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レトルト食品の具が均一に加熱される高温高圧殺菌プロセス

目次
はじめに:レトルト食品の裏側、高温高圧殺菌の重要性
レトルト食品は、私たちの忙しい現代生活に欠かせない存在になっています。
開けてすぐに食べられる手軽さや、保存期間の長さは、多くの消費者にとって大きな魅力です。
しかし、この手軽さと安全性を支えているのは、目に見えない製造現場での数々の工夫と工業的な技術です。
特に、「加熱殺菌プロセス」は食の安全に直結する非常に重要な工程のひとつです。
本記事では、レトルト食品の具材が均一に加熱されるために、どのような高温高圧殺菌プロセスが用いられているのか、実際の現場のノウハウや課題、さらには今後の動向について業界目線で詳しく掘り下げていきます。
レトルト食品の殺菌工程とは~基礎知識~
なぜ高温高圧が必要なのか
レトルト食品は、封入後にパックごと加圧釜(レトルト釜)で加熱殺菌されます。
一般的には温度120℃、圧力2~3気圧程度で20~40分間の加熱が行われ、これにより食中毒の原因となる細菌や酵母、カビなどの微生物を死滅させます。
この「高温高圧殺菌」がなければ、常温流通や長期保存は実現できません。
とくに「ボツリヌス菌」のような耐熱性の芽胞(がほう)を持つ菌も確実に殺菌するため、レトルトパウチやカップ、瓶詰、缶詰といった包装形態を問わず110℃以上の高温殺菌が求められます。
均一加熱の難しさ
しかし、この殺菌作業には大きな課題が潜んでいます。
それは、袋や容器内の「具材部分」と「液体部分」で熱の伝わり方が異なることです。
たとえば、カレーのジャガイモや肉の塊は、液体部分と比べて熱伝導が遅い傾向があります。
もし内部の一部だけが十分な加熱がされなければ、安全性が損なわれてしまいます。
そのため「容器全体のどの部位も、確実に目標温度・時間に到達させる」ことが、現場では何よりも重視されているのです。
高温高圧殺菌プロセスの現場、その手法と工夫
レトルト殺菌の主な方式
レトルト殺菌には、大きく分けて2つの加熱方式があります。
1. 水噴流方式
レトルトパウチ食品では、殺菌釜に水を噴流させて循環させることでパッケージ全体を均一に加熱します。
この方法はパウチ間の温度ムラを抑えやすく、具材が多い商品に多用されます。
2. 蒸気方式
缶詰や瓶詰では高温蒸気のみで加熱するケースも一般的です。
密封された容器内部の圧力上昇にも配慮しながら、全体を包み込むように加熱します。
最近では、蒸気と水を組み合わせて急速加熱~冷却をコントロールする「ハイブリッド方式」の設備も増えてきました。
現場の工夫:製品毎の“最遅加熱点”の特定
均一加熱を実現するためにプロが最初に行う工程は、“最遅加熱点(cold spot)”の特定です。
これはレトルトパウチや容器の中で「一番遅く設定温度に到達する箇所」を意味します。
現場では、実際に複数の温度センサーやダミーパウチを使い、中心部や大きな具材の内部など「あえて厳しい条件」を再現します。
製品ごとに異なる最遅加熱点に合わせて、時間・温度・圧力のプログラムを厳密に設計し直すのです。
こうした地味な工程が、安全性を担保する要です。
“かき混ぜる”工夫(アジテーター)
レトルト釜の内部構造や一部製品では、パッケージを優しく回転・揺動させるアジテーター(撹拌装置)を導入するケースもあります。
これにより、パウチの内部でも風味や具材が偏らず、温度分布が最適化されます。
特にシチューや具だくさんカレーなどは、この機構の効果が大きく現れます。
温度管理とログデータの追跡
昭和から続く「紙の点検表」や「現場員の経験頼み」から、昨今では各パウチ単位・バッチ単位でのデジタルデータ記録の活用が進んでいます。
加熱中の全履歴を自動保存し、異常があればリアルタイムで発見できるようになっています。
これが製造現場のトレーサビリティやクレーム対応力を向上させています。
生産性向上とコストダウン、現場の絶え間ない改善
スループット向上のチャレンジ
レトルト釜は高価な設備投資であり、多品種少量生産が増える現代では「少しでも効率よく回したい」という期待があります。
そのためには殺菌の安全マージンと効率化のバランスが不可欠です。
たとえば、加熱時間を“最適化”できれば釜1回あたりの生産数を増やせます。
しかし、安全第一が求められる現場では、「単に短縮」すれば良いわけではありません。
この最適解を現場のラテラルシンキング(横断的思考)で模索し続ける姿勢が求められます。
自動化とデジタル化の波
ここ数年、IoTやFA(ファクトリーオートメーション)のノウハウが加熱殺菌にも導入されています。
パウチの入れ間違いや装置トラブルを未然に察知するAIカメラや、殺菌履歴をバーコードで一元管理する仕組みも普及しつつあります。
個々のオペレーショントラブルの減少は、品質事故の削減のみならず、現場の人材不足対策にも貢献しています。
アナログ業界のデジタル化、現場の抵抗感と継続改善
一方、昔ながらの“大ベテランの勘”や「帳面頼り」の現場も、製造業全体でまだまだ多く根付いています。
実際の現場では、「新システムを導入しても設定ミスやトラブルがある」「現場担当者がエクセルすら不得意」といった課題も頻繁に見かけます。
そのため、段階的な教育や「バッチログの自動印刷・手書き併用」といった地道なサポートの積み上げが、30代~50代の中核現場リーダー層にとって極めて重要です。
デジタル導入は一気に進まず、現場の知恵×新技術で“現状維持バイアス”を破っていく柔軟な発想力が不可欠です。
安全・品質と美味しさ、その両立への取り組み
美味しさへの挑戦、「過剰加熱」とのせめぎ合い
食のプロフェッショナルにとって、“加熱しすぎによる風味・食感の劣化”は永遠の悩みです。
長時間の高温高圧は安全性には有効ですが、野菜のホクホク感や肉のプリプリ感は失われがちです。
そのため、食品メーカーは「可能なかぎり短い殺菌時間で、最大の安全性」を目指して、包装形態や具材カットサイズ、ソースの粘度調整といった点を絶えず改良しています。
また近年は「無加水加熱」や「具材全体を一定サイズに切り揃える」など、現場レベルでの見直しが地道に行われています。
ユーザー目線のフィードバック活用
レトルト食品は日々の生活に密着しているため、消費者からの声「具材が固かった・柔らかすぎた」「味が落ちていた」などの口コミが品質改善の宝庫です。
メーカー現場では、これら直接的な意見を商品開発部、生産現場、調達担当が“壁を超えて”連携し、PDCAを高速回転させることが肝心です。
昭和的な縦割りからの脱却も、業界の底力のひとつです。
調達・購買~バイヤーの目線で見た殺菌プロセスの重要性
サプライヤーに求められる視点
大手量販店や飲食チェーンのバイヤーは、「安全な製品」の納入元を精査する際、加熱殺菌プロセスの確実性・一貫性・データ管理能力を重視します。
単なる“美味しさ”や“コスト”だけでなく、どんな設備体制/ロット管理/緊急時トレーサビリティが組まれているか、細かくチェックしています。
信頼されるサプライヤーになるには、殺菌プロセスの見える化、工程毎のロギング履歴、工場監査への積極的な対応が不可欠です。
現場で働く担当者も、「どこで・なぜ・どう均一殺菌しているか」を明確に語れる体制作り=信用アップにつながります。
バイヤー志望者が学ぶべき着眼点
バイヤー職を目指す人は、「なぜ均一加熱が難しいのか」「どんな工夫で安定生産ができているのか」を現場目線で知ることが武器となります。
単なる表面的な数字(温度や時間の設定値)の理解だけでなく、現場ヒアリングや見学を通じて“アナログとデジタルの融合”“現場の泥臭いノウハウ”の奥深さに触れておくことが大切です。
そのような体験は、価格交渉や品質トラブル発生時に、現場との信頼関係を築く強いバックグラウンドになるでしょう。
今後の展望とまとめ~新たな地平へ~
レトルト食品の高温高圧殺菌プロセスは、安全確保と美味しさの両立を求めて、これまで「試行錯誤と改善の歴史」を重ねてきました。
今後はAIやIoTのさらなる導入により、現場ノウハウの可視化と自動制御が進みます。
しかしそれでも「現場の声」「現物の知恵」こそが、業界の底流に脈々と流れ続けるでしょう。
昭和から続くアナログ的な知見と、デジタル化の波、その双方の融合がこれからの日本の製造業、食品加工現場の新領域(ニュー・フロンティア)を切り拓いていきます。
バイヤー、サプライヤー、現場担当、いずれの立場であっても、“現場目線”で真の品質・本物の安心を生むために、苦労と情熱を持って取り組むことが新たな価値を生み出す鍵となるでしょう。
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