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ベンチマーク製品のスペックを誤解して開発方向がズレる危険性

目次
はじめに:ベンチマーク製品とは何か
製造業において新製品を開発する際、よく「ベンチマーク製品」と呼ばれる市場の競合製品やリーディングプロダクトを参考にすることがあります。
これは自社の商品企画や性能目標を明確にするために欠かせないアプローチです。
しかし、そのスペックを正しく読み解かないと、思わぬ落とし穴にはまったり、開発プロジェクト全体が方向違いになったりします。
本記事では、ベンチマーク製品のスペックを誤解して開発方向がズレてしまう事例とその本質的な危険性、現場でありがちな誤解、さらにはこれからの時代に求められるラテラルなアプローチまで、現場経験20年以上の視点から横断的/徹底的に深掘りします。
バイヤー、サプライヤー、そして製造業全体の発展を目指す方に大いに役立つ内容を目指します。
スペック重視の「罠」:数字の本質を読み間違える危険性
多くの開発現場では、初動の段階で競合品のカタログスペックや資料集めが始まります。
この時点で「ベンチマーク製品のスペック」をじっくり分析し、その数字を盲信しがちです。
「A社品は最大出力120W」「B社品はリードタイム2日」など、数値だけを引っ張ってしまうことが多々あります。
ここに、第一の落とし穴があります。
カタログスペックと実使用スペックのズレ
カタログにはあくまで「最大性能値」や「理想条件下での数値」が記載されていることが多いです。
実際の市場や納入先では、温度変化、設置環境、運用負荷、オペレーターの習熟度など、無数の変動要因が存在します。
ベンチマーク製品のスペックを「絶対」と捉えてしまうと、最初の企画会議からズレが始まります。
ある大手設備メーカーでは「ベンチマーク製品の最大搬送速度」をそのまま設計要件に反映した結果、現場での使い勝手やメンテナンス性を犠牲にし、クレームや改修が増えたという事案もあります。
スペック数値の「意味」を問い直す
単なる「数字」ではなく、なぜその数値が競合で設定されているのか、本質的な意味を考察することが必須です。
たとえば「120W」という出力仕様も、その用途が家庭用か産業用か、トータル運用時間や狙っている市場や顧客要件で全く違う解釈になります。
同一「数字」でも背景が異なれば、要求される技術やコスト、品質保証の考え方も大きく変わります。
見かけの数値だけでは、顧客満足や現場価値を本当に追求できません。
ベンチマーク製品分析で現場がはまりやすい5つのワナ
ベンチマークを見る際、現場や開発チームが犯しやすい典型的な誤解・失敗例を5つにまとめます。
自社の開発現場、もしくはサプライチェーンパートナーの動向を再点検する材料としてご活用ください。
1.「スペック=価値」信仰
最もありがちなのは「スペックが高い=市場評価も高い」という盲信です。
たとえば住宅機器分野において、お客様にとっては実際の使用感やメンテナンス性、長寿命であることの方が重要なのに、開発側は「最大トルク」「最大耐荷重」のような最高値にばかり着目してしまう現象です。
実際のユーザーは、「十分な性能+安定運用+容易なメンテナンス」を重視しており、そのバランスが崩れると売れ行きや満足度に直結します。
2.ベンチマーク品の「開発意図」を無視する
ベンチマーク品は、対象市場や用途、コア技術の思想によって開発意図が全く異なります。
たとえば、省電力を重視すべき製品分野で、最大出力だけを参考にしてしまい、顧客の要求(省電力/静音/安全性など)が置き去りにされることが多発します。
開発意図や歴史背景を知らずに「数字だけ」を真似るのは極めて危険です。
3.カタログスペックどおりの試験条件になぞらえる
品質管理部門では「カタログスペックどおりの検査条件」で試験を進めがちですが、実際の市場使用環境は大きく異なります。
試験合格=市場OKという錯覚が開発現場を支配すると、不良の再発やリコールにつながりかねません。
現場での使われ方や、納入先ごとのワンオフ要素まで踏み込んで条件設定を見直す必要があります。
4.デジタル化推進で見落とされる「現場の暗黙知」
近年はカタログデータのデジタル化、ECサイト等を使った情報収集が進みました。
しかし肝心の「現場の声」「オペレーターの暗黙知」「ライン上の勘どころ」を拾い損ねる危険性が増しています。
ベンチマーク品の使い勝手、トラブル率などは現場の口コミやノウハウに隠されていることが多いです。
現場感覚とデジタルデータの両輪で分析する仕組みを構築しなければ、本質的なベンチマークにはなりません。
5.部分最適(スペック部分だけ)になりやすい
ひとつのスペック(例:出力、トルク、バッテリー容量)だけを追いかけてしまうと、他の性能やコストバランス、サプライチェーン全体への波及効果を見落とします。
部分最適は全体最適を阻害し、ひいては市場競争力の低下や不良在庫の発生に繋がります。
全工程を俯瞰できるマネジメント視点をベンチマーク分析のど真ん中に据える習慣が欠かせません。
事例で学ぶ:スペック誤解で開発がズレたケース
ここからは、具体的な現場の実例をもとに「ベンチマークスペックの誤解」がどのように開発や市場で問題になるのかを解説します。
事例1:某自動車部品メーカーでのスペック過大設計
自動車部品の新製品開発プロジェクトにおいて、ライバル社の部品カタログに記載された「最大負荷荷重」をそのまま信じて設計要件に反映。
実際の顧客現場ではそこまでの負荷は想定しておらず、そのため材料コストが肥大し、重量増となってしまいました。
結果、コストダウン要求が厳しくなり、利益がほとんど出せない製品になってしまった事例です。
事例2:品質試験が現場ニーズに合っていなかった
産業機械メーカーで、競合品の騒音レベル(dB値)に焦点を当てて防音対策を強化。
カタログ値でスペックアップし、本社品質管理も合格したが、実際の使用現場では作動中の「振動」や「突発音」が品質問題として浮上。
ユーザーアンケートやOBD診断からは「実用感の不足」との指摘が相次ぎ、せっかくの開発コストもほとんど無駄に終わりました。
「現場目線」で本当に求められていたスペックが別にあったのです。
バイヤーとサプライヤー双方が気をつけたいベンチマーク観点
購買バイヤーもサプライヤーも、自社のポジションで「ベンチマークスペック」に振り回されやすいという共通課題があります。
それぞれの立場から本来重視すべき観点を整理します。
バイヤー目線:スペックより価値/実績/供給安定性を吟味
バイヤーは往々にして「直属上長」や「企画部門」の要求でベンチマーク比較表を作成し、「A社はこのスペックが高いからこの技術を選定」などの画一的評価に走りがちです。
しかし本質的には、現場で実際に役立つか、安定して供給されるか、不具合時のサポートの質はどうか、などをトータルで評価すべきです。
「スペックが○なら○」という短絡的な発注は、調達リスクや市場対応力低下につながります。
サプライヤー目線:カタログ外の強み、現場の声を反映する
サプライヤー側も「他社よりスペックで上回れば売れる!」と思い込みがちです。
しかし実際のバイヤーやユーザーは「現場改善事例」や「納入後のサポート」「QCD(品質・コスト・納期)のバランス」に強い関心があります。
ベンチマークスペックに加えて、自社独自の強みや、現場で培った事例・ユーザー評価を積極的に発信・提案し、バイヤーと一緒になって最適条件を構築する姿勢こそ、今後のサプライヤー価値の源泉となります。
ラテラルシンキングによる“新しいベンチマーク”のすすめ
これからの製造業には、従来のカタログスペック信仰から一歩抜け出し、より多角的・柔軟なラテラルシンキング(水平思考)が求められます。
1.顧客の“深層課題”に目を向ける
表面上のスペックだけでなく、「何に困っているか」「どんな課題が日常現場で出ているか」を徹底ヒアリングします。
たとえば「保守がしにくい」「作業者の安全リスクがある」「誤作動時のリカバリーが難しい」など、数字で表現できない現場課題を深掘りしましょう。
2.サプライチェーン全体でベンチマークを考える
調達・購買・生産・流通・保守サービスまで、バリューチェーンすべての工程で自社・他社の強み弱みを調査します。
どこが最もコストや品質に影響するか、どこに無駄やダブルワークがあるか、上流から下流まで水平思考で“新しいベンチマーク”を模索することが重要です。
3.デジタル×現場感覚のハイブリッド分析
IoTやデジタルデータの導入が加速する一方で、昭和的な現場のカン・経験もあなどれません。
両者を融合させる“アナログ×デジタル”のハイブリッド思考で、真に価値あるベンチマークモデルを描きましょう。
まとめ:数字の裏側を“深く”読む習慣が、企業競争力に
「ベンチマーク製品のスペック」をふくらましすぎたり誤解したりすれば、開発も調達も出口がズレてしまいます。
数字だけを追いかける昭和的な現場力も、データ主義のデジタル志向も、最終的には“現場の声”“顧客起点の価値”にしっかり立ち返ることが、これからの製造業にとって決定的な差となります。
バイヤーもサプライヤーも、今一度「ベンチマークスペックの落とし穴」に気づき、ラテラルシンキングで新しい地平線を開拓しましょう。
自社の強みを活かし、現場起点で世界と戦える次世代製造業を、ともに目指していきましょう。