投稿日:2025年8月23日

スプリングピンとねじの選択を見直して部品点数を減らす設計

はじめに ~「部品点数削減」は製造業の永遠の課題~

現在、国内外を問わず製造業界はコストダウン、生産性向上、品質安定化を求めて不断の改善に取り組んでいます。
その中でも「部品点数の削減」は、不良率や組立工数の削減、在庫圧縮など、あらゆる経営課題解決のカギとなります。
しかし、昭和的な現場では「いままで通りのねじとピンで…」と、部品構成を疑わずに踏襲している例が多いのも事実です。

本記事では、新旧の常識に捉われずに「スプリングピン」と「ねじ」の選択を見直し、部品点数を本質的に減らすことでメリットを享受する現場設計のノウハウをご紹介します。
バイヤーを目指す方はもちろん、長年サプライヤーサイドで製造業に携わる方も、実践的なヒントとしてぜひ参考にしてください。

スプリングピンとねじ、その役割を見極める

そもそも「スプリングピン」と「ねじ」の違いとは何か

多くの設計現場では、部品締結・位置決めに「ねじ」と「ピン」を組み合わせて利用しています。
スプリングピンは、弾性によって圧入し、機械的な遊びを吸収する機能部品です。

一方ねじは、部品同士を締結する「外せる」強度部品として使われます。
ときに「ねじがゆるみやすいから安全のためにピンも併用」などと、漫然と両方が採用されるケースが後を絶ちません。
ですが本当に両方必要なのか、また技術進展した現代において本当に最適なのか、疑いをもつべきタイミングに差し掛かっています。

ねじの”ダブル使い”は昭和スタイルの典型

たとえば、ベースプレートと本体フレームの固定に、両側から2本ずつのねじ――いわゆるダブル使い設計。
これは工具の制約や、ねじ公差による締結不良リスクを「とにかく本数でカバー」しようとした、昔ながらの手法です。
これでは当然、部品点数の多さ・組立手順の複雑化・管理コスト増という多重苦を生みます。

逆に海外工場の現場では「無駄を省く」思想が根付いており、組立工程の短縮・部品一体化設計が進んでいます。

設計段階で見直したい、部品点数削減のアプローチ

スプリングピンの利点を最大活用する

スプリングピン(巻きばねピン)は、圧入時の弾性と摩擦力で高い保持力を発揮します。
しかも一度圧入するだけで位置決めと圧着が完了し、ねじのような締付トルク管理や緩み止め対策も不要です。

たとえば、モーターユニットのギア軸やリンク部品の固定、インデックス装置の位置決めなど、緩み難さと組立時間の削減に大きな威力を発揮します。
スプリングピン1本で済む箇所を安易に「ねじ+ダウエルピン」などとしていませんか?
これだけで部品点数が2割、場合によっては半減する事例も存在します。

ねじ締結を減らす=組立工数とミス率の大幅低減

ねじの本数を減らすと、単純に「運用時の部品管理」「組立時の工数」「ロケーションエラー」「締付トルク不良」など、あらゆるリスクが下がります。
また組立やメンテナンスの工具選定、プリセットトルク管理、締付けの再現性など、一見目立たない現場作業の簡素化にも大きな効果があります。

ひとつのユニットごとに「ねじ本数を一本減らす」「共通部品化する」だけでも、全体の工程設計レベルでコストインパクトは絶大です。

なぜ従来設計から脱却できないのか

「失敗したくない」文化が保守的設計を生んでいる

多くの日本のものづくり現場では「過去の実績」「納入側との合意事項」を最大重視するため、思い切った部品点数の見直しが進みません。
また、万が一不具合が発生した際の責任問題を回避するため、本質的な要不要ではなく「とりあえず増やして安全」思考になりがちです。

また、設計者と生産技術者、購買調達部門、サプライヤーの間で「ねじとピンの機能要求」が明文化されておらず、なんとなく「両方使ったから安心」という悪しき慣習も根強いのです。

サプライヤーにも波及する”複雑化”の連鎖

発注側の設計が無駄に複雑なねじ・ピン構成を選択すると、サプライヤー側もそれに合わせて無駄な部品ストック、トレース管理の工数増、ピッキングトラブルなど、二次的負担が増幅します。

サプライヤーにおいても、「なぜここに2種類のねじが必要なのか」「ねじをピンに代替できないか」など、顧客設計思想を理解し提案できるバイヤー・生産管理が求められます。

事例紹介 スプリングピン活用で半減した部品点数

自動車部品組立ラインでの改善

ある自動車部品メーカーでは、エンジン周辺のセンサーブラケットの取り付けに「ねじ2本+ダウエルピン」を通例としていました。
生産数14万台規模のラインで、組立工程の工数増大、部品管理の煩雑化、現場から「もっと簡単にならないか」との声が上がっていました。

そこで圧入タイプの高強度スプリングピン一本で、ブラケットの位置決めと保持を兼ねる設計へ変更。
ねじ締結が不要になり、「組立時間30%短縮」「部品点数半減」「ねじ関連不良ゼロ化」を実現しました。

製品設計を見直す勇気がコスト競争力強化につながる好例です。

工作機械部品サプライヤーの視点

工作機械部品の量産工程では、図面指定のねじ・ピン構成による「管理コストの膨れ上がり」が慢性的な悩みです。
一方で納入先バイヤーによる要求事項「ねじの再現性」「メンテナンス性」を満たしつつ、スプリングピンやOEM一体部品で共通化を提案すると、逆に「設計見直しありがとう」とリピート受注につながりました。

サプライヤーも「言われた通り作るだけ」から「機能要求を汲んで代替部品提案できる」時代に来ています。

最新トレンド:デジタル設計と自動化が後押し

3D-CAD・シミュレーション活用で部品一体化が加速

近年は3D-CADやCAE解析の浸透により、「部品点数や位置決め精度」の検証が事前に容易になりました。
スプリングピン設計の適否、圧入部の応力集中なども事前確認できるため、従来なら設計変更をためらった部分も短期間で実装できます。

「ねじ4本は古い、ワンタッチ嵌合+スプリングピンで軽量化」という海外ベンチマーク事例も増えており、アナログ業界でも潮流が変わりつつあります。

自動化ラインの普及が「ねじレス設計」を加速

自動化によるファクトリーオートメーション(FA)導入が進むと、ねじ締結工程は意外とボトルネックになります。
ツールの自動搬送やトルク管理が複雑化し、定期的なねじ不良・緩み不良が発生しがち。
一方、圧入専用のスプリングピンなら、ロボットでも安定供給&短時間装着が容易で、「ヒューマンエラーの排除」「トルク不良ゼロ」「ライン停止リスクの低減」につながります。

このように、製品現場から逆算した設計変革が”ねじvsスプリングピン”だけでなく部品点数削減全体のトレンドになり始めています。

バイヤー・サプライヤー両者が押さえたい視座

調達・購買担当者のチェックポイント

1.「機能保証のために”とりあえずねじを多めに”」という思考を見直す
2.部品一体化、共通化、置き換え(ねじ→ピン)提案の受け入れ体制をつくる
3.設計変更時はロット管理・在庫影響も分析し、段階的な移行で現場負荷を最小化する

サプライヤーが発注者の意図を理解する重要性

1.「なぜこの仕様か?」「もっとシンプルにできないか?」というWhy思考で設計意図を読み取る
2.仕様要求に応えるだけでなく、互いの現場効率を高める代替案・コスト低減案を積極提案する
3.リスクを嫌う保守的姿勢だけでなく、工程上のメリット訴求で共存共栄を目指すことが肝要

まとめ

スプリングピンとねじの選択を見直し、部品点数を大胆に減らす設計は、決して「安全性を犠牲にしてまでコストダウンする」ことではありません。
むしろ最新の設計技術や現場視点を反映することで、全体最適化と機能保証・品質安定性・コスト競争力向上を同時達成できる大きな潮流となりつつあります。

調達・設計・現場管理をまたいだ実践的な見直しこそが、昭和的なアナログ常識を打破し、サプライチェーン全体の生産性を押し上げる原動力です。
日々の設計検証や調達選定の中で、「本質的に必要なのはなにか」「代替できるものはないか」の視点を忘れず、現場実態に合った最適設計を追求していきましょう。

製造業に勤める皆さま、購買や生産管理を目指す皆さまにとって、この記事が現場改善への新たな一歩となれば幸いです。

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