投稿日:2025年12月11日

リユースパレットの使い回しが品質事故を誘発する実例

はじめに:進化する物流現場に潜む落とし穴

製造業に携わる皆さまにとって、物流現場の効率化は避けて通れないテーマです。
近年、SDGsへの対応やコスト削減の観点から、リユースパレットの利用が広がっています。
一方で、「パレットの使い回し」による品質事故が後を絶ちません。
本記事では、現場で何が起きているのか、その原因と背景、そして未然に防ぐためのヒントを実践的な事例をもとに深く考察します。

リユースパレット普及の背景と市場動向

コスト削減と環境配慮の双方を狙う流れ

かつては木製や使い捨て型が主流だったパレットも、時代の流れとともに繰り返し使えるプラスチック製や耐久性の高い素材への転換が進んできました。
この背景には、廃棄物削減や廃材コストの抑制、「持続可能なサプライチェーン」の再構築という大きな波があります。
さらに、物流会社間の共同利用やレンタルシェアリング、IT管理など業界の枠を超えた連携もうまれています。

昭和時代のまま進化しきれていない現場も多数

しかし現実には、アナログな運用が根強く残っている現場が多いのも事実です。
「パレットさえあれば動くから」と棚卸や整備無しに使い回す、手書き伝票での運用を続ける、数十年前からの業者と慣習でシステム改善しない、といったケースも少なくありません。
その意識のギャップが、品質事故の温床となっている側面があります。

リユースパレットの“使い回し”事例と発生ポイント

実例1:木製パレットの劣化が高額賠償事故に直結

某電子部品工場で起きた事故の例です。
化粧箱に詰めた精密部品を、物流センターにストックしていた中古木製パレットで搬送しました。
過去に常温・高湿な屋外保管がされていたためパレットは内部腐食・カビが発生していましたが、外見からはわかりませんでした。
納品後、顧客から「部品に黒ずみ・異臭」というクレームが入り調査したところ、木製パレットからカビ胞子による二次汚染が商品全体に広がっていました。
最終的に全量返品+約1000万円超の損失が発生しました。

実例2:プラスチックパレットの微細破損による搬送中の製品損傷

食品メーカーでの事例です。
大量回収ルートで一部パレットの割れが補修されないまま再利用されており、角が微細に欠損していました。
そこへ重量物を積載した際にバランスを崩し、フォークリフトの輪止め時に山崩れが発生。
大量の飲料が箱ごと転倒し一部破損、搬送効率も大きく低下しました。
根本的な要因は「パレットの状態確認を誰も担当しない」「修理・廃棄ルールがない」ことでした。

実例3:異物混入・交差汚染リスクの見逃し

医薬品・化粧品業界ではコンタミネーション対策が絶対条件です。
しかし、複数の取引先で「専用パレット管理」が曖昧なため、前工程(例:化学品原料輸送)と後工程(例:包装済み医薬品出荷)で同じパレットが使われてしまう事例があります。
人為的な洗浄忘れや識別ミスによって異物・臭気の混入やラベル貼り間違い、段積み時の異品混載が現実に発生しています。
一度事故が発生すると、信頼回復には長い時間と膨大な費用を要します。

なぜ「使い回し」が品質リスクにつながるのか

パレット自体は「消耗品」であるという認識の希薄さ

多くの現場で、「パレット=ただのモノ」または「なんとなく大丈夫」という心理が抜けません。
生産や品質の重要な一部であるという認識が、現場教育やルール導入の遅れもあわせて根付いていないことが多々あります。

履歴管理や定期点検の“属人化”

現場が慣習や属人的な運用のままでは、「このパレットは何度・どこで・どう使ったか」というトレーサビリティが途絶します。
また、高度経済成長期からの体質で、検品・修理・破棄の基準が現場ごとでバラバラで「見た目がきれい」で通してしまう温度差もリスクを広げています。

現場の都合と経営層の視点のずれ

実は、経営層と現場担当者でリスク認識が大きくずれる場合があります。
経営層は「コストダウン」「SDGs」をアピールし、現場は「人手不足・多忙」を理由に省略・流用が黙認されがちです。
現場の実情と経営の要請が嚙み合わないことが、脆弱な管理体制を生んでしまう要因になっています。

バイヤー・サプライヤー各立場から見たリユースパレット管理の“壁”

バイヤー視点 —管理の要求レベルが増大、取引コストへの跳ね返り

バイヤー(調達部門)から見れば、自社ブランドの品質を守るべく厳しいパレット管理を要求したくなります。
新品同様の清潔管理、個別番号での履歴追跡、定期的な第三者チェックなど理想論は簡単ですが、実際はパレットの一括回収・リース・再利用の中でコスト負担や物流効率とのせめぎ合いが現れます。
また、パレットの管理体制が甘いサプライヤーとは長期的な取引継続が危ぶまれるリスクも加味しなければなりません。

サプライヤー視点 —利益圧迫・現場負荷との苦闘

一方、現場サイドは「またリユースの査定か…」と手間とコスト増大に頭を抱えがちです。
現場作業員のマンパワーは有限で、パレット点検・仕分け・補修・洗浄のために作業を止めるわけにもいきません。
低価格競争が激化する中、パレット管理を標準化しようとしても、慣習と経済合理性とが衝突することが多々あります。

リユースパレットで“品質事故”を回避するための現場発想

思い込みを疑う「パレットは製品の一部」の再教育

現場と管理職、経営層まで「生産・物流工程のパレットは“製品品質の最後のバリア”」という意識を徹底する啓発活動が必要です。
品質教育や5S活動の中に「パレット点検」を組み込む、小集団の輪番点検・KYT(危険予知トレーニング)へ展開するなど、従来の枠を超えた運用が求められます。

IT・デジタルの活用による見える化と自動管理

最新のIoTタグやQRコードによるパレット管理システムを試験導入する企業が増えています。
パレットごとに「利用歴」「修理歴」を自動記録し、重大劣化・異物チェックなどのアラートを自動発信できる体制も見逃せません。
昭和的な“現場カン”だけに頼る運用からの脱却が、事故リスク低減の新しい道です。

協力会社・バイヤー・サプライヤー三位一体の現場改善

現場〜調達〜物流管理者が集まり「リユースパレット共同検証会」「パレット品質協定」といった相互監査型の取り組みも成果を上げつつあります。
単独の現場最適ではなく、サプライチェーン全体を巻き込んだ仕組みづくりこそが持続的な競争力につながります。

まとめ:今こそ“見えないリスク”への投資を

業務効率化やコストダウン、SDGs達成だけに目を向けていると、思わぬ落とし穴が現れます。
リユースパレットの「使い回し」に潜む品質事故は、現場の“なんとなく”“たぶん大丈夫”の積み重ねから生じています。
管理システムや現場教育、デジタル化への投資は一見コストですが、顧客満足と信頼、製品品質の維持にこそ直結します。

パレットという「たかが物流資材」「消耗品」に新たな視点を持てるか、現場レベルでのラテラルシンキングこそが昭和の物流の壁を突破するスタートラインです。
読者の皆さまが、明日からの改善活動に少しでもヒントを持ち帰っていただければ幸いです。

You cannot copy content of this page