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属人化した設計業務で不具合修正が長引くリスク

目次
はじめに:設計業務に潜む“属人化”の罠
製造業における設計業務は、製品開発の根幹を担う極めて重要なプロセスです。
しかし、現場のリアルな声として、設計業務が特定の設計者に依存する「属人化」の問題がいまだに根深く残っています。
特に昭和時代から続くアナログ的な業務の流れや、“匠の勘”に頼る風土の強い現場では、設計情報の共有が不十分なままプロジェクトが進行してしまうケースが少なくありません。
この属人化がもたらすリスクの代表例が、「不具合修正の長期化」です。
不具合対応が場当たり的になり、同じ問題が繰り返されてしまう。
その原因や解決策、そして業界動向を現場で20年以上培った視点から掘り下げ、共有したいと思います。
なぜ設計業務は属人化しやすいのか
暗黙知に依存した業務プロセス
設計業務が属人化する大きな理由は、“暗黙知”に依存する点にあります。
ベテラン設計者の経験や勘、過去トラブルの記憶など、紙やデータではなく“頭の中”に蓄積されたノウハウが設計の質を左右します。
昭和から続く設計職場ではこの傾向が特に強く、若手へのOJTも「背中を見て覚えろ」というスタイルが色濃く残っています。
その結果、設計情報が適切に文書化・標準化されず、結果的に属人化が強まってしまうのです。
個別対応と業務のブラックボックス化
受注ごとに仕様の違う製品や、多品種少量生産を得意とするメーカーほど設計担当が変わることを嫌います。
これは、「過去のノウハウを知っている担当者でないとミスが起きやすい」「過去設計の修正履歴が分かる人が修正した方が早い」といった現場判断が背景にあります。
しかし、この「担当者じゃないと分からない」状態こそ危険信号です。
誰もが全貌を把握できていない設計業務は、まるでブラックボックスのように不透明化し、トラブル発生時に余計な時間がかかる元凶となるのです。
属人化による不具合修正のリスク
情報伝達ロスによる初動遅延
設計業務が属人化している企業では、不具合発生時の初動が遅れがちです。
なぜなら、不具合の根本原因や発生箇所が、担当者の“記憶頼み”になっているからです。
「この図面はAさんしか中身を分かっていない」「この設計思想はBさんの独自仕様だ」といった情報の壁に阻まれ、トラブル箇所の特定や状況整理に予想以上の時間がかかってしまいます。
このような初動対応の遅れが、不具合修正の長期化を引き起こすのです。
再発防止・全社展開が進まない
属人化構造では、目の前の不具合対応はギリギリ“火消し”できても、なぜそれが起きたのか、他製品に展開できる知見なのか、組織全体へのフィードバックの仕組みが弱いままです。
同じような設計ミスや品質トラブルが再度発生した場合、過去の修正履歴や教訓が見えにくいため、再発リスクも高まります。
また、設計段階での箇所を修正したとしても、関連部門(生産技術、購買、品質保証など)への情報展開が漏れがちです。
その結果、工程間でのコミュニケーション・トラブルも重なり、現場はさらに混乱します。
人材流動化ショックへの脆弱性
近年、働き方改革や定年退職の加速、転職市場の活性化などで設計者の流動化が進んでいます。
属人化した業務では、キーパーソンの異動や退職が、企業の設計力に深刻なダメージを与えます。
「Aさんの退職で、○○装置の設計ノウハウが失伝した」
「新人への引継ぎが上手くいかず、不具合が連発している」
こうした事態を目の当たりにした現場も少なくありません。
今後、人手不足が深刻化する中で、属人化は企業存続のリスクです。
属人化脱却に向けた現場目線の施策
“標準化・見える化”は小さな一歩から
理想論で「設計業務のすべてを標準化・マニュアル化すべき」と唱えるコンサルタントもいますが、現場を知る者からすれば、それは無理筋です。
なぜなら、設計業務には独自性や創造性、そして現場ならではの“ひと工夫”が必須だからです。
大切なのは、“小さな見える化”から現実的に進めることです。
・設計変更履歴や不具合修正履歴の社内データベース化
・設計思想や意図を図面だけでなくテキストで残すこと
・CADやPLMシステムへのナレッジ共有機能の活用
・週1回の「設計技術ミーティング」開催と議事録共有
こうした一つひとつの積み重ねが、属人化の壁を少しずつ低くしていきます。
横断的な人材ローテーションの推進
設計者は“自分の担当分野”に閉じこもりがちですが、意識して領域を超えたプロジェクトやローテーションを経験することが、組織全体のナレッジ共有につながります。
新人や中堅に積極的に共同設計を体験させ、「なぜそう考えたのか」「どういう判断基準に基づいたか」という対話の文化を定着させましょう。
その瞬間は業務効率が落ちても、中長期的に「属人化しない設計組織」へと変革していけます。
最新IT技術と現場知見のハイブリッド化
近年の設計業務DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れを活用するのも有効です。
たとえばCADやPLMのバージョン管理、自動化ツールによる不具合検出の工夫、AIによる類似設計図の自動検索など、属人的なノウハウをシステムの力で補うことが可能です。
しかし、最新IT技術だけに頼り切るのではなく、昭和世代の「現場勘」や「細かい気付き」も必ず取り込むことがカギです。
たとえば、50代設計者の“図面へのこだわり”や“トラブル発生時の記憶”をインタビュー形式で残す工夫も、立派な脱属人化の一歩です。
現場とITを融合し、“ハイブリッド型設計現場”を目指すのが今後の王道と言えるでしょう。
バイヤー・サプライヤー間のナレッジ共有
ここまで自社設計チームへの施策を紹介しましたが、実はバイヤーやサプライヤーの立場でも属人化対策は非常に重要です。
バイヤーの方は“なぜその仕様が絶対なのか”“過去トラブルの再発ポイントは何か”をサプライヤーに説明できる体制構築を意識しましょう。
サプライヤー側も“どうしてそのような指示が来るのか”を設計部門と一緒に検証し、共同で原因究明や標準化の模索を行う姿勢が差別化要因になります。
属人化脱却はサプライチェーン全体の協働によって大きく前進します。
業界動向:脱“昭和”属人化が生む新たな競争力
グローバル競争時代の設計組織の在り方
日本の製造業は高度成長時代以降、“現場力”や“個人職人魂”によって競争力を維持してきました。
しかしいま、グローバル競争時代には複数拠点での設計・開発や、サプライヤー国々との連携など「ナレッジの迅速な横展開」が必須条件となっています。
属人化排除に取り組まない企業は、海外競合よりも不具合対応や開発スピードで遅れるリスクが高いのが現実です。
若手定着と人材多様化への対応
令和世代は「個人の成長」「働き方の柔軟性」「共有された知識」を重視します。
属人化した職場は若手社員のストレス要因になりやすく、キャリア形成や定着率低下のリスクがあります。
だれでもアクセスできるナレッジベースや、OJTだけでなくOFF-JT、研修による設計知見の平準化が、現代の組織づくりには不可欠です。
標準化によるリードタイム短縮と品質向上
脱属人化と設計標準化を進めれば、以下のような波及効果が期待できます。
・設計変更時のミス低減と作業迅速化
・設計レビューの質とスピード向上
・工場現場・サプライヤーへの情報伝達精度向上
・新製品開発サイクルの短縮
“ドキュメント文化とIT活用で設計現場をブラッシュアップすること”が、これからの製造現場の競争力強化のカギなのです。
まとめ:現場の知恵を次世代へ、属人化脱却への第一歩
製造業の設計現場では、「時間がないから…」「その人しか分からないから…」といった理由で、つい属人化に目をつぶりがちです。
しかし、不具合対応の長期化や技術伝承の断絶は、企業にとってボディブローのように効いてきます。
大切なのは、「すぐに完璧な標準化」ではなく、「社内でできる小さなナレッジ共有」から着実に始めること。
現場の知見と最新技術、そしてバイヤー・サプライヤーとの連携を組み合わせ、“脱・昭和の属人化現場”を目指しましょう。
それが日本の製造業全体の底力を高め、新しい競争力を生み出す原動力となります。
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