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レトルトカレー袋の膨張を防ぐ冷却曲線と密封圧制御技術

目次
はじめに
レトルトカレーは、今や日本の家庭や職場の食卓に欠かせない存在となっています。
保存性と利便性を兼ね備えた食品として、その需要は年々高まっています。
しかし、製造現場では「レトルトカレー袋の膨張」という課題が根強く残っています。
この問題は、品質の均一化や見た目、流通面でのトラブルだけでなく、歩留まりやコスト面にも大きな影響を及ぼします。
今回は、20年以上製造現場に携わってきたプロの視点から、冷却曲線と密封圧制御技術について、現場目線で深掘りしていきます。
さらに、昭和から続くアナログ的工程にも目を向け、バイヤー・サプライヤーの考え方も交えて分かりやすく解説します。
レトルトカレー袋膨張のメカニズムとは
レトルトカレーの殺菌は、通常120℃以上の高温で20分以上加圧加熱を施す「レトルト殺菌」によって行われます。
レトルトパウチの中身は、この工程で確実に殺菌され、長期保存に耐えるようになります。
しかし、高温高圧状態から冷却工程に移行する際、中袋が必要以上に膨張してしまうことがあります。
この膨張の主な原因は、容器内外の「圧力差」と急激な「温度変化」です。
袋内部の水蒸気や溶存ガスが冷却とともに急激に体積変化を起こし、袋のシール部が弱い場合には漏れや破裂の原因となります。
また、密封時に残ったわずかな空気も袋膨張の大きなリスク要因です。
なぜ膨張は問題なのか
袋膨張は見た目の悪化を招くだけでなく、流通時の荷姿破損や品位落ちを引き起こします。
中身が漏れることで品質劣化や納品クレームにも繋がります。
加えて、同一工程で複数の商品を一括処理するため、不良品の発生は全体の歩留まりを大きく下げる要因ともなります。
そのため、多くの現場では「袋膨張ゼロ」を目指してさまざまな改良を加えてきました。
しかし、現場には昭和時代から続く標準操作や抜け出せない慣習も多く、根本的な解決に至っていない現場も少なくありません。
膨張対策の鍵「冷却曲線」とは
冷却曲線の重要性
レトルト殺菌後の「冷却工程」は、膨張を未然に防ぐ最大のポイントです。
ここで重要なのは「冷却曲線=冷却スピードのコントロール」です。
急冷すると袋内部の圧力が急激に下がり、外圧に耐えきれず袋が膨らみやすくなります。
逆に冷却が遅すぎると中身の過加熱や風味劣化を招くリスクも高まります。
最適な冷却曲線とは、「袋内の蒸気圧と水圧のバランスを崩さず、徐々に常温近くまで下げる」ための波状ラインを描きます。
冷却操作のアナログからデジタル化へ
従来、多くの工場では冷却水の流量を手動で加減しながら、現場作業者の経験則頼みで調整してきました。
しかし、近年では冷却制御装置によるリアルタイム温度モニタリングや、圧力自動調整による「デジタル制御」が主流となりつつあります。
これにより「再現性」を担保しつつ、「最適な冷却曲線」を維持することが可能になります。
導入初期は設備コストや教育コストがかかるものの、長期的には不良率の低減や作業者負担の軽減、トラブル発生時の履歴トレースなど、バイヤー・サプライヤー双方にとって大きなメリットがあります。
密封圧制御技術の進化
密封工程が膨張を支配する
袋膨張の真因は、密封時に袋内に残る「余分な空気」や「ガス」が大きく影響します。
密封機(インパルスシーラーやヒートシーラー)が温度・圧力・時間を適切にコントロールできていないと、今でも品質トラブルの温床となっています。
新しい生産ラインでは、密封工程直前に「真空脱気」や「ガス置換」を組み込み、袋内の残留酸素や水蒸気を極限まで減少させる仕組みが増えています。
加えて、密封圧制御機器も、センサー類による圧力の「PID制御化」などで大きく進化しています。
昭和時代の密封―今なお残る課題
一方、昭和から続く中堅工場や小規模事業者では、未だアナログタイマーや目視チェックの現場が多いのも事実です。
膨張のリスク・原因分析がブラックボックス化してしまうため、ベテラン作業者頼みの属人的な管理体制となりがちです。
「何となく」密封した袋の膨張トラブル、「よく見かけます」「原因がわからない」という声もよく聞かれます。
このような現場ほど、小さなセンサー増設や記録装置の導入で過去トラブルの見える化を進めることが重要です。
たとえ全自動化できなくても、「トレーサビリティ」と「原因究明の土台」を整備することで、昭和型現場も着実に蓄積型・改善型に移行できます。
バイヤー・サプライヤーが知るべき現場のリアル
バイヤーが意識すべき着眼点
バイヤーは、納入後に膨張や漏れなどの重大なトラブルが発覚すると、納品遅延や返品・交換・品質評価ダウンなど多大なリスクを負います。
したがって「冷却曲線・密封圧制御」に関するサプライヤーの管理体制、設備状況は必ずチェックすべきポイントです。
監査時には、現場での記録が時系列で残っているか、再現性のある運用がなされているか、また小規模現場の場合はどの範囲までデジタル対応されているか(例:ただPQCや手書きでなく、なぜこの操作をしているのか背景説明ができるか)など、現場目線で突っ込んだ質問が有効です。
サプライヤーに求められる「説明力」と「改善力」
サプライヤー側は、現場で起こっている事象を正確に把握し、膨張発生時の「根拠をもった説明」「再発防止策」を提示できることが大切です。
現場にセンサーや装置がなくても、現象の「見える化」に取り組み始めているか、その改善計画を中長期で示せるか、こうした姿勢が信頼構築に不可欠です。
特に昭和からの慣習が強い現場では、「現場主義」と「データ重視」の両立が課題となります。
作業者一人ひとりの声や勘所と、デジタル管理やトレーサビリティをうまくミックスさせることで、膨張トラブルだけでなく全体最適化が図れます。
ラテラルシンキングで考える今後の改善ヒント
データの水平展開と不具合予防
工場単体で考えれば、冷却曲線ひとつ取っても、多様な袋材質・充填量・レトルト中身の粘度差・加熱槽の能力など変数は無限です。
一律な標準工程よりも「工程データ」を水平展開し、袋膨張が発生した際、どの要素が最も効いたのか「見える化」することが、現場の底力を高めます。
近年ではIoTデバイスの小型化と安価化が進み、簡易な温度ロガーで袋温度や槽温度を30秒ごとに記録する現場も出てきました。
このような取組は省力化と属人体制からの脱却だけでなく、予知保全や事故未然防止に大きくつながります。
現場×技術×バイヤーの三位一体で業界を動かす
これからの製造業は、現場力だけでなく、サプライヤーとバイヤーが「同じ方向を向いて改善を考える」体制が不可欠です。
各段階で得たトラブル事例・成功事例を共有しあうことで、個社の壁を超えた進化が可能となります。
例えば、バイヤーが新製品の企画段階から、パウチ材質に膨張耐性の高い新素材を提案したり、サプライヤーが独自の密封技術や点検法を水平展開できれば、「皆で儲かる」業界全体の成長につながります。
まとめ
レトルトカレー袋の膨張問題は、長い年月をかけて蓄積された現場の知と技術、加えて最新のデジタル制御技術やデータ活用によるアプローチで、今なお進化しています。
ただし、どんなに自動化や最先端技術を駆使しても、現場作業者ひとりひとりの“気づき”や、昭和から受け継ぐ“現場目線”が根本には欠かせません。
今後は、現場・バイヤー・サプライヤーが一体となって、膨張ゼロ、歩留まり向上、ひいては消費者の笑顔につながる巨大な価値創出への道を切り拓いていくことが重要です。
製造現場で培った知恵とチャレンジ精神こそが、「昭和的アナログ業界」の地平線をひろげる原動力となるでしょう。
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