投稿日:2025年10月10日

属人化が進んだ部品選定で設計コストが膨らむ問題

はじめに:部品選定の現状と課題

製造業の現場において、部品選定は製品の品質やコストを大きく左右する重要なプロセスです。

しかし、現実には「誰がどの視点で選定したのか分からない」「似たような部品がいくつもBOMに並ぶ」「なぜこの部品を使っているのか説明できない」といった、属人化による混乱が多く見られます。

この属人化が設計コストをじわじわと膨らませ、現場にさまざまなトラブルを引き起こしています。

本記事では、昭和時代から根強く残る属人化の実態や、実際の現場で蓄積された知見からその背景と問題点を深堀りしていきます。

さらに、今後あるべき姿と、現実的な改善策をラテラルシンキングも交えつつ提案します。

部品選定が属人化する理由

経験や勘に頼る文化が根付いてきた背景

多くの製造業の現場では、設計や部品選定の知識が個人に蓄積されがちです。

先輩から後輩への口頭伝承が中心で「習うより慣れろ」「とにかく先例を倣え」という体育会系の空気さえいまだ根強く残っています。

このような風土のなかでは「なぜこの部品を使う必要があるのか」の理由や、「別の選択肢がなかったか」という検証がなされません。

設計者ごとのノウハウがブラックボックス化し、部品選定の意図が社内で共有されなくなりがちです。

部品マスタやデータベースの整備不足

デジタル化・IT化が世界的に進む一方で、部品マスタなどの基礎情報の整備が後回しになっている現場も多いのが実情です。

複数の設計部門が、それぞれ独自のリストやスプレッドシートを管理していたり、古い紙帳票しか残っていなかったりというケースも散見されます。

マスタ情報を有効に統合・分類しないまま進めるため、同じ規格でも違う部品番号が並んだり、更新されず型落ち品を繰り返し選定してしまったりします。

要求仕様の曖昧さと、設計担当者への過度な依存

部品選定は本来「要求仕様(技術要件・コスト目標・納期条件など)」に基づいて合理的に行うべきです。

しかし、その仕様が曖昧なまま「過去もこれで問題なかったから」「あの人はこのメーカーが好きだから」といった慣習で決まっていることが多々あります。

設計担当者という個人にプロジェクトの成功が過度に依存してしまい、その人の異動や退職が大きなリスクになっています。

属人化による設計コスト膨張の具体例

部品種類の増加と調達コストアップ

現場でよくあるのが、同じ用途なのに複数の似た部品を用いてしまう「部品点数の重複」です。

型番が異なると、仕入先との新規取引が必要になります。

発注ロットの統一もできず、小口発注が増えて調達コストや在庫管理費が膨らみます。

「代替効くモノがあるのに、お互い勝手に選定していた」ことで、ロスが大きく発生しているのです。

設計引き継ぎの混乱による手戻り

設計担当者が異動や退職をした際、「なぜこの部品を採用したかのドキュメントが無い」「部品番号の意味が分からない」といった問題がよく起こります。

新任担当が改めて部品検索や適合性の確保、社内承認の取り直しといった“手戻り”業務に時間を費やすことで、その分設計コストが増大します。

工期の遅延や余計な設計工数が発生し、最終的には製品のコストアップにつながります。

サプライヤーとのコミュニケーションロス

同じ部品の名称でも、各担当者が思い思いの呼び方でサプライヤーに問い合わせることで、調達先にも混乱が生じます。

「A部」と「B部」が実は同じ部品だったということもあり、見積もりや発注交渉の手戻り、トラブルが発生しやすくなります。

また納期調整や品質トラブル時にも、コミュニケーションが複雑化し、関係構築コストが増してしまいます。

昭和的アナログ管理からの脱却には何が必要か

標準化・ナレッジの体系化がカギ

属人化から脱却するには、まず部品情報の標準化が不可欠です。

設計根拠や選定基準、過去トラブル事例を「設計ナレッジ」として社内でオープンにし、誰でも検索・参照・活用できる仕組みの構築が求められます。

設計段階だけでなく、調達、品質、製造現場の声も反映した「失敗しない部品選定ガイドライン」を整備することで、短期的な設計効率向上に加え、長期的なコスト削減も可能です。

デジタル部品データベースの導入と活用

最近ではPDM(Product Data Management)、PLM(Product Lifecycle Management)などのシステムを活用し、部品情報を一元管理する潮流が加速しています。

現場の声としてITに苦手意識を持つベテランが多いのも事実ですが、EXCELの表管理から脱却し、Webベースで「誰もが同じ情報を見られる」状態を作ることが、設計コスト圧縮の第一歩です。

部品選定時には過去BOMの流用率や調達効率の自動解析、設計規格違反アラート発信などの機能を活かすことで、属人化を防止できます。

部品選定プロセスの「見える化」運動

「なぜこの部品を選んだのか」を設計段階で社内レビュー・ディスカッションする文化を根付かせることも重要です。

たとえば部品選定MTGを定例化し、複数人が意見を出せる場を設けたり、設計者の説明責任(技術的・経済的背景)を問うことが組織力の底上げにつながります。

属人化から脱却するためには「一人で決めない・みんなで悩む」風土を、トップダウン・ボトムアップ両輪で【定着】させることが不可欠です。

バイヤー・サプライヤー双方の視点から考えるべきこと

バイヤー(調達担当)としての着眼点

バイヤーは調達コストと安定供給、人間関係(取引先・社内)のバランスを意識する必要があります。

属人的な設計選定が続くと調達難易度が上昇し、不必要な仕入先が増え、標準化交渉も進みません。

調達視点からは「なぜこの部品を使わなければならないのか」、標準部品への置き換え余地の洗い出しなど、設計部門との緊密な連携が求められます。

また、コスト交渉や納期交渉の際にも、部品統一による購入ボリューム増加は強力な交渉力となります。

サプライヤーとしてバイヤー側の考え方を知る

サプライヤーは、バイヤー(メーカーの調達担当)が「設計部門の属人化」という課題を抱えていることを理解しましょう。

たとえば「過去は御社のこの型番でしたが、今後は他社OEMで揃えていきます」と言われる背景には、設計コスト圧縮や調達合理化の波がある場合が多いのです。

サプライヤーとしてはPLM対応や、標準部品の情報提供、互換性・納期提案などバイヤーの効率化への貢献が、ビジネス獲得につながる視点です。

また、設計部門・調達部門双方のニーズを的確に理解し、変化に柔軟に対応できる体制が求められます。

実践につながる属人化回避の現場アイデア

日常業務に根差した小さなアクションの積み重ね

部品選定の属人化対策は、大規模システム投資や改革プロジェクトよりも、日々の現場活動の積み重ねから始まります。

例として、
– 設計会議ごとに「選定理由」「代替案」を議事録に残す
– 過去不具合一覧を簡易フォーマットで共有する
– 若手が「なぜ?」と質問しやすい雰囲気作り
といった地味な活動が、長い目で大きな変化につながります。

昭和世代とZ世代の融合による新しい現場力

部品選定の属人化は、ベテラン世代の「俺流」と、デジタル世代の「チーム運用」で軋轢になりやすいポイントです。

昭和世代の職人技や失敗談と、Z世代のIT活用力を融合できれば、現場の競争力は今よりはるかに高まります。

まずはお互いの強みを認め合い、チームで知見とデータをシェアする土壌を整備しましょう。

まとめ:ものづくりの未来を切り拓くために

部品選定が属人化された現場では、設計コストの膨張が必然的に起こります。

その背景には、昭和から続くアナログ的な情報伝達や権限委譲の不足、データベース未整備など多くの課題が潜んでいます。

業界全体がデジタル化や標準化へと移り変わるなかで、現場一人ひとりが「なぜこの部品を使うのか」「どうすれば全体最適になるか」を考え、行動することが製造業の未来を拓く力になります。

製造現場・バイヤー・サプライヤーが三位一体となり、より良いものづくりを追求していきましょう。

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