投稿日:2025年7月7日

粘性粘弾性測定から解析まで学ぶレオロジー活用ガイド

粘性粘弾性測定から解析まで学ぶレオロジー活用ガイド

レオロジーとは何か?製造業における重要性

レオロジーとは、物質の流動や変形を科学的に扱う学問分野のことです。

製造業では「粘性」(流動抵抗)と「粘弾性」(弾性と粘性の両方の性質)が製品の品質に大きな影響を及ぼします。

これらを自在にコントロールすることで、狙い通りの素材特性や加工条件が実現できるため、レオロジーの知見は非常に重要です。

近年は自動車や電子部品、食品、医薬品、ゴム、樹脂、コーティング材など、実に多彩な業界でレオロジーが根付いてきています。

また、従来アナログであった生産現場でも、データドリブンな品質保証や効率化が求められている中で、レオメーター(粘度・粘弾性測定装置)の導入が急速に進んでいます。

なぜ今、粘性・粘弾性測定が求められているのか

従来は最終製品の「目視検査」「手触り評価」「打音判断」が主流だった粘弾性材料の品質保証。

しかし近年、以下のような変化が生じてきました。

  • 顧客の品質要求が厳格化し、「感覚」や「経験」だけでは不十分に
  • 複雑な多層材や複合材の登場で、均質性・再現性のデータ保証が必須に
  • サプライチェーン全体で工程能力(CPK,PPK)データを求められる
  • 海外工場との品質標準化、トレーサビリティ要望の増加
  • AI活用やDX推進の一環として、データの見える化が加速

このような現場要請に応えるためにも、粘性や粘弾性の定量データが現場レベルで取得できる環境整備が急務となっています。

粘度測定・粘弾性測定の基本の「き」

レオロジーの現場活用は「粘度測定」と「粘弾性測定」の2つが基本です。

それぞれについて、押さえておくべきポイントをお伝えします。

粘度測定の基礎

粘度とは、流れにくさを定量化したものです。エンジンオイル、接着剤、樹脂溶融体、ペースト材、食品(ソースやクリーム等)など「液体~半固体」すべてが対象です。

代表的な測定方法としては「回転式粘度計(ブルックフィールド型、コーンプレート型)」や「キャピラリーレオメーター」などがあります。

「同じ原料を使っても、ロットで流れ方が違う」「季節や気温で硬さが違う」「混練条件によってバラつく」など現場トラブルは粘度測定により原因や指標を把握できます。

不定形材料の「品質を数値化したい」とき、まず粘度測定から始めると効果的です。

粘弾性測定の基礎

粘弾性とは、材料が「弾性(変形しても元に戻る力)」と「粘性(流れて元に戻らない動き)」の両方を示す性質です。

そのバランス(G’:弾性率、G”:粘性率)は、ゲルや高分子、ゴム、塗料、食品、発泡体、ゴムローラー、接着材など多岐にわたります。

「いつまでもダレない塗料」「変形後に元に戻るゴム」「シール性が維持されるパッキン」など、用途に応じて“最適な粘弾性”が必要です。

測定には、振動型レオメーターやダイナミカルメカニカルアナライザー(DMA)などを活用します。

現場目線のレオロジー活用例

ここで実際に、私自身や現場でよくあるレオロジー活用シーンをご紹介します。

例1:シーリング材の粘度測定による工程標準化

シーリング材やパテ、接着剤は「練り状態」が不均一になると、現場作業性・密着不良・外観不良が頻発します。

製造工程で「直近3バッチの粘度測定値を工程管理図で見える化」したところ、不良発生時にバッチの粘度低下が明確に分かるように。

結果、攪拌条件(温度・混合比・時間)を最適化でき、「カンコツ頼み」から脱却した工程管理が実現できました。

例2:射出成形用樹脂の粘弾性分析で成形トラブル削減

射出成形では、金型への樹脂流れ(フィリング)が遅い/早すぎるだけでショートショットやバリ品が発生します。

インラインで定期的に樹脂のレオロジー特性(粘度カーブ・粘弾性挙動)を測定。

季節変動や原料ロット違いの影響点を早期に把握し、成形条件を自動補正する“工程自律管理”を導入した結果、歩留まりと生産性が向上しました。

例3:食品工場での官能試験とレオロジー測定の連携

マヨネーズやペースト状調味料の“舌触り・伸び感”は、消費者アンケートや官能評価だけでは数値保証が困難です。

粘弾性測定でG’やG”の値を規格化し、官能試験結果と照合することで「感覚品質の数値化」「検査基準の平準化」に成功した事例も増えています。

業界別・サプライチェーンにおけるレオロジー活用の最前線

自動車・機械部品業界

EV化や軽量化を背景に、ゴム・樹脂・複合材の開発競争は熾烈です。

新素材創出のために「配合比と粘弾性」の関係解析や、取引先ごとに求められる“加工適性データ”として、高精度レオロジーデータの提出が必須となるプロジェクトも増えています。

化学・塗料・樹脂業界

塗工プロセスでのレベリング性予測や、充填機やポンプ吐出の評価、消泡挙動の解析など、商品開発や量産前検証で活用されています。

海外サプライヤーとの競争力強化のためにも、再現性と精度の高い測定法が求められます。

食品・医薬・化粧品業界

クリーム、ペースト、ゲル商品の「塗布感」「離型性」「口当たり」などは、官能評価で判定する部分が多いですが、欧米を中心に粘弾性基準化が進行中です。

海外認証取得、エビデンス提出でもレオロジーデータは欠かせません。

現場導入の障壁とアナログ文化を超えるポイント

「レオロジーは専門的すぎて…」
「難しい測定操作やデータ解析は現場でできない…」
そうした声もまだまだ根強くあります。

昭和型アナログ業界ならではの“属人的な職人技”“現場のカンと経験”が色濃く残っている現場ほど、急なデジタル化、データ化には抵抗感を覚えがちです。

ここで大切なのは「現場メリットの分かりやすい可視化」です。

  • 不良率データと粘度グラフを現場掲示板に貼り『なぜバラつくのか?』を現場の言葉で説明する
  • ライン作業員自身が測定して「正直な違い」を体験できる場を設ける
  • 工程内不良・手直し削減の定量的効果を“現場主導”で見える化する

経営層へのプレゼンやサプライヤーの教育、バイヤーとの交渉にも「現場視点のエピソード」が一番力を持ちます。

バイヤー・サプライヤーで知っておきたい粘性・粘弾性への考え方

バイヤー(購買担当)がレオロジーデータを重視する理由は「安定調達」「仕様保証」「工程コスト低減」の3点が主です。

つまり、

  • 同じ条件で“いつでも”同じ品質が提供できる
  • トラブル発生時も“数値根拠”が迅速に提示できる
  • 品質管理工数や手直しコストが削減できる

これが購買・工場管理側の要望です。

一方、サプライヤー側では「レオロジーデータに基づく品質PR」を通じて信頼性の高いパートナーとなれるため、営業上の差別化や価格決定権にもつながります。

今後の展望とおすすめアクション

今、大手メーカーのみならず中小企業の現場でも「簡便なレオロジー評価ツール」や「工程内データ活用」が進んでいます。

IoT連携によるリアルタイム品質監視、AI解析による最適条件推奨など、粘性・粘弾性管理は“ものづくりDX”時代のキーテクノロジーです。

  • まずは「自社の困りごと・課題」を絞り、粘度・粘弾性測定から数値で可視化しましょう
  • 現場のベテランと若手が一緒にデータを眺める“実践トライアル”を設けましょう
  • サプライヤー・バイヤー間のコミュニケーションに積極的に活用し、品質保証の新たなスタンダードにしていきましょう

まとめ:レオロジーを味方につけて、製造現場を進化させよう

粘性・粘弾性の科学的理解と適切な測定・解析は、製造業の「品質力」と「競争力」を支える新しい武器です。

アナログな現場だからこそ、データの力と人の知恵を融合させ、一歩先のものづくりへ。

粘性粘弾性測定をフル活用して、現場に変革を――ぜひ、今この瞬間から始めてみてください。

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