投稿日:2025年8月14日

ISO286のはめあい選定を見直し研磨レス実現で加工費を圧縮

はじめに:ISO286はめあい選定の見直しがもたらす意義

製造現場では、部品同士の組付け精度、性能安定性、そしてコストダウンを同時に叶えることが求められています。
特に金属部品のはめあい(公差・しまりばめ、すきまばめ、中間ばめ)は、品質だけでなく、加工費にも大きく影響します。
近年、デジタル化が進む中でも、現場では「昭和から変わらぬアナログなはめあい基準」にとらわれ、研磨工程が当たり前という固定概念が根強く残っています。

一方で、グローバル競争が激化し、原価低減や歩留向上がさらに強く求められるようになりました。
こうした背景の中、ISO286のはめあい選定を見直し、研磨レス化(研磨工程の省略)を実現することは、製造業にとって新たな“地平線”を開拓する重要なテーマです。
本記事では、その具体的な方法やメリット、現場が陥りやすい課題と対策、サプライヤー側から見た注意点、最新動向などを、実践的かつ現場目線で解説します。

ISO286はめあい選定の基礎をおさらい

ISO286とは何か?

ISO286は、国際規格で定められた寸法公差(限界とはめあい)の基準です。
JISとも互換性が高く、主にシャフトと穴の「はめあい制度」の基準として採用されています。
はめあいは大きく分けて以下の3つに分類されます。

– しまりばめ(インターフェレンスフィット):強い圧入での組立
– すきまばめ(クリアランスフィット):組立時に隙間があり、回転体などに使用
– 移行ばめ(トランジションフィット):圧入か隙間になるか、微妙なバランス

設計にあたってこれらの選定を間違えると、過剰品質やコスト増、最悪の場合は納入トラブルにつながります。

従来の日本の「暗黙知」や慣習

多くの工場では「加工後は必ず研磨」とされるケースが多々見受けられます。
昭和時代の機械設計・部品加工の“教え”が現在も根強く残っているためです。
また、過去にトラブルを経験した現場担当者ほど、つい過剰品質を採用しがちです。
これは一種の「保身」であり、「今まで通り」が最大の安全策であるという思考です。

研磨レス化がもたらす圧倒的なコストメリット

研磨工程のコスト構造を分解する

研磨工程は一見単純に見えますが、実はコストの塊です。

– 研磨用設備(機械・冶具)の減価償却
– 専任オペレーターの人件費
– 段取り、脱着の手間
– ワークの搬送・取り回し
– 研削材や潤滑材の消費
– ノギスやマイクロメータを使った最終寸法保証の工数

仮に旋削加工(NC旋盤)だけで規定公差を満たせるのであれば、これら“隠れコスト”を大幅に削減できます。

工程短縮=リードタイム短縮へ

研磨が不要になれば、「加工」→「洗浄」→「検査」→「出荷」といった流れがシンプルになります。
一工程減るだけで、リードタイムは下手をすれば二日~三日短縮となる例も多く、キャッシュフロー改善にも寄与します。

品質安定化による利益向上

工程を減らせば減らすほど、「人為ミス」や「持ち替え時のキズ」などのリスクも低減します。
また、サプライヤーとのやり取りでの「再研磨依頼」や「追加検査指示」など、管理コスト・調整コストも減少します。

はめあい選定“見直し”の具体的な手法

1. 必要な機能要求から逆算する

現場でよくあるのは、「今までこれでやってきたから」としていきなりH7/g6などのはめあいを指示してしまうパターンです。
しかし、実際にその公差域が“本当に必要か”という根本的な問い直しが必要です。

– 高回転が必要な場合 → 真円度・同軸度、すきまばめ重視
– モジュール化した部品で“組立性重視” → 過剰な締まりばめは不要
– 熱膨張、材料特性を考慮 → より許容幅の広い移行ばめも選択可能

「設計者が部品の“使われ方”を現場・調達と一緒によく検証する」ことが最初の一歩です。

2. 工作機械の性能を熟知して公差域を決める

NC旋盤やマシニングセンタの高精度化は目覚ましいものがあります。
現場の工作機械がどの公差まで現実的に旋削・切削で出せるのか。
最新機の導入や冶工具の工夫によって、旋削のみでH7/h7が狙えるケースも珍しくありません。

サプライヤーと協議し、「どの程度の精度なら研磨レスで保証できるか」を営業・技術・管理者で合意形成することが重要です。

3. ファンクションアプローチで“ムダ品質”を削る

本来、「旋削仕上げ」で機能要件を満たす箇所に「研磨付き図面ありき」は、“過剰品質”でしかありません。
機械の耐久寿命や据え付け時の要求精度など、真に必要な性能にフォーカスして“品質の視点”を合わせるべきです。

たとえば一次受けから二次受けまで一貫生産ができる部位であれば、納入側とエンドユーザーで「許容公差表」を擦り合わせることができます。

昭和の慣習から脱却できない組織が見落としているリスク

「とりあえず研磨」主義による損失

図面を見るたびに「とりあえず研磨」をルーティン化している現場は、総じてコストダウン意識も低いです。
その背景には「多少高くても安定納入が最優先」といった意識が根強くあります。

実際、サプライヤー側からすれば、「研磨工程追加=単価アップ=リードタイム延長」につながります。
結果として、調達購買部門は「サプライヤーチェンジ」や「コスト競争力低下」に悩まされます。

海外サプライヤーとの公平な比較が難しくなる

ベトナムや中国、タイなど新興国の加工業者は「研磨レス」を前提に相見積を取ってくるケースが増えました。
日本独自の“過剰品質”が、国際競争上のデメリットにつながる場面も出ています。

調達(バイヤー)側は常に、「現場品質」と「グローバル基準」のバランスを意識して見直しをかけなければなりません。

具体的な現場改革の進め方

1. 図面標準・公差表の棚卸し

部品図面に記載される全はめあい公差をリスト化し、「目的」「現状の加工方法」「要求精度」「不良発生率」などを可視化します。
これによって、「思い込み設計」の横行や、「昔の使い回し図面によるムダな研磨工程」を発見できます。

2. 部署横断型のPJチーム化

調達・設計・生産技術・現場・品質保証が合同で“研磨レス検討PJ”を組成します。
図面1枚ごとに、
– 「現場の設備能力ならここまで精度保証可能」
– 「ここは従来通り研磨付き」
– 「旋削のみで十分」
などの区分けを徹底することが重要です。

3. サプライヤーQCD会議の実施

協力会社(外注先)と定期的に「QCD(品質・コスト・納期)会議」を実施することで、「測定データ」や「加工不具合情報」などのフィードバックを設計部門へ還元します。
これが設計のアップデートや標準の書き換えに直結します。

バイヤー、サプライヤーそれぞれの立場でのポイント

調達購買(バイヤー)としてのチェックリスト

– 部品表・発注仕様に過剰な精度を安易に入れていないか?
– サプライヤーの加工現場・設備能力を直接ヒアリングしているか?
– 研磨レス提案時に、品質保証の新基準や自己検査体制を整えているか?

サプライヤー(加工メーカー)としての戦略

– 「研磨レス実現可能です」と能動的に提案することで、同業他社との差別化ができる
– フロント工程のみで寸法保証できる場合、リードタイム短縮・コスト提案によってバイヤーの評価が上がる
– 不良時のリスク管理や再発防止プランをプリセットしておくことで信頼構築

最新トレンドと将来像:自動化との親和性とDX推進

旋削加工や仕上げ精度の「全自動測定」や「プロセス内寸法補正」など、設備IoTやAI技術の導入が進んでいます。
この流れの中で「はめあいの管理精度」自体も工程内保証へシフトしつつあり、従来の保守的な品質管理では時代遅れとなるリスクがあります。

また、設計段階で「加工容易性設計(DFM)」や「コストエンジニアリング」を織り込むことで、工場全体が“省工程・高効率”化の新たなスタンダードとなりつつあるのです。

まとめ:今こそ「はめあい選定DX」で競争力を創出しよう

ISO286のはめあい選定見直しと研磨レス実現は、単なるコストダウン施策ではありません。
設計―生産―調達―品質、組織全体の思想・仕組み・連携を変え、「余白(ムダ)」を削ることで真の国際競争力が生まれます。
これまで「当たり前」と信じてきた公差指示や研磨工程――今こそ、その一つ一つにクリティカルな問いを投げかけ、現場発の強い改革を推進していきましょう。

現場を知る皆さんの挑戦が、明日の日本の製造業をアップデートする原動力となります。

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