投稿日:2025年12月5日

返品物流が“誰の担当か不明”になり責任が迷子になる構造

はじめに:製造業に根強い返品物流の曖昧な責任体制

製造業の現場において、返品というプロセスは日常的でありながら複雑さを孕んでいます。
完成品の出荷後、用途不適合や品質不良、オーバーストックなど、様々な理由でバイヤー(調達担当者)がサプライヤーに返品を申し出る場面は少なくありません。
しかし、返品が発生した途端、「誰がその返品物流の一連を担当するのか」が曖昧になり、やがてその責任が現場内で迷子になるという事態がしばしば起こります。

この課題は、アナログ文化が根強く残るものづくりの現場特有とも言えます。
昭和型の“なあなあ文化”、縦割り組織、Excelと紙が支配する業務フロー…。
これらが、返品物流の責任所在をあいまいにし、人的ミスや感情的なトラブルを頻発させる原因となっています。

本記事では、工場長や調達担当、品質・生産管理を経験してきた筆者の視点から、返品物流がなぜ“誰の担当か不明”になりやすいのか、その業界構造を深掘りします。
さらに、現場で本当に使える返品物流改善のヒントも提示し、バイヤーやサプライヤー、製造業に関わる方すべてに役立つ知見を共有します。

なぜ返品物流の責任は曖昧化するのか?その根本構造

1. 流通プロセスの分業化と部門ごとの縦割り文化

製造業の多くは、調達・生産管理・物流・品質保証といった“部門ごとの分業体制”が確立しています。
一つの製品を作り、顧客へ届けるまでのプロセスは明瞭に見えますが、返品=負の流れが発生した場合、そのプロセスにイレギュラーが発生します。

例えば、返品品が現場に戻ってきたとき、「物流部門は受け取るだけ」「品質部門は検査をするだけ」「購買部門は社外との折衝だけ」という縦割りの論理が表面化します。
返品された物品が“誰の管轄物なのか”がはっきりせず、一時的に現場の端に“置かれっぱなし”になることも日常茶飯事です。

2. 曖昧な業務フローと属人化したオペレーション

返品プロセスに関するルールや取扱い基準が明文化されていない、あるいは現場ごとにその内容が異なり、属人的な運用に頼るケースが多く見受けられます。

「返品品はAさんの机の上に置いておけばなんとかしてくれるだろう」
「取り急ぎ倉庫の隅に置いておこう、後で誰かが回収してくれるだろう」

こんな“とりあえず”運用が横行し、いつの間にかその返品品が“迷子”になる。
結局、「あれ、返品品の対応、誰が責任者だっけ?」という責任のたらい回しが発生します。

3. アナログ文化の根強さ:情報共有の壁

本来であれば返品物品に関する現場間の情報連携はシステマチックに進んで然るべきですが、製造業界では“メール&電話&口頭伝達”がいまだに主流です。
情報の伝達漏れやダブルブッキング、確認ミスが重なり「自分の担当外だと思い込んでいた」という事態は枚挙にいとまがありません。

返品責任のたらい回しが現場にもたらす弊害

1. 品質・生産効率への負の影響

返品物品が倉庫や工場フロアの隅で“放置”されている間、本来であれば再資源化・修理・再販売など何らかのアクションを取る必要があります。
責任の所在が不明確なため、迅速な対応がされず、生産計画の修正や在庫管理が滞ります。

更に、混乱した返品処理プロセスは、部門間の信頼関係や従業員のモチベーション低下に直結します。
「またあの部門が責任を押し付けてきた」「自分がやる義務はない」という悪循環が生まれ、チームワークに亀裂が入ります。

2. 顧客満足度の低下とクレーム増加

バイヤーやエンドユーザーは「返品したのに返金が遅い」「交換品が届かない」という不満を抱くことになり、流通サイドへのクレームとして跳ね返ってきます。
一度クレームが発生すると、関連部門全体が多大な時間的・精神的コストを負うことになります。

3. コスト増加、信頼関係崩壊という長期的リスク

返品物流の責任曖昧化は、不要な二重処理・再出荷事故・棚卸しのミスなど、目に見えない無駄なコストを生み出します。
長期的には、サプライヤーとバイヤー双方の信頼関係が損なわれ、ビジネスパートナーシップにも悪い影響を及ぼします。

業界あるある:「返品物流プロセス迷子」に陥りやすい現場の典型例

事例A:購買部門が「物流へ丸投げ」、物流部門が「現場担当を指名」

購買担当が顧客から返品要請を受け、裏紙に「返品品・至急」と走り書き。
「現場の物流担当へ渡したから、あとはお願い」と引き継ぎし、物流部門は「どこに置けば良い?品質部門に回すべきか?」と社内を右往左往。
結局、2~3日誰も対応できず、上長に叱責されて初めて全員が集まって経緯を再確認…という悪循環。

事例B:倉庫管理システムに返品ルートが組み込まれていない

最新の倉庫管理システム(WMS)を導入していても、返品品専用の扱いコードやプロセスが登録されておらず、デフォルトの入庫処理に頼るだけ。
どの部門が最終的な処理をすべきか情報が棚上げになり、返品品が通常品の棚に紛れ込んだまま発見が遅れることも。

事例C:サプライヤー⇔バイヤー間の担当責任区分が契約書に明記されていない

一部の大手サプライヤー・バイヤー間でも、返品時の責任範囲や処理フローが取引基本契約や仕様書に曖昧にしか記載されていないことがしばしば。
現場レベルでは慣例に従い処理しがちだが、いざトラブル発生時に「どちらの責任か」論争となり、解決に時間を要する。

解決策は?現場目線でできる返品物流管理の改善アプローチ

1. 「返品プロセスの見える化」と責任者の明確化

まず最優先すべきは、返品物流に対する「プロセスの明文化」と「責任者の明確化」です。
返品が発生したら、その受付から、検品、再資源化、廃棄、再手配、最終処理まで“全部門を巻き込んだ業務マニュアル”を作成します。

加えて、「返品管理担当(仮称)」を明確に指名し、一連のプロセスのリーダーとなる役職・担当者を設置しましょう。

シンプルなフローチャートや手順書、責任分担表を用意し、現場で配布・周知徹底するだけでも、導線の混乱・責任の曖昧化を大幅に防ぐことが可能です。

2. DX活用:バーコード・タブレットで履歴管理と情報共有

いまだに多くの工場で“紙の伝票”や“口頭伝達”が根付いていますが、返品こそデジタルツールの導入効果が高い分野です。

(例)
・返品品にバーコード・QRコードを付与し、移動・検品のたびにスキャンして履歴をトレース
・タブレットやスマートフォンで返品状況を閲覧・更新できるシステムを導入

この仕組みを実現するだけで、「誰が・いつ・どのステップを担当したか」が一目瞭然になり、責任の因果関係も明確化します。

3. サプライヤー・バイヤー間で返品時の“責任範囲”を契約に明記

商習慣として「返品時は柔軟に対応」が美徳…という古い考え方から脱却し、取引契約や仕様書に返品が発生した場合の責任区分、物流費用の分担、対応スケジュールなど具体的なフローを必ず記載するようにしましょう。

また、定期的な全体ミーティングで返品事例を共有し“改善点のフィードバック”ができる関係性を築くことが重要です。

4. ヒヤリハット・レポートの積極的な蓄積と改善ラウンド

現場で発生した返品品の迷子や処理の遅延などは、全社的なノウハウとして蓄積しましょう。
週次または月次の“ヒヤリハット”レポートとして現場全員で共有し、有効な改善策をPDCAサイクルで実施する習慣を築くことで、全社の返品処理スキルが向上します。

まとめ:「責任の見える化」が製造現場を変える

製造業界における返品物流の「誰の担当か分からない」「責任が迷子になる」という問題は、現場の非効率だけでなく、企業と顧客・取引先の信頼関係にも大きな影響を及ぼします。
昭和型の“なあなあ文化”や曖昧な風土を打破し、返品プロセスの見える化・責任分担の明文化こそが、競争力向上の第一歩です。

サプライヤー・バイヤーはもちろん、製造現場で働くすべての方が“返品物流の現実と未来”を真剣に考え、変革の旗手となってほしいと願います。

少しの工夫と仕組み作りで、大きなロスやトラブルは劇的に減らすことが可能です。
現場のリアルな悩みを、みんなでオープンに議論し、明日から実行する――。
それが、真の“現場力”です。

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