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ラストワンマイルの負荷が増大する業界構造の変化

目次
はじめに——ラストワンマイルの負荷増大がもたらす製造業の新たな局面
日本の製造業は「ものづくり大国」として世界を牽引してきました。
高品質・高精度な製品をタイムリーに提供することは、日本企業の強みでもあります。
一方で近年、グローバル化や多様な価値観の変化、新型コロナウイルスの影響などにより、需給構造や流通チャネルは急速に変化しています。
その中でも特にクローズアップされているのが「ラストワンマイル」の課題です。
ラストワンマイルとは、製品や部品が最終的な顧客(エンドユーザーや組立工場など)に届けられるまでの最後の区間を指します。
この“最後の一手間”が、今や従来以上に大きな負担やリスクとなりつつあるのです。
本記事では、長年工場や調達・購買現場で働いてきた実体験と業界トレンドを織り交ぜながら、
なぜラストワンマイルの負荷が増大しているのか、現場でどう対処すべきか、未来を見越してどのような行動が求められるかを深掘りしていきます。
ラストワンマイルとは何か?業界ごとの現場事情
定義とその重要性
ラストワンマイルという言葉は物流業界で有名ですが、製造業においては「調達した部材や原材料が現場に届くまで」「製造した製品がユーザーの手元に届くまで」と広く捉えられます。
一見単純な“配送”に思えますが、工場の生産進捗や納期遵守に直結する極めて重要な工程です。
製造業が直面するラストワンマイルの具体例
例えば、次のようなケースが代表的です。
・年々多品種少量生産化が進み、各顧客向けに細やかに分けられた出荷や納入対応が必要
・電子部品や半導体の供給不足時に、小ロットの緊急調達配送が頻発
・JIT(ジャストインタイム)生産方式の厳格な管理により、部材納品タイミングに数分単位の精度や柔軟性が求められる
・工場の自動化が進む中、部品供給の自動ラインへの無人搬送(AGV・AMR等)のラストピースに人的対応や高コストが残る
これらは単なる物流コストのみならず、生産性、品質、納期、さらには現場担当の精神的な負荷にも直結する問題となっています。
業界構造の変化が生むラストワンマイル負荷の増大要因
サプライチェーンのグローバル化による複雑化
かつては国内調達・国内生産・国内納品が主流でした。
しかし現在、大半の製造業は中国・東南アジア・欧州・北米含めてグローバルに部材や生産拠点を組み替えています。
このため調達リードタイムが延び、「どこで・なにが・いくつ・いつ届くのか」というコントロールが格段に難しくなりました。
港湾の混雑、海上輸送の遅延、国際情勢の変化(ウクライナ危機など)、
為替変動による調達コストの変化などがラストワンマイル直前で火を噴くことも珍しくありません。
デジタル化の進展と“アナログ現場”のギャップ
生産管理や需給調整はこれまでエクセルや紙帳票、属人的な電話やFAXで回してきた企業も多いのが現実です。
デジタル化が進む一方で、
複数のシステムが乱立し連携されておらず、最後の引き渡し(「引継」「現品票」など)だけは、現場作業員やドライバー一人ひとりの手作業や目視確認に頼ることが多いです。
デジタルとアナログの断絶が“ここぞという最後のポイント”でヒューマンエラーや余分な手間を発生させています。
人手不足と高齢化による慢性的なオペレーション負荷
物流倉庫や工場で働く現場作業員は深刻な人手不足です。
長距離輸送後に「各工場棟の玄関先まで手運び」「特定棚番までの個別持込」「各工程ごとの立ち合い納品」など、
ラストワンマイルでの業務負荷が高い割に自動化しきれず、人への依存が残り続けています。
高年齢層への負担増大、採用難による対応遅延など、現場を知らない上層部が想像する何倍ものストレスとなっています。
現場目線で考えるラストワンマイルの実態と隠れたコスト
“モノの受け渡し”だけで終わらない複雑さ
ラストワンマイルには多くの「隠れたコスト」が潜んでいます。
例えば以下が挙げられます。
・受け入れ検品や開梱、バーコード貼り替え等の現場追加作業
・納入指定時間や順路の制限による待ち時間・調整工数
・現場スペースの一時的“占拠”によるほかのオペレーション停止
・納品者とのトラブル時の緊急対応
特にトヨタ流に代表されるJIT生産ラインの場合、一箇所の部品遅延で全工程がストップし、関係者が現場に折衝に走ります。
この「最後の1個・最後の1分」を死守するための目に見えない努力こそ、現実のラストワンマイル課題なのです。
バイヤー・サプライヤー双方の“心理的距離”が新たな障壁に
調達バイヤーは「確実に・必要数を・コスト最適で」仕入れたい。
一方、サプライヤーも限られたリソースで「なるべく効率良く・過剰負荷なく」納入したい。
ところが発注時の“数値上の最適”だけで伝票処理や納期交渉を行うと、現場で「無理な時間指定」「物理的に不可能な取り回し」「属人的な連絡ミス」といったストレスが膨らみます。
バイヤー側が現場オペレーションやサプライヤーの事情に無理解だと、ラストワンマイルの負荷は雪だるま式に増加します。
逆に、サプライヤーが「バイヤーがなぜ細かく納期や状態を求めるのか」を理解することで、より現実的な改善や提案が生まれます。
これからの製造業はどう対応すべきか?現場が主語のラストワンマイル改革
情報連携と現場主導DXによる“現実解”
理想的には、すべての物流・生産・調達情報がリアルタイムで連動していれば「今どこに何があるか」「いつ届くか」「何が詰まっているか」が見える化されます。
しかし昭和のアナログ現場は一朝一夕には変わりません。
重要なのは
「現場主語で困っている“One Mile”を把握し、小さな単位から仕組み化する」ことです。
例えば…
・受け入れ現場ごとに“納入時の困りごと”をヒアリングし、無駄な手順や二度手間を見直す
・システムと帳票・バーコードラベルのローカル自動連携(例:簡易IoTやRFID活用)の導入
・現場担当とバイヤー双方がお互いの業務を“現場視点”で体験する定期的なワークショップの実施
これらは大規模IT投資よりも、現場で“今すぐ始められる”ラストワンマイル改革です。
共同配送・キャリア連携による効率化
業界や競合の垣根を超えた共同配送やキャリア連携も注目されています。
同一エリアへの配送を複数社でまとめる「集約配送」や、工場構内物流部分を複数サプライヤーで共有する「拠点内シャトル便」等が現場負荷を減らします。
物流業界全体の効率改善やドライバー確保にも直結し、環境負荷低減・ESG経営の観点からも効果的です。
最後の砦は“現場の気づきと実行力”
どれだけシステム化や省力化が進んでも、最後のラストワンマイルで「これで本当に大丈夫か」と不安に感じる現場担当者は多いはずです。
その一方で“現場が困っていること”“改善できるかもしれないアイディア”に気づくのもやはり現場です。
経営層・バイヤー・サプライヤーはいかに「現場の声を吸い上げ、現場発信の改善を柔軟にサポートできるか」が、
昭和の「現場任せ」から抜け出し、令和の「現場起点スマートファクトリー」へ進化するカギとなります。
今後求められるバイヤーとサプライヤーの新たな連携モデル
相互理解と“現場体験型”パートナーシップの推進
ラストワンマイル改革で必須なのは「相手の事情や現場の実態を知ろうとする」姿勢に他なりません。
バイヤーは、サプライヤーや現場物流作業者とともに「自社オペレーションのリアル」を現地現物で確認し、
サプライヤーは、バイヤーの調達戦略や顧客要求の背景をきちんと理解する。
たとえば、現場同士の意見交換会や業務体験交流を定期実施することで、お互いの“痛み”や“工夫”を共有できます。
データを活用した改善サイクルの高速化
現場オペレーションのデータを蓄積分析し、ボトルネック箇所や異常値発生時の傾向を把握してPDCAを回す。
これもラストワンマイル負荷低減には有効です。
データ取得・可視化のためのIoT機器も今や低コストで揃いますので、現場発信で小さく始める“スモールスタート”が肝心です。
まとめ——ラストワンマイルを制する者が製造業を制す
ラストワンマイルの負荷増大は、単なる物流テクノロジーの問題ではありません。
構造変化が押し寄せる今こそ、現場主語での気づきや新たな連携モデル、柔軟な発想(ラテラルシンキング)が現場に求められています。
バイヤー・サプライヤー・現場担当が“自分の業務・相手の業務・現場のリアル”を知り、協力し合う文化醸成が
今後の日本の製造業の底力となっていくはずです。
変化を恐れず、ラストワンマイルの“最後の1メートル”まで目を配り、仲間とともに新たな価値を創り出していきましょう。
(この記事が、製造業実務者・バイヤー志望者・サプライヤー担当者の皆様にとって、現場発信のヒントになれば幸いです。)
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