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地震対策設備の点検が属人化するリスク

目次
地震対策設備の点検が属人化するリスク
はじめに:なぜ製造業で今「地震対策設備」が注目されているのか
2024年、首都直下型地震や南海トラフ地震のリスクが日々高まる中、製造業をはじめとした各種工場・プラントでは「地震対策設備」の重要性がこれまで以上に強く認識されています。
地震対策設備は、単なる災害対策としてだけではなく、BCP(事業継続計画)や従業員の安全配慮義務の観点からも不可欠なインフラとなりました。
しかし、現場を長年見てきた立場から率直に申し上げると、「設備の設置だけで満足している」「点検や保守活動がないがしろになっている」「知識のある担当者任せで全体最適になっていない」――そんな製造現場が今もまだ数多くあります。
昭和時代から抜け出せない“現場の慣習”が根強く残る工場ほど、現代的な設備や点検手法への理解と実装が遅れ、点検作業がベテランだけに属人化するリスクが高まっています。
本記事では、製造業特有の現場視点を交えつつ、地震対策設備の点検が属人化することで起こるリスクと、その背景、そして今後のあるべき対策について深掘りしていきます。
地震対策設備とは何か?知っておきたい基本と現場の実態
設備の種類と「点検」の難しさ
地震対策設備は、建屋の耐震補強や各種アンカー、免震・制振装置、落下防止ワイヤー、緊急停電装置、災害発生時の自動停止システムなど多岐にわたります。
最新工場ではIoT連携の監視センサーや警報システムも導入されています。
しかし、こうした設備は「入れたら終わり」ではなく、定期的に点検・保守を実施し、“本当に備えが効いている状態”を維持し続けることが極めて重要です。
点検項目は多い上に、専門的な知識や現場ごとの熟練経験が不可欠なものも多く、「設備担当の◯◯さんに全部任せないとわからない」という状況になりがちです。
現場で起きがちな属人化の典型例
例えば、私が以前見てきた某現場では、耐震アンカーの緩みや、落下防止金具の経年劣化、有事の際の緊急遮断バルブの動作確認などが、“地震対策に詳しいベテラン社員”一人に事実上丸投げされていました。
点検記録も紙ベースで、しかも「わかる人しか解読できないメモ書き」だらけ。
いざ退職や突発休暇となった場合、「どこを、どう見て回ればいいのか誰も知らない」「設備投資金額は大きいのに現場では使い物になっていない」といった深刻なリスクに直面します。
属人化とは、知識や技術が特定人物に偏る現象です。
特に長い歴史を持つ製造業の工場では、「前任者の引き継ぎノート」だけが唯一のマニュアルです、というレガシーがまだまだ残っています。
なぜ属人化するのか?アナログ業界特有の背景
「ベテラン頼み」な現場カルチャーが変わらない理由
日本の製造業は、ものづくり大国の誇りと共に、「職人芸」「ベテラン至上主義」「現場の勘と経験」という独自文化で支えられてきました。
この文化が「戦力の属人化」を促しました。
地震対策設備も例外ではなく、“あの人がいるから現場は大丈夫”という安心感で全体の仕組み改善への動機が薄まりがちです。
この裏には、現場作業の忙しさ、点検業務の煩雑さ、ITリテラシーの差、さらには「社内政治」といったあらゆる現実があります。
新しいやり方に抵抗を持つシニア社員、最新システムを使いこなせる若手とのギャップも壁となり、「見て覚えろ」「やって体で覚えろ」といったOJT偏重の教育スタイルが依然として色濃く残ります。
実は「見えないコスト」も大きい
属人化した点検体制は、表面化しない「見えないコスト」を組織にもたらします。
例えば、担当者が体調を崩して長期不在になった場合、過去の点検データが分からず、設備に潜む異常や不具合が放置され、地震が発生した瞬間に初めて致命的トラブルが顕在化するリスク。
また、重大な不備・未対応を長期間見過ごし続けてしまうことで、後から“致命的な差し戻しコスト”や“保険金不払”といった大問題に発展することもあります。
属人化した現場は、業務効率も悪く、長期的な競争力や持続力でも他社に後れを取ることになります。
製造業にとっての「点検属人化リスク」とは何か?
重大な4つのリスクとその実例
1. 緊急時に本来の性能が発揮できないリスク
例えば、点検記録の漏れや異常箇所の未発見が積み重なり、いざ地震が発生した際に設備が全く動作しなかった事例。これはヒューマンエラーだけでなく、仕組みそのものの脆弱性に起因します。
2. 点検抜け漏れ・品質低下リスク
担当者の感覚依存で「いつもの場所だけ」「見慣れたやり方だけ」になりがち。規格違反や点検省略リスクが高まります。
3. コンプライアンス違反・経営リスク
近年は労働安全衛生法などの法改正も進み、点検不備が重大な事故につながれば企業責任が問われ、取り返しのつかないダメージを企業にもたらします。
4. 働き方改革・人的資本経営との不整合
現場の多様性や人材育成への要求が高まる中、「属人スタイル」はイノベーションや新陳代謝の障壁になり続けます。
サプライヤーやバイヤーにも影響する「隠れた問題」
部品メーカーなどサプライヤー視点では、「ユーザー現場の点検情報が全くわからない」「潜在不具合の連絡が遅い」「急な追加対応に一方的なプレッシャー」という事態が日常茶飯事です。
バイヤーとして新たな設備を検討する際にも、現場の属人化による情報不足・ブラックボックス化で、最適な選定が難しくなるというジレンマも生じます。
対策:なぜ「標準化」と「見える化」が今こそ重要なのか
点検・保守の「プロセス標準化」でリスク激減
属人化リスクを最小化するためには、点検・保守の業務プロセスを標準化し、「誰でも再現できる」「デジタルで残せる」形にすることが急務です。
これには具体的に下記のような施策が有効です。
– 点検項目の見直しと定型フォーマットの策定
– 作業手順の写真・動画活用マニュアル化
– 設備ごとの電子カルテ(履歴データベース)作成
– 点検記録のデジタル共有(クラウド利用も有効)
– 月次・四半期の“クロス点検”や相互レビュー
属人化による「暗黙知」を「形式知」へ転換し、現場の属人的ノウハウを会社資産として全員で活用できる形にすることが求められます。
IT活用による「見える化」で抜け漏れゼロへ
いまだに多い手書き・紙ベースの点検業務。
これをタブレットやスマートフォン、専用アプリなどを活用してリアルタイム集計・アラート・異常通知へと進化させることで、点検の抜け漏れや人的エラーを劇的に減らせます。
IoT対応センサーや連携システムによる自動監視まで導入できれば、点検員の負担軽減だけでなく、属人化抑制と省人化の両立が図れます。
未来志向:「地震対策点検」の本質的アップデートを
現場主義×デジタルの融合が生き残りの鍵
これからの製造業は、ベテランの「現場勘」や「知恵」を蔑ろにするのではなく、それらを“全員が使える情報資産”としてIT上に残し、若手社員でも同じ品質の点検・保守ができる体制を作ることが必須です。
人材多様化の流れの中、誰がやっても事故ゼロ・品質安定を実現する「点検の民主化」が強く求められています。
バイヤーや調達担当者であれば、点検保守が属人化している現場に対し、「製品導入後の点検マニュアル」「標準化ガイド提供」「サポート体制の充実」といった価値提案が他社との差別化にもつながります。
サプライヤーとしても、ユーザー現場の保守・点検データを提供してもらうことで、新たなサービス提案を創出できます。
まとめ:今こそ「属人化」から組織力への転換を
地震対策設備の点検が属人化している現状は、これまでの製造業の成功を支えてきた力強い現場力の裏返しとも言えます。
しかし、社会と企業環境の変化、そしてこれから本格的に到来する大地震リスクを考えれば、「人頼み」から「システム頼み」「組織頼み」へのパラダイムシフトを進めることが、製造業に求められる新しい生存戦略です。
最後に、現場を支える皆さんには自社の属人化度合いを今一度見つめ直し、「明日うちで地震が起きたら本当に設備は守られるのか?」を問い続けてほしいと強く願っています。
製造業の発展と皆さんの安全・安心な未来のために、地震対策設備の点検属人化リスクを“見える化”し、“全員参加”で守っていきましょう。