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製造人材の管理が感覚頼りになるリスク

目次
はじめに — 製造人材管理の現場では「感覚頼り」が当たり前?
日本の製造業は、世界の中でも確かな技術力と品質を誇ってきました。
しかし、「長年の勘」「経験則がものを言う」といった現場文化が根強く残っています。
特に人材管理という点では、ベテランの工場長やリーダーが“なんとなく”の印象や過去の慣習で判断を下すケースが少なくありません。
この「感覚頼り」の管理には、多くのリスクが潜んでいます。
時代は令和。
DX推進やAI活用が叫ばれる中、昭和型アナログ思考から脱却できずにいる工場現場が、企業全体の競争力低下に直結する恐れもあります。
本記事では、20年以上製造現場や調達・生産管理などの要職を経験した筆者が、現場目線で「感覚頼り」の人材管理の実態と、そのリスク、そしてこれからの改善策について掘り下げていきます。
現場で働く方はもちろん、製造業界のバイヤーを目指す方や、サプライヤーとして顧客工場の内情を知りたい方にも役立つ内容になっています。
なぜ製造業の人材管理は「感覚頼り」になりやすいのか
現場に根付いた職人気質と過去の成功体験
日本の製造現場では、「物づくりは人が要(かなめ)」という信念が長く支配的でした。
「目で盗んで覚えろ」「新入社員は3年間は石の上にも三年」というような言葉に代表されるように、OJT(On the Job Training)が主流で、体系立てられた人事評価やキャリアパス設計は軽視されがちです。
結果として「勘」による配置転換や、「あいつは伸びる」「あの子は生産ラインにはまだ早い」といった曖昧な数値基準での人材判断が蔓延してきました。
属人化したノウハウの継承不足
現場では、特定のリーダーやベテラン作業者に作業手順や段取り、トラブル対応法が“ブラックボックス化”する傾向にあります。
手順書や作業標準が整備されていても、「この作業は田中さんがやった方が早い」など、結局は人頼みになってしまうのが現状です。
社内評価や昇進も、上長の主観や印象が反映されやすく、「データに基づく管理」が浸透しづらい原因にもなっています。
アナログ管理体制と現場の多忙さ
一方で、製造現場は日々の生産ノルマやトラブル対応で余裕がなく、データ化やシステム導入に消極的になる傾向があります。
たとえ新しい人事評価システムや可視化ツールを導入しても、「現場がイレギュラー対応の連続」「入力の負担が増える」といった理由から形骸化してしまい、“昔ながらのやり方”が続いてしまうのです。
「感覚頼り管理」がもたらす主なリスク
組織全体としての生産性・効率低下
感覚に基づく人材配置や評価では、個々人のスキルや適性を客観的に判断できません。
本来はジョブローテーションや多能工化で人員リスクを減らしたいところですが、「この部署はこの人の担当」と決めつけがちな傾向にあります。
すると、退職・異動・急な病欠などが発生した際に穴埋めができず、生産ラインの停滞や残業増加につながります。
加えて、教育が属人的なのでOJTで「教える人」によってばらつきが大きくなり、技能伝承の精度も下がります。
人材育成・後継者不足への直結
昨今の人手不足時代においては、若手や多様な人材の戦力化が不可欠です。
しかし、感覚に頼る管理では、先入観や過去の評価が強くなりがちです。
「古参組の空気を察して黙々と働く人」が優遇され、「新しい方法を提案する若手」や「効率重視で成果をあげるタイプ」は評価されにくくなります。
これでは多様性ある組織や、次世代リーダーの台頭は望めません。
結局、同質性の高い“昔ながら”の人材ばかりが残り、技術・ノウハウの硬直化と人材流出につながります。
品質・納期・顧客信頼の喪失
製造業において、現場スキルのばらつきや人員配置のミスマッチは、ダイレクトに品質問題や納期遅れに波及します。
「いつものメンバーだから大丈夫」「彼なら間違いない」と主観に走ることで、ヒューマンエラーや異常の見逃し、重大な工程抜けが発生しやすくなります。
一度でも大きな品質事故やクレームを発生させてしまえば、顧客からの信頼失墜、最悪の場合は事業撤退なんてリスクすら現実のものになるのです。
バイヤー・サプライヤー視点で理解すべき「感覚頼り管理」工場の特徴
突然の異動・休暇で現場が混乱する
調達・バイヤーや外部サプライヤーの立場で顧客工場を観察していると、「担当者が変わったらやり取りが一気にスムーズでなくなった」「いつもと違う現場長の時は見積もり精度や段取り精度が落ちる」といった場面がよくあります。
これは、情報やノウハウが属人化し、「担当者の感覚」で日々のオペレーションが回っている証拠です。
安定した品質・納期対応には、本来ならマニュアルや工程管理データへのアクセスと共通理解が不可欠なのです。
現場力に頼る企業体質に潜む“取引リスク”
「現場ががんばって何とかしてくれる」という文化は、裏を返せば「工程設計や管理プロセスへの投資をしていない」ということ。
このタイプの企業は、突発トラブルに脆弱であり、いざという時にバイヤー側・顧客側が『工場まかせの取引リスク』として評価を下げる要因になります。
特に昨今は、BCP(事業継続計画)の観点から「ヒューマンエラーや人材流出が事業に与える影響」も重視されています。
サプライヤーとしては、こうした属人的管理の実態を的確につかみ、リスクコミュニケーションを行うことも必要です。
「感覚」から「データ」に軸足を移す現場改革のポイント
人材評価とスキルマップの「見える化」
まず最初に着手すべきは現場作業者一人ひとりの技能や資格、担当業務、実績などを可視化することです。
Excelや各種HRシステム、近年は安価なクラウドツールも利用可能になっています。
具体的には、
– どの作業・工程を誰が対応できるのか
– どのレベルの作業まで任せられるのか
– 教育・OJT進捗の管理
など、スキルマップを定期的にアップデートし、客観的な人材配置や育成に役立てましょう。
「ふりかえり」と「エンパワーメント」の習慣化
日々の生産活動・業務を終えたあと、リーダーや作業者同士で「なぜうまくいったのか/いかなかったのか」「どんな気づきがあったか」をふりかえる時間を設定します。
データや実績ベースで議論することで、思い込みや属人的な評価が薄まり、現場全体の“納得感のある改善”へ繋がります。
また、現場からのボトムアップ型意見や改善提案を積極的に吸い上げられる環境づくりも大切です。
「若手や多様な人材の成長機会」を意識的に提供できる組織こそが、時代の荒波を乗り越えます。
DX活用で「暗黙知」を「形式知」へ
現場のノウハウ・トラブル事例・ヒヤリハット情報などは、そのままでは属人化しがちです。
IoTや自動化投資も含め、作業や工程ごとに履歴やリアルタイムデータを残し、「誰でも参照できる資産」に昇華させていきましょう。
社内SNS・工程日報・簡単な動画マニュアル・Eラーニング活用なども有効です。
「データ重視の組織体質」を根気強く浸透させることが、サステナブルな強い現場づくりと、人材流出防止にも直結します。
現場目線で語る、「令和型」製造人材管理の真の価値とは
20年以上現場に身を置いてきた筆者の実感としても、かつての「勘」と「根性」と「現場力」だけでは今後の製造業は生き残れません。
激しいグローバル競争・多様化する顧客ニーズ・テクノロジーの進歩が圧倒的スピードで進むいまだからこそ、現場管理者やマネジメントも“アップデート”が必須です。
大切なのは、「人を大切にする」という哲学を決して手放さず、その上で客観的データや組織知を融合させ、「全員が活躍できる現場」を実現していくことです。
経験が浅い若手も、ベテランも、異分野からジョインした人も、「フェアな評価」「スキルに合わせた配置」「キャリア意欲を支援する制度」が整えば、組織は大きく躍進します。
まとめ — アナログ思考から目を覚まし「人材管理の未来」を創る
製造業の人材管理が「感覚頼り」になりがちな背景は、決して単なる悪習ではありません。
現場への敬意・文化・チームの空気感も大切な価値です。
しかし、時代は変化しています。
感覚や属人性のデメリットと正面から向き合い、“人材資産”への投資と「データドリブンな組織づくり」へ一歩踏み出しましょう。
それが、製造現場で働く一人ひとりと、企業全体の明るい未来を生み出す第一歩になるはずです。
この記事が、現場の悩みを抱える方、バイヤーやサプライヤーとして新たな視座を得たい方々のヒントとなれば幸いです。