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輸入部材における通関トラブルと関税差異が発生した場合の責任分担

目次
はじめに:グローバル時代の調達における現場課題
日本の製造業は今、かつてない速さでグローバル化の波に晒されています。
優れた品質やコスト競争力を追求する中で、国内外からの部材調達はますます複雑化しています。
とくに、その中核を担う調達・購買部門にとって、輸入部材の通関トラブルや関税差異は避けて通れない現実となっています。
この問題は、ただ単に「コストが増えた」「納期が遅れた」だけで済む話ではありません。
グローバルサプライチェーンの信頼性や自社工場の生産計画、さらには顧客への納期遵守など、あらゆる工程に直結する重大な経営リスクなのです。
本記事では、長年現場で培った視点から、「輸入部材における通関トラブル」と「関税差異発生時の責任分担」をテーマに据え、業界のアナログな慣習も背景にしつつ、実務担当者に役立つ情報をお届けします。
輸入部材に付きまとう2つのリスク:「通関トラブル」と「関税差異」
通関トラブルとは何か?現場に及ぶ影響
通関トラブルとは、輸入貨物が税関でスムーズに認められず、手続きが遅延したり、検査・差し止めなどにより納入予定が大幅に狂ってしまうことを指します。
主な事例としては、
– 書類不備による申告差し戻し
– HSコード(関税分類番号)の誤申告
– インボイス、パッキングリストの齟齬
– 危険物や適合証明(CE等)不足
– 原産地証明書(CO)の内容不備
などが挙げられます。
現場にとって通関トラブルは一日遅れでラインが止まるリスク、最悪の場合はお客様との契約違反・信用失墜にも繋がりかねません。
関税差異とは?どうして生じるのか
関税差異とは、発注段階で見込んでいた関税率や評価額と、実際の通関で認定された関税額が食い違い、追加費用または還付差額が発生する現象を言います。
要因としては、
– HSコードの解釈違い(サプライヤー提案と現地税関の認識差)
– 関税率の変更(貿易協定や経済政策の変化)
– 許可・認証書類の不足による非特恵原産地認定
– 課税価格の基準との見解相違(運賃・保険料込のCIF/FOB価格など)
これらは、時として数%から10数%にも及ぶ追加コストを生み、収益計画を大きく揺るがします。
誰が責任を負うのか?業界慣行と現場のジレンマ
リスク分担の基本:インコタームズと実務ギャップ
一般的には貿易取引において、「インコタームズ(商業貿易条件)」がリスク分担の基本となります。
たとえば、「FOB(本船渡し)」や「CIF(運賃保険料込み)」などの条件によって、どこまでの費用・リスクを輸出者(サプライヤー)と輸入者(バイヤー)が負担するかを契約時に明確に定めます。
しかし実際の現場では、インコタームズだけでは割り切れない「暗黙の了解」や「曖昧な責任範囲」がまだ根強く存在しています。
とくに昭和世代のアナログ取引風景では、
– 「関税に問題があったらうちで何とかします」
– 「こっちは輸出価格しか見ていません」
– 「現地通関が違うのはそちらの問題です」
といった、責任の押し付け合いが発生しがちです。
具体的な責任分担はどう決めるべきか?
現場のトラブル事例を踏まえて、実際に「通関トラブル」や「関税差異」が発生した際の責任分担の原則を整理します。
通関トラブルの場合
– サプライヤーが提供すべきインボイスやパッキングリスト、CO等に不備があった場合→サプライヤー側が責任。
– バイヤー側のアレンジミス(申告内容の誤認、手続き遅延等)→バイヤー側責任。
– HSコードの認識違い→契約時の明文化がポイント。明記なければ解釈争いとなりやすい。
関税差異の場合
– サプライヤーが「○○コードで○%関税」と明示した上で、それを根拠に価格合意していた場合で税関判断が異なった場合→事前合意どおりの範囲はバイヤー、例外時は調整条項の有無による。
– 明文化なく見積りベースで交渉していた場合→原則バイヤー負担(見積条件と通関実績の差はバイヤーリスク)。
– 関税定率変動やFTA適用漏れ等、事後的に判明する要素→調達契約に「為替・関税調整条項」などを入れることで揉めごとを防止できます。
最終的には、「契約書(PO)や取引基本契約にリスク分担条項をどこまで書き込むか」が実務上のカギとなります。
現場でよくある通関トラブル経験談と教訓
私が20年以上の現場で体験した、実際によく見られるトラブルとその教訓をいくつかご紹介します。
事例1:HSコード誤認識で特恵関税が外れた…
アジアの現地サプライヤーから電子部品を調達していた際、輸入通関時に想定外のHSコード(関税分類)が適用され、多額の追加関税が発生しました。
要因は、現地サプライヤーが通関経験に乏しく、インボイス上のHSコードが誤ったものとなっていたためです。
最終的に調査・修正対応に2週間遅延、さらに数百万円規模の余計なコストが発生し、費用負担をめぐって先方と激しく交渉する羽目になりました。
教訓:
最初から「輸入国でのHSコード」についてダブルチェックし、契約書でリスク分担明記が大切です。
事例2:原産地証明書(CO)不備による関税増額
部品調達のコストダウン施策でASEANから輸入の際、事前見積りどおり0%関税(特恵適用)を期待していたにもかかわらず、原産地証明書の様式不備により一般関税が適用されてしまいました。
後から証明書の訂正手配も間に合わず、通関後では還付処理も複雑。
教訓:
原産地証明は、書類の「書式・押印・仕向地・有効期限」など全て現場レベルでよくチェックする必要があります。
また、「適用要件を満たせない場合の責任所在」や「証明書再取得時の実費負担」なども契約時に書き込むことをおすすめします。
バイヤーの立場で最重要となる「事前の想定」と「関係構築」
バイヤーの現場では、「通関トラブルや関税差異は必ず発生するもの」として最初から備える姿勢が必要不可欠です。
– 取引先が輸出経験の浅いサプライヤーの場合は、日本の通関実態や輸入国のルールを説明したうえで、二重・三重のチェックリストを作成しましょう。
– 面倒でも「書類セット」や「HSコード確認表」など、自社フォーマットでやり取りを見える化することでリスクを最小化できます。
– いざトラブルが起きたときに、「契約書・見積書・メールの履歴」など、どこまで議論や合意が残せているか、日々の蓄積が後の“盾”になります。
– サプライヤーとの関係性が薄い現場では、交渉窓口から「責任のなすり合い」が頻繁に起きますが、現地ブローカーや商社を巻き込むのも一つの方策です。
アナログ慣習を乗り越えるために現場目線が不可欠
昭和的な“根回し”や“現場感覚”は、日本特有の良い面(柔軟な現場対応)も持っています。
しかしながら、グローバルな取引・複雑化する通関・関税リスクの現場では、「ここまでは誰が、ここからは誰が」と冷静に契約段階で線引きしながら、円滑なコミュニケーションを取ることがこれまで以上に求められています。
まとめ:新しい時代のリスク分担と現場進化に向けて
輸入部材調達において通関トラブル・関税差異は決して“イレギュラー”ではありません。
むしろ「あるべき日常の管理業務」として捉え、現場起点でルールを見直すことが競争力の源泉になります。
– インコタームズ・契約書でのリスク分担明確化
– 現場責任者自身が通関法務や関税の基礎知識を吸収
– 定期的なサプライヤー教育と実践的なトラブルシミュレーション
これこそが、昭和から抜け出せない業界慣行を現代型調達へと引き上げるエンジンになるでしょう。
大切なのは「机上の取り決め」だけでなく、「現場のリアルな声」を重ね合わせながら進化を続けることです。
今後も本サイトを通じて、製造業の現場から得た知見や、泥臭いけれど最前線で役立つノウハウを発信していきます。
グローバル調達の最前線に立つすべての方のご活躍を心より応援しています。
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