるものづくり”を実現するための最重要キーワードだと、私は信じています。
現場で残留応力に悩むすべての方の課題解決と、日本のものづくりの進化への一助となれば幸いです。
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