投稿日:2025年11月27日

OEMパーカーで差別化を生む“リブ幅”と“ステッチ位置”のデザイン

はじめに ― 製造業の現場が見落としがちな「パーカーの差別化」とは

製造業に従事していると、商品開発やOEM(受託製造)の現場で「パーカー」のようなカジュアルウェアを扱う機会が増えました。
しかし、「OEMパーカーなんてどれも同じでは?」と思われる方も多いかもしれません。

実は、アパレル市場での差別化は、素材の選定やプリント手法だけではありません。
“リブ幅”や“ステッチ位置”という、縫製のディテールにこそ本当の競争力が隠されています。
本記事では、製造業経験者の目線で、この2つの要素がOEMパーカーにどのような価値と差別化を生み出すかを深掘りし、今なおアナログ色の濃いアパレル業界で生き残るためのヒントを探ります。

OEMパーカーでなぜ「リブ幅」と「ステッチ位置」に着目するのか

パーカーはシンプルな衣料品ゆえ、差別化を図るのが難しい商品です。
そこで、多くのバイヤーや開発担当者が重視するのが「プリント」「生地厚」「フード形状」などの見やすい要素です。

ではなぜ、あえて“リブ幅”や“ステッチ位置”に注目する必要があるのでしょうか。

1. 製品寿命や耐久性を大きく左右する要素であること
2. 視覚的な印象やブランドイメージに意外なほど大きな影響を及ぼすこと
3. 小ロットOEMでもコストを抑えて独自性を打ち出せること

これらは見過ごされがちですが、まさにOEMで「自社らしさ」「ブランドらしさ」を出したい企業にとって最大の武器となり得ます。

リブ幅―パーカーの個性を決める小さな大要素

リブとは何か、その役割

リブとはパーカーの袖口や裾、フードの縁などに使われるゴム編みのパーツです。
伸縮性があり、着用者の手首・腰回りにフィットさせる役割を持っています。

なぜリブ幅が重要なのか

リブ幅とは、袖口や裾部分のリブ生地の広さ(高さ)のことを指します。
この幅の違いが、着用時の見え方や着心地に大きな差を生み出します。

例を挙げます。

– 太めのリブ:アメリカンヴィンテージやクラシックな雰囲気を演出。カジュアルな印象が強い。
– 細めのリブ:現代的でミニマルな印象。きれいめスタイルや都会的なブランドに好相性。

また、リブ幅が変わることで

– 裾の丸まりやすさ
– 袖のたまり具合(たるみ)
– 着用時の「型崩れ」しやすさ

など、耐久性や製品寿命にも関わってきます。

リブ幅とOEMコストの関係

リブ幅は生地の使用量や縫製作業に直接影響します。しかし、パーカー全体のコストの中ではごく一部です。
それでも、ユーザーが“スペック表”を見ずに実感できる変化として「小さな投資で大きな付加価値」が付けられるポイントとなります。

ステッチ位置―一目では判らない「着心地」の正体

パターン設計者だけが知る、隠れたポイント

パーカーのステッチ位置、すなわち各パーツ同士の縫い合わせ位置や、ステッチラインの出る・出ないは、

– 素材のハリや落ち感
– 動きやすさや着せた時のシルエット
– 洗濯耐性と型崩れ

といった「着心地」の根源と直結しています。

ファッション業界では多様なパターン設計があり、同じデザインでも縫い目やその位置一つでまったく異なる服が出来上がります。

有名ブランドに学ぶ、ステッチでの差別化実例

例えば某高級スポーツブランドでは“ラグランスリーブ”の袖の切り替えし部のステッチを独自位置に設定しています。
これにより肩の可動域が増し、着心地の良さとスタイリッシュさを両立できるのです。

これをOEMパーカーで実現する場合、メーカーとの密な打ち合わせが必要ですが、大量生産でなくても十分に実現可能です。

熟練縫製職人×管理職の目線で語る、現場あるある

現場では「設計通り縫いました」と言っても、毎日の微妙な設備のズレや人の手技の“癖”が出る部署もあります。
昭和からの工場では、CADやAIによる品質管理が進んでも、「ベテランのカン」に頼る部分がまだ色濃く残っています。

このような環境でも、「ここは必ず12mmで」「ラインがこことここで重ならないように」など、一工程ごとに厳格な指示と検査体制を入れることで、“同じ工場で作っても別ブランドになる”差別化が可能になります。

現場とバイヤーの距離を縮める“設計用語”の習得が未来を変える

OEMで自社オリジナルパーカーを作る際、サプライヤー側とバイヤー側の間で共通言語が欠けていることが多いです。
バイヤーには言葉として「リブ幅」「ステッチピッチ」「縫製仕様書」などが登場しますが、実際に現場でそれがどう処理されているかを知る人は少数派です。

両者の行き違いが「なんとなくイメージが違う」「自社らしさがない」の温床になり、差別化が実現できず価格競争に陥る大きな原因となっています。

バイヤーやOEM発注担当は積極的に設計用語を習得し、時には現場のベテランと対話することが求められます。
「裾リブは3.5cmでいきましょう」「ここのステッチは二重で、内側5mmで揃えたいのです」
こうした会話ができるだけで、納期、コスト、品質全てで一歩先に進むことができます。

昭和由来の「アナログ品質」から「独自品質」への転換

現代はDX(デジタルトランスフォーメーション)が声高に叫ばれますが、兵庫や岡山といった日本のアパレルOEM拠点の工場では、今も熟練職人の手と目に支えられた「アナログ品質」が根強く残っています。

しかし、決してそれは時代遅れではありません。

設計意図=ブランドの個性を細部まで共有し、「どの工員が縫っても同じレベル」「微差にこだわることこそ自社価値」と現場に落とし込むことで、“メイド・イン・ジャパン”としての旗印をさらに高められるのです。

だからこそ、「リブ幅」「ステッチ位置」の設計意図をバイヤー自身が語り、現場と一緒にブランド哲学を築いていくことこそ、時代を超えるパーカーOEMの最大差別化となります。

サプライヤーにとっての提案力、バイヤーにとっての見極め力

OEM現場では、「言われた通り」に徹する工場もあれば、「より良い方法」を能動的に提案するサプライヤーも存在します。

本当に選ばれる工場/サプライヤーは、

– リブ幅やステッチ仕様をユーザー層やブランドコンセプトに合わせて提案できる
– トレンド動向やアパレル市場の声を反映し、提案文書やサンプルを用意できる
– 過去の失敗事例や生産現場での“不良”の知見も合わせて提供できる

といった姿勢が、OEM発注企業の「パートナー」として長期の信頼を勝ち取ります。

バイヤー側も、それらの違いを見極める“目”を養い、受け身ではなく主体的にコミュニケーションを取る必要があります。

まとめ―パーカーの「細部」こそがブランドを創る

OEMパーカーはパッと見ただけでは似たり寄ったりに思えるかもしれません。
しかし、リブ幅やステッチ位置という一見マニアックに見えるポイントこそが、実はユーザーの無意識領域にブランドイメージや着心地の印象を強く焼き付けています。

現場で20年以上もの間、数え切れないOEM・ODM案件を見てきて感じるのは、「細部を語れる企業」だけが、価格競争から抜け出し、独自のファンを獲得できているという事実です。

今後はバイヤー、サプライヤー双方が“設計目線”で語り合える時代に突入します。
アナログの強みと最新技術の融合で、これまでにないパーカーを生み出していきましょう。
その第一歩が「リブ幅」と「ステッチ位置」のデザインにこそある――、そう信じて現場でこれからもチャレンジし続けます。

You cannot copy content of this page