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秘密保持契約の不備で技術情報が流出した際のリスクと対策事例

目次
はじめに:製造業の切実な「情報漏洩」リスク
グローバル化とデジタル化が進む現代の製造業界では、技術情報やノウハウの機密保持が企業の存続を左右すると言っても過言ではありません。
特に、秘密保持契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)の不備による情報流出は、巨額の損失や信用失墜に直結する重大リスクです。
近年、昭和時代から続くアナログな商習慣や書面主義が、「NDAは結んでおけば安心」「相手を信頼していれば大丈夫」といった油断につながり、思いがけない情報漏洩につながるケースが後を絶ちません。
本記事では、製造業現場で発生しがちな秘密保持契約の不備、その結果として起こりうるリスク、そして現場目線での具体的な対策事例を紹介します。
バイヤー、サプライヤー、購買担当、現場管理職の皆様へ向け、実践的な知見を共有します。
秘密保持契約(NDA)とは何か
基本的な仕組みと目的
NDAとは、ビジネス上で得た機密情報を第三者に漏らさないことを、契約の相手方と約束する法的文書です。
例えば、新製品開発プロジェクトにおいて、部品供給を検討するサプライヤーに対し、図面や仕様、試作データなどを開示する場合、NDAを締結します。
NDAがあることで、機密性の高い情報の流出リスクを下げ、安心してビジネスに取り組めるのです。
いつ、誰と結ぶべきか
ほとんどの製造業では、発注先(サプライヤー)や開発パートナー、委託先、提携先との間でNDAを締結します。
特にバイヤーや購買担当者は、社外との打ち合わせや見積もり取得、評価試験依頼など密接に情報交換が発生するため、NDAの運用実務に精通している必要があります。
しかし、古い商習慣が残る一部企業では「長年の付き合いがあるから」「人間関係で大丈夫だろう」との油断がまだ残っています。
また、グローバル調達が増える中、多言語契約や異文化理解の不足もリスク要素となっています。
情報流出が現場にもたらす深刻なリスク
1. 競争力の喪失
自社独自の図面や加工データ、製造ノウハウが他社に流れれば、容易に同等品や模倣品を作られてしまいます。
新技術の先行優位が数か月で失われ、大きな利益機会を失うケースも多発しています。
2. 顧客信用の低下
一度情報漏洩が外部に発覚すると、顧客やパートナーからの信頼は急速に損なわれます。
最悪の場合、取引停止や違約金請求、損害賠償にまで発展することもあります。
3. 法的な訴訟リスク
NDA不備や曖昧な規定があった場合、万一の情報漏洩でも有効な損害賠償請求や契約解除ができない事態も考えられます。
また、国際的な商取引では、契約管轄や準拠法の違いによる複雑な紛争リスクもつきまといます。
なぜ秘密保持契約に不備が生じるのか
昭和型商習慣とアナログ運用の問題
日本の製造業には、長年培われてきた人間関係や信頼主義の文化が根強く残っています。
たとえば、口頭だけの「守りますよ」というやり取りや、形式的なNDAへの署名にとどまる場合も現場ではまだ散見されます。
紙で保管されたNDAが全ての情報共有シーンで適切に活用されていないことも、大きな落とし穴です。
現代的なデータ流通への対応遅れ
図面や設計データの電子化が進んでも、デジタルでの閲覧履歴管理や持ち出し制限が十分でなければ、USBメモリや外部ドライブ経由での流出も防げません。
ITリテラシーの差によるヒューマンエラー、クラウドサービス利用時の規定の不備も新たな脅威となっています。
現場で発生した秘密保持契約の不備と流出事例
事例1:NDAの有効期間・定義漏れによる流出
ある部品メーカーでは、購買部とサプライヤーの担当レベルでNDAを交わしましたが、有効期間の記載がなく、また「秘密情報」の範囲定義も曖昧でした。
数年後、開発中止となった製品の図面が別の商社経由で競合に流出。
「契約の有効期限が切れていたため、情報保護義務も消滅した」との主張により、損害請求が認められませんでした。
事例2:業者選定時“説明会”での口頭情報流出
新ライン導入のための設備選定で、複数装置メーカーを招いて技術説明会を実施。
紙による配布は制限していたものの、会場で口頭で伝えたプロセス条件や数量、顧客名などがSNSを通じ拡散していた事例です。
「契約書上の秘密保持範囲は配布資料まで」だったため、口頭での内容にはNDAが及ばず、隙を突かれることとなりました。
事例3:協力会社内での情報共有と持ち出し
協力会社A社の技術担当者が、得意先B社の業務を別の社内プロジェクトに二次利用した事例です。
NDAに基づきB社からA社へは情報提供がありましたが、「社内関係者まで開示可能」との条項があり、A社の管理が現場ごとにバラバラだったため、情報の流用が発覚しました。
現場目線でのリスク低減・対策事例
1. NDA締結・管理の徹底運用
NDAは取引先ごと、案件ごとに必ず締結し、「秘密情報」「秘密保持義務期間」「違反時の責任」などを明確に記載します。
社内でNDA雛形を定期的に見直し、グローバル案件には多言語・海外法務対応も取り入れる必要があります。
NDA締結した情報リスト・開示リストも、エクセルや専用システムで一元管理し、担当が変わった場合でも運用ミスが生じない仕組みづくりが重要です。
2. アナログ現場でも守れるルールの整備
紙の図面やスペック表を管理する現場では、配布部数や持ち出し先の記録、返却徹底の物理的な管理施策が有効です。
説明会や立会い現場では「その場での録音・撮影禁止」のルール化や、会話内容も議事メモとして残し、機密情報の口頭開示を最小限に抑える運用がポイントとなります。
3. デジタル活用とアクセス管理の強化
技術データ・図面共有には、閲覧履歴やダウンロード履歴が追跡できるセキュアなクラウドやファイル共有サービスを取り入れます。
USBや外部メディアへの複製制限、ファイルの自動暗号化など、IT部門と連携した多重防御策も不可欠です。
クラウド利用時は国際標準のISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証取得など、第三者評価済みサービスを選定します。
4. NDAに沿った「社内教育」と現場啓蒙
NDAは法務部門だけが理解していても意味がありません。
購買や現場担当者、設計者、営業担当者全員を対象とし、「何が社外秘か」「開示範囲は?」「違反時のペナルティ」などの教育を年1回以上実施します。
海外他社事例や、実際にヒヤリハット(未然の事故例)を共有することで、“自分ごと”として意識付けを強化できます。
5. 万一の流出時の「初動対応」マニュアル作成
どんなに対策しても100%の防御は難しいため、情報流出発覚時の社内連絡フローや法務対応、顧客・取引先への説明・謝罪まで「初動マニュアル」を策定しておきます。
SNS等での拡散リスクにも備え、広報とも連携した情報発信ラインも決めておくと安心です。
今求められる“ラテラル思考”と産業変革の視点
製造業の現場では、単に契約書を交わすだけの“縦”の思考ではなく、「どこに抜け穴があるか」「時代の変化とどう向き合うか」という“横”の発想=ラテラルシンキングが必要です。
例えば、- 新素材の誕生や3Dプリンタ等で「設計情報」の価値が従来以上に高まる
– サプライチェーン全体でのリアルタイムな連携が不可欠になる
– 取引先の組織や文化がグローバル化し、相互信頼と厳格管理のバランスを追求する
こういった新時代には、情報の守り方も“攻め”の観点が問われます。
NDA締結の慣例を、産業全体の基礎インフラとして捉え直すことが、結果的に業界全体の競争力アップにつながるのです。
まとめ:未来に向けた情報管理の新常識とは
製造業における秘密保持契約は、単なる“契約の儀式”ではなく、企業の「命綱」とも言える存在です。
昭和型のアナログ商習慣から脱却し、現代的・実践的なNDA運用を根付かせることで、社内外の信頼性を高め、持続的な成長やイノベーションにもつなげることができます。
本記事で紹介した具体的な失敗事例・対策をぜひ現場改善のヒントとしてご活用いただき、業界全体の健全な発展に共に貢献していきましょう。
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