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X線回折とひずみゲージで学ぶ残留応力測定と対策

目次
はじめに―製造業における残留応力の意義
現代のものづくり現場において、「残留応力」の問題は避けて通れません。
これは、部品や製品が加工や溶接、熱処理などの工程を受けた際に、内部に発生・残存する力のことを指します。
一見目に見えないこの応力が、実は部品の割れや変形、寸法不良、最悪の場合は早期破損といった深刻な問題を引き起こす場合があります。
私が長年現場で学んできた経験からしても、品質トラブルの陰には「残留応力」を正しく理解・管理できていないケースが驚くほど多いと感じています。
特に、昭和時代からのアナログなものづくりが色濃く残る工場では、経験則や勘に頼ってこの問題を見過ごしてしまいがちです。
「なぜ壊れるのか?」「なぜ歪むのか?」と悩むすべての技術者やバイヤー、そしてサプライヤーの皆さんにこそ、最新の残留応力測定法である「X線回折」と「ひずみゲージ」の活用法と、それに基づく対策を知っていただきたいのです。
残留応力がものづくりに与える影響
目に見えないリスク、「割れ」と「変形」
加工や組立、溶接などのプロセスを経て生み出される機械部品は、完成品として一見完璧に仕上がったように見えても、「内部応力」が偏在している場合があります。
この歪んだ力の蓄積は、以下のような現象を引き起こします。
– 機械加工後の歪み(寸法変動)
– 時間経過による遅れ変形や割れの発生
– 疲労強度の予期せぬ低下
– 溶接部のクラック
– コーティングや表面処理の剥離
これらは実際の現場で日常的に起こるトラブルの代表例です。
特に海外の顧客や自動車、航空機などの厳しい品質管理を要求される場合、残留応力の管理レベルが「受注獲得」の可否に直結する大きな分かれ目となることも珍しくありません。
グローバル競争下で求められる「証拠」の重要性
日本の製造業は、長らく「現場の勘と経験」を強みにしてきましたが、グローバルサプライチェーンでは、単なる「品質保証」以上に「プロセス管理」と「科学的エビデンス」が要求されます。
「何を、どのように測定し、どのように管理しているか」を問われたとき、データとして残留応力を示すことは、サプライヤーとしての信用を高める絶好の武器になるのです。
残留応力の測定方法―X線回折法とひずみゲージ法の基礎知識
X線回折法―表層残留応力の“見える化”
X線回折法(XRD: X-ray Diffraction)は、金属やセラミックス、さらには一部樹脂材料の「表層」に存在する残留応力を可視化できる代表的な手法です。
原理は、材料にX線を照射した際の「結晶面からの反射角度の変化」から、その結晶格子が歪んでいる度合(=応力)を推定するというものです。
この手法の利点としては、
– 非破壊測定が可能
– 応力分布を高精度に可視化できる
– 加工、溶接、熱処理など工法ごとの応力比較が容易
といったことが挙げられます。
ただし、表層(数十ミクロン程度)しか測定できないため、部材の厚い部分や内部応力の評価には別手法との組み合わせが必要となります。
ひずみゲージ法―現場でも実践できる王道測定
ひずみゲージ法は、電気抵抗式の薄い金属箔(ゲージ)を部品の表面に貼り付け、その部品に生じた微細な変形(=ひずみ)を電気的に読み取る方法です。
この「ひずみ」から応力を読み解くことで、局所的な応力や大きな構造部材の内部応力分布も推定できます。
ひずみゲージは現場でも導入しやすく、「割れ」「変形」「溶接部の応力集中」など、問題部位を狙い撃ちで測定できる点もメリットです。
応力解放法(スリット法・穴あけ法)などと組み合わせ、「内部応力」を間接的に評価する応用技術もあります。
現場に貼るだけ、というアナログな側面と、データロギングによるDX活用も可能な先進性を兼ね備えた測定技術です。
現場で役立つ実践的な活用法
定期測定で起こる「季節変動」との戦い
製造現場で「なぜか6月や12月に品質トラブルが多い」という声を頻繁に聞きます。
これは、湿度や気温の違いで材料の内部応力が微妙に変化し、予期せぬ変形や割れが顕在化するためです。
X線回折やひずみゲージを年に1度、四半期に1度の定期点検プログラムとして取り入れることで、部品ごとの「応力地図」を作り、リスク予知や自主管理が可能となります。
トラブル品の「応力履歴」解析による再発防止
突発的な割れや寸法不良が起きた際、その場凌ぎで処置するのではなく、必ずXRDやひずみゲージによる応力測定を行い、「どこの、何工程で」応力が溜まっていたのかを解析します。
この地道なフィードバックが、設計・工程見直し・設備調整といった本質的な再発防止活動につながります。
サプライヤー/バイヤー間の“見えない品質”の見える化
仕入先との間で品質問題が起こった際、「責任の押し付け合い」は現場にとって大きなストレスです。
「応力測定データによる客観的分析」を協力会社や顧客と共有することで、根拠のある品質議論ができるようになり、「科学的管理」の輪が広がります。
これは、成熟したグローバル部品調達に求められる基盤技術でもあります。
現場発想!残留応力対策の最新トレンド
材料選定と設計段階からの“応力低減”思想
残留応力対策の基本は、設計・材料選定の段階から始まります。
例えば、「応力発生の少ない加工法」「低残留応力材料の選定」「製品形状による応力分散設計」を設計段階で意識することが、将来的な“品質づくり込み”に直結します。
特に、アルミやチタン、超合金などの先端材料では、従来以上に残留応力設計の重要性が増しています。
加工工程での“熱管理”と“順序管理”の徹底
熱処理や溶接では、急冷や急加熱による熱膨張・収縮が、思わぬ応力集中の原因となります。
また、加工順序やクランプ圧、取り外しタイミング次第で、同じ部品から全く違う変形・応力状態が生まれることもあります。
設備の自動化やIoTで工程ごとの「応力モニタリング」ができれば、現場オペレーターの負担も激減します。
表面処理と「圧縮残留応力」の活用
ショットピーニングやレーザーピーニングなどの表面処理で、あえて「圧縮残留応力」を導入し、疲労割れを抑制する手法も近年盛んになっています。
自動車・航空機分野では、X線回折による圧縮応力測定が“品質標準”となりつつあります。
現場DXとAIによる異常兆候の早期発見
最新では、ひずみゲージやセンサデータをIoTで定期収集し、AIで「想定外の応力パターン」を自動で検知する仕組みも普及し始めています。
人の勘や経験だけでなく、データドリブンで応力異常を監視できる時代となりつつあるのです。
サプライヤー・バイヤー視点で求められる残留応力対策とは
コストと品質の両立に不可欠な“見積観点”
調達購買やバイヤーの立場から見ると、残留応力評価・管理は“コスト増要因”と見なされがちです。
しかし、応力起因のトラブル/返品/納期遅延コストを考えれば、「測定→解析→予防」のPDCAサイクルを導入する方が、長期的には圧倒的に得策です。
「応力測定技術を持つサプライヤー」は、品質リスクの少ないビジネスパートナーとして高い評価を受けるでしょう。
“証拠主義”の時代の交渉力
バイヤーの皆さんにぜひ推奨したいのが、
「応力測定データ」という客観的根拠を武器に、価格交渉や品質協議を行うことです。
“なぜあなたの会社が優れているのか”
“なぜそのコストが妥当なのか”
という説明責任に対して、定性的な「信頼」だけではなく、定量的な「データ」を提示できるサプライヤーは、グローバル競争の中でも生き残れます。
まとめ―X線回折とひずみゲージによる現場革新へ
残留応力は、製造現場の目には見えない大きな敵ですが、科学的な測定手法である「X線回折」や「ひずみゲージ」を現場に根づかせることで、そのリスクを低減し高品質なものづくりを実現できます。
昭和から続く勘と経験だけでは、AIやグローバルサプライチェーン時代を乗り越えられません。
“数値で語る”ものづくりへ意識変革し、サプライヤー・バイヤー間でも残留応力情報をオープンにすることが、次世代の日本の製造業競争力につながると確信します。
現場の知恵と最新技術を融合させ、小さな一歩からでも「残留応力の見える化」を始めてみませんか?
あなたの現場にも、確実な変化が生まれるはずです。
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