投稿日:2025年8月14日

嵌め合い選定を見直し研磨レスを実現するはめあい設計

はじめに:嵌め合い選定が変える製造業の未来

嵌め合い設計は、ものづくり現場において最も重要な設計要素のひとつです。

特に日本の製造業では、昭和時代から受け継がれるアナログな図面管理や現場の「勘と経験」に頼る文化が色濃く残っています。
そのため、嵌め合い(公差)の指定は「とりあえず安全サイド」「いつもの値で」となりがちであり、過剰な研磨や仕上げ加工、結果的なコスト増を当たり前としている職場も多いのが現実です。

しかし、DX化や自動化が進む現在では生産性と品質の最適化が強く求められるようになっています。
そこで今回は「嵌め合い選定を見直し、研磨レスを実現する最適なはめあい設計」について、現場の実践知と業界動向を織り交ぜて解説します。

バイヤーを目指す人や、サプライヤーからバイヤーの考えを知りたい方にも役立つ内容にまとめました。

嵌め合い設計の重要性:なぜ見直しが必要なのか

なぜ昭和の嵌め合い設計が今も残っているのか

「嵌め合い精度は厳しいほうがいい」「寸法は守って当たり前」「仕上げは現場に任せろ」――
こうした文化的背景が根強い理由は、長い間、職人技頼みの品質保証体制が続いてきたためです。

公差を緩める=不良リスクが上がる、という誤解が現場にもベテランにも蔓延しています。

しかし実態は逆です。
過剰な嵌め合い精度は「ムダな仕上げ工数」「検査負荷増」「リワーク・手直しの温床」となり、結果的にコスト競争力を低下させている事例があとを絶ちません。

現場の3K(きつい・きたない・きけん)と嵌め合いの関係

精密な嵌め合い指定が多いほど、現場では高度な研磨や測定を要求されるため、熟練者以外は品質維持が困難になります。
結果として、「できる人が限られる」「納期遅延のリスクが高まる」「若手の定着率が下がる」など、悪循環も目立っています。

長時間かけて研磨作業をしたはずが、組み立てで部品が嵌まらない、動かない――これでは生産性の向上も働き方改革も本末転倒です。

業界トレンドは「必要十分公差」へのシフト

昨今は、設計段階で「機能に必要な嵌め合いだけを確保する」という考え方が主流となっています。
いわゆる「必要十分公差設計」です。
これにより、無理・ムラ・ムダのない現場運用、さらにはサプライチェーン全体の効率化へ繋がっています。

公差の見直しが導く研磨レス化のメカニズム

嵌め合い指定を見直すだけで何が変わるのか

嵌め合い(公差)とは、軸と穴の寸法許容範囲を規定するものです。
例えば、JIS B 0401などに代表される公差等級を定めることで、製造現場は「どこまで仕上げを頑張ればよいか」を知ることができます。

しかし、必要以上に厳しい公差にすれば、研磨や追加工の工程が多くなりコストアップします。
逆に、使用目的・機能要件から見直し、本当に必要な嵌め合いに限定すれば、研磨レス、あるいは自由公差だけで問題なくクリアできる設計が可能になります。

嵌め合い公差と部品コスト・品質保証の相関

実際の現場でよくある失敗例として、設計が「とりあえず高精度で」としてしまうことで、外注先の加工費用が跳ね上がり、納期も延び、最悪「コスト合わずで見積断念」となることもあります。

逆に、設計段階で機能評価→公差緩和を実施した例では、
・仕上げ工程が1~2工程カット
・ロット毎の測定工数が大幅カット
・流動検査を自動化(IoT・画像認識等)できるようになった
など、目覚ましい変化が生まれています。

特に、海外協力工場や新興国サプライヤーとの共創では「どこまで自由公差で攻められるか」が競争力の分かれ目です。

実践!はめあい設計見直しプロセス

Step1:使用目的と機能要件の明確化

嵌め合いの見直しが成果をもたらすポイントは、部品の「本質的な役割・使用目的」に立ち返ることです。
単なる「軸-穴」を嵌め合わせるのでなく、
・荷重・トルクなどの伝達精度は本当にどこまで必要か?
・回転、滑動時の抵抗や遊びはどの程度許容できるのか?
を数値で確認し、クリティカルな箇所だけ厳しい公差としましょう。

例えば、調達品のガイドピンに対し±0.005mmという指定をしている場合、
「用途:位置決めのみ」「衝撃なし」「再組立や現地調整しやすい構造」なら、±0.05mmでも十分なケースが意外と多いです。

Step2:嵌め合い種別の選定ガイドライン活用

JISやISOで定められている代表的な嵌め合い種別(すきまばめ、中間ばめ、しまりばめ等)は、意外と現場でナアナアにされがちです。
設計段階から「どの嵌め合いがベストか」を吟味し、根拠ある指示書きを徹底しましょう。

近年はデジタルツール(CAD, PDM, PLM)でも自動的に最適嵌め合いをサジェストする機能が増えているため、積極活用しましょう。

Step3:加工限界とのすり合わせ~現場・サプライヤーとの連携

寸法公差は、設計者だけが完結できるものではありません。
量産現場・協力工場と連携し、「実際にはこの精度まで簡単に出せます」「この工程をカットできる」など、現場意見を吸い上げることが重要です。

特に外注先や海外工場との打合せ時、「従来品は追加工が必須だったけど、今回の設計変更で工程ショートカットが可能になった」となれば、調達リードタイム短縮とコスト削減が同時に実現します。

嵌め合い設計の見直しがもたらす事例・効果

導入事例1:自動車部品の量産ではめあい公差緩和→工程ゼロ化

具体的な現場事例として、自動車業界のある部品メーカーでは、従来「軸と穴のすきまばめ」に±0.01mmの厳しい公差を設けていました。
これは品質トラブル発生時の保険的な意味合いが大きかったのです。

そこで、部品の機能要件(回転数、荷重、耐久性)を再評価し、サンプル評価を何度も繰り返した結果、±0.04mmまで公差緩和が可能であることが判明しました。
これにより、最終仕上げ工程の精密研磨(外注)がゼロになり、自社内で旋盤+仕上げバリ取りのみの一貫生産が可能となりました。

1ロット当たり20%のコストダウン、納期2日短縮、そして研磨工程の廃止で作業員の負担も大幅に軽減されています。
現場の生産性と働き方改革の両方に好影響を生み出しています。

導入事例2:サプライヤーとの協働改善が新規取引を生む

産業機械業界あるサプライヤーでは、従来より「精密測定装置」の部品供給にて、バイヤーから厳しい嵌め合い仕様を求められていました。
ところが、設計段階からサプライヤーが「この加工方法ならばコストを下げられる」「この部分は公差が広げられるのでは?」と提案し続けた結果、バイヤー側も「過去の慣習から公差を絞りすぎていた」と認識を改めました。

結果、自由公差レベルで良い部品が大半となり、リピート受注+新規アイテムの取引拡大にもつながった実例があります。
このように、バイヤー・サプライヤー双方の知識と対話が、持続的な価値創造を生み出します。

デジタル時代のはめあい設計:AI・CAEによるシミュレーション活用

近年はAIやCAE(コンピュータ支援工学)による寸法応差影響解析が進展し、嵌め合い設計の最適化がますます容易になっています。
設計段階で複数パターンをシミュレーションし、「必要十分」な仕様に自動で誘導する技術は今後ますます普及していくでしょう。

また、IoTや画像認識による工程内検査の自動化により、「現場頼みのアナログ検査」から「設計段階で基準を明確化し現場負荷を減らす」方向への転換も加速します。

まとめ:はめあい選定の見直しから製造業全体の変革へ

はめあい設計・選定の見直しは、単なる公差指定の話にとどまりません。
それは「ムダな工程ゼロ化」「生産性革新」「サプライチェーン全体最適化」「現場の3K脱却」「若手活躍の場拡大」という波及効果を持っています。

昭和から受け継がれてきたアナログな現場文化も尊重しつつ、新しい時代のトレンドやデジタルツールも積極活用していきましょう。

皆様の職場や取引先でも、一度「本当に必要な嵌め合い精度はどこか」「何のための精度か」「研磨レス化は可能か」を問い直してみてください。
バイヤー・サプライヤー双方が手を取り合い、さらなる競争力強化、業界の発展につながることを願っています。

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