- お役立ち記事
- 残留応力測定と除去で破壊変形を防ぐ安全対策ガイド
残留応力測定と除去で破壊変形を防ぐ安全対策ガイド

目次
はじめに~製造現場に潜む「見えない危険」残留応力を知る
製造業の現場では、設備や構造物の“目に見える不良”には敏感でも、“目に見えない脅威”に気がつかず大きな事故・不具合を招くことがあります。
その代表的な例が「残留応力」です。
製品の溶接や機械加工、熱処理、プレス成形といった工程の中で発生する残留応力は、実は世代や規模を問わず、多くの現場で「昭和の慣習的な経験則」だけで見逃されてきました。
ですが、材料が本来持たないはずの“内なる力”を帯びている状態—これが残留応力—は、バイヤーやサプライヤー、現場監督、品質管理者すべてにとって本質的なリスクとなります。
この記事では、現場目線・実践重視で、残留応力の基礎から最新の測定方法、除去の現場ノウハウ、安全対策としての具体策まで解説します。
クラシカルな慣習や新しい業界動向の両面から掘り下げ、購買担当者目線やサプライヤーが知っておくべきバイヤーの視点も取り上げます。
残留応力とは何か?知らずに現場を壊す「厄介者」
残留応力の正体と発生メカニズム
残留応力とは、材料や部品が外から力を受けていない(=荷重がかかっていない)状態なのに内部に残っている“見えない応力”を指します。
なぜ残ってしまうのでしょうか。
溶接時の急激な冷却による温度差、プレスや鍛造による塑性変形、切削時の応力集中、外装の噛み合わせ誤差、熱処理による歪みなど、実は製造工程のあちこちで残留応力は発生します。
昭和の頃の製造業界では“つぶし”や“なじませ”で誤魔化されがちでしたが、現代では品質不良や破損事故の根源として厳しくチェックされるようになりました。
なぜ残留応力は危険なのか
材料内部の残留応力が解放される瞬間、歪み・反り返り・クラック(亀裂)・脆性破壊といった大きなトラブルへとつながります。
例えば、溶接構造物の運搬中、設置や使用時に「バキっ」とクラックが入るケース。
長期間の使用や震動下で徐々に亀裂が拡大する「遅れ破壊」。
外観良好でも内在するリスクはゼロになりません。
また、現場では、樹脂成形品でも金属でも、残留応力が設計寿命を大きく引き下げ、致命的なトラブルに繋がる事故例が多数報告されています。
バイヤー・サプライヤーが知るべき残留応力対策の最前線
なぜ今「残留応力」の管理が求められるのか
近年の製造現場では、外観や寸法基準だけでなく「内部品質の確保」「製造履歴のトレーサビリティ」まで重視されるようになっています。
バイヤー視点では、コストダウンと同時に「品質保証」と「安全リスク低減」の両立が強く要求される時代です。
一方、サプライヤー側にとっても、残留応力対策は“見えない高付加価値”=信頼性UP、クレーム低減、リピート受注のキーとなる重要テーマに浮上しています。
現場での典型的な失敗事例
1. 大型溶接構造物の運搬中、現場設置後に急に発生するクラック。
2. 車載用シャフトのヒートトリートメント後、わずかな負荷で折損。
3. 精密機械部品で「組付け直後の寸法ズレ」や「使用中の歪み発生」。
いずれも、内部の残留応力が遠因となって表面化したトラブルであり、品質保証体制の未整備が遠回しにコスト増や納期遅延を招く要因になっています。
残留応力の測定方法~適材適所の賢い選択
X線回折法
最も広く利用されるのがX線回折法です。
材料表面や表層(十数μm程度)までの残留応力を非破壊で測定できます。
金属材料だけでなく、一部セラミックスや合金にも適用可能で、バイヤーサイドからは「客観的なデータ」「異常時のエビデンス」として重宝されます。
ただし装置コストが高く、表面しか測定できない点が注意点です。
穴あけ法
小さな穴を材料にあけ、その周辺で発生するひずみから残留応力を推定する方法です。
X線法より安価で、深部の応力評価もできますが、微細な破壊を伴うため「一部破壊試験」として扱われます。
設備導入の敷居が低く、現場の簡易チェックとして使いやすい方法です。
磁気的方法、超音波法など
鉄系材料には「磁気的方法」や「超音波法」も活用されています。
測定範囲や精度は限定的ですが、工程内での「傾向管理」や「異常検知」に役立つため、コスト意識の高い現場で重宝されています。
製造現場での測定データの使い方
現場で測定する際は、単に「数値を出す」ことが目的ではありません。
材料投入管理、加工工程の見直し、完成品の内部品質保証、サプライヤー選定・工程監査時の基準づくりまで多用途に活用できます。
バイヤー=発注側からすると、サプライヤー提案時に“測定データの一元提示”や“不具合発生時の原因分析”を要求するケースも増えています。
残留応力の除去~現場でできる実践的アプローチ
1. 応力除去焼鈍(ストレスリリーフアニーリング)
金属製造現場では、熱処理炉による適正温度・適正保持時間でのストレスリリーフ焼鈍が最も広く使われます。
高温で加熱・ゆっくり冷却することで、内部応力が材料内で拡散し除去されるため、大型構造物にも適用可能です。
ただし、「製品設計上、再加熱できない」「コスト・リードタイムが増す」などの制約もあり、必ず工程設計者・バイヤーと十分な協議が必要です。
2. 機械的な除去方法(ショットピーニング等)
局所的な残留応力緩和手法としてショットピーニングやバーニシングが活用されます。
表面に小さな玉を高速衝突させたり、ローラーで圧縮応力を与えることで、「有害な引張応力」から「有益な圧縮応力」へ置換。
この手法は航空機部品や自動車部品など高い信頼性を要求される現場で普及が進んでいます。
3. 冷間時効や振動時効
比較的容易に応力緩和が可能な方法として振動時効(共振加振)が利用される場合もあります。
治具に固定した状態で強制振動を加えることで応力を拡散させる方法です。
コスト低減・クレーン要らずの地場町工場クラスで実績も多い一方、効果が限定的な場合もあり、「現物確認」「確認測定」のセット運用がベストといえます。
昭和の慣習を超えるために~属人的運用のリスク
残念ながら、昭和的なアナログ管理手法(“経験豊富な工員のカン・コツ”や“一発本番主義”)が色濃く残る現場も依然多いのが現状です。
・焼き入れや加工の「音」「色」「匂い」だけで管理
・応力除去の工程省略、後工程で歪みが出てから“叩いて戻す”応急対応
・設計変更時に応力対策の検討抜け、後工程で致命的なクラック発生
こうした“なんとなく大丈夫”の積み重ねが、納期遅延やクレーム増大、補償コストの肥大化といった事態を招きます。
属人化した運用から抜け出すためには「見える化」と「標準化」が不可欠です。
バイヤー目線・サプライヤー目線の「安全対策ガイド」
バイヤーがチェックすべきポイント
1. 設計段階での残留応力リスクの洗い出し
2. サプライヤーとの応力対策方針の明確化・工程設計への反映
3. 測定データの提出、安全マージン(許容応力)の明示
4. 工程ごとの除去対策(熱処理、機械的処理、検査方法)の標準化
5. トレーサビリティの確保(証跡・工程管理票の保存)
これにより、「コスト優先で除去・測定工程が省略されていないか」「安易な外注依存でノウハウ流出がないか」など、リスクコントロールが可能です。
サプライヤーがアピールすべきポイント
1. 応力管理体制の整備・測定データに基づく品質保証の明示
2. 「コスト増」だけでなく「事故予防によるトータルコスト低減」提案
3. 自社技術で可能な範囲、不得意分野の明確化
4. 設計変更時のリスク共有、専門家ネットワークの活用
5. トラブル発生時の再発防止策(事例ベースの情報共有)
これにより、バイヤーからの信頼獲得やリピート受注、長期的なパートナーシップ形成につながります。
まとめ~現場目線×データ重視で「見えない不安」を可視化しよう
残留応力—それは、最終製品の信頼性や現場安全を左右する、“目に見えないリスク”です。
デジタル技術の普及、工程管理の高度化、法規制強化など社会的な背景変化とともに、アナログな運用・属人化管理から脱却し、測定・データ重視の現場体質がますます求められています。
現場に携わる全ての方が残留応力の本質と対策を理解し、設計・調達・製造・管理まで一貫したプロセスを構築することで、「破壊変形ゼロ」「安全・高品質なものづくり」が実現します。
長年の現場経験を持つ筆者としては、課題解決の第一歩は“隠れたトラブルの見える化”と“継続的な改善の仕組みづくり”だと考えます。
残留応力に無関心なまま時代遅れとなるのではなく、一歩踏み出して「現場の安全・顧客満足・未来のものづくり」につなげていきましょう。
この記事が、製造業に携わるみなさまの安全対策・品質向上の一助となれば幸いです。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)