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Switch B/L要求時のLOI(保証状)リスクと安全な運用ルール

目次
はじめに:Switch B/Lとは何か
Switch B/L(スイッチ・ビルオブレディング)は、国際物流・貿易実務において非常に重要な仕組みの一つです。
本船B/L(Master B/L)の情報を書き換えることで、新たなConsignee(荷受人)やNotify Party(着荷通知先)を指定することが可能となります。
この手続きは複数国にまたがる三国間貿易や、販売チャネルを柔軟にコントロールしたいとき、また在庫の所在や価格情報の秘匿に用いられることが多いです。
日本の製造業でも、グローバルサプライチェーンが主流となる中で、Switch B/Lの活用が拡大しています。
なぜSwitch B/Lが求められるのか
Switch B/Lが求められる主な理由には次のような背景があります。
1. 三国間貿易の拡大
製造業では、製品の最終納入先と生産地が異なるケースが増えています。
一旦、第三国に商品を転送し、その後、最終顧客へ配送する際に本船B/L(オリジナルB/L)の内容を切り替えることで、貨物の流れと商流の不一致を調整できるメリットがあります。
2. 商流や利益情報の秘匿
例えば仲介商社が間に入るケースでは、最初の出荷主や価格情報を最終バイヤーに知られたくない可能性があります。
Switch B/Lを使えば、こうした機密性を確保でき、ビジネスの戦略性を担保します。
3. タイムリーなサプライチェーン運用
現代のサプライチェーンでは、リードタイム短縮が競争優位性のカギです。
Switch B/Lを活用することで、オリジナルB/Lの到着を待つことなく貨物を流通させ、スピーディーな納品に対応できます。
LOI(保証状)とは何か
Switch B/Lの発行を依頼するとき、ほぼ必須となる書類が「LOI(Letter of Indemnity)」、いわゆる保証状です。
これは、Switch B/Lの発行によって発生し得るリスク・損失について、発行依頼者(通常は荷主または商社)が全責任を負うという文書です。
万一、偽造や二重貨物引取、オリジナルB/Lとの齟齬が原因で損害が発生した場合、「請求や訴えをしません」と宣言する強力な法的効力を持ちます。
なぜLOIが必要なのか
Switch B/Lの発行は本船B/Lの持つ貨物引渡権と密接に結び付いており、このプロセスを安易に実施すると、二重引取や不正利用といった重大なトラブルに直結します。
海運会社やNVOCCは、こうしたリスクを回避するため、必ずLOIの提出を求めます。
LOIに伴うリスク:実際に発生しうる問題
製造業の現場を20年以上見てきた経験から、LOIを伴うSwitch B/Lの運用には、いくつか深刻なリスクが存在することを指摘したいです。
1. 二重貨物引渡リスク
本船B/Lの複製や二重のSwitch B/Lが発行されてしまった場合、異なる荷受人に同じ貨物が引き渡される危険があります。
B/Lは貨物の“権利証”そのものなので、その厳格な管理なしには大きな事故につながります。
2. 不正利用・偽造リスク
Switch B/Lを乱発したり、情報を意図的に隠蔽・改ざんすることで、資金洗浄や違法取引への加担となってしまうケースもゼロではありません。
特に、昭和的な“なあなあ”の業務慣行が残る企業では注意が必要です。
3. 保証債務の無限責任化
LOIには「Unlimited Liability(無制限責任)」が明記されている場合が多く、もしトラブルが起きた場合、荷主が無限に損害賠償責任を追及される可能性があります。
企業規模に関わらず、場合によっては一発で経営危機にもつながりかねません。
4. 保険適用外リスク
LOIを提出して本来許されない業務運用をしている場合は、貨物保険やサイバー保険が適応外となる場合があります。
最悪の場合、すべての損害を自社内で負わねばならない点に注意しなくてはなりません。
日本の製造業で多いアナログ対応の課題
日本の中小製造業や、昔ながらの現場主導型の企業では、今なお手書きやFAX、電話によるSwitch B/L・LOI発行依頼が横行している現状があります。
この運用が時代遅れであるだけでなく、下記のようなリスクが顕在化しています。
1. 情報伝達ミス、漏洩の増加
口頭やアナログ伝達による情報のヌケモレや記載ミスは、実際の貨物処理現場で毎日のように発生します。
その結果、B/L情報の齟齬や貨物事故が頻繁に起きがちです。
2. 権限者の不明確化
発行依頼者情報や責任者のサイン、印影などがあいまいなままLOIが発行され、後々トラブルの原因となるパターンも多いです。
昭和的な“お互いさま”意識は、もはや許されない時代です。
Switch B/L・LOI運用で必ず守るべき安全ルール
ここからは、実際の製造業現場で求められる、Switch B/LおよびLOI運用の安全ルールを整理します。
信頼される取引先・サプライヤーとしてバイヤーから選ばれ続けるためにも、これらを徹底しましょう。
1. 書式・運用ルールの標準化
LOIの書式や切り替え依頼の運用を、社内で明確にマニュアル化しましょう。
どの案件で発行を許可するか、誰が承認するかをドキュメント化し、都度レビュー・見直しを行うことが重要です。
2. 電子化・一元管理の徹底
できるだけEDI・クラウド文書管理などのシステムを導入し、Switch B/L依頼プロセスの電子化とセキュアな履歴管理を義務付けましょう。
この取り組みは監査リスク、トラブル時の追跡性向上につながります。
3. 関連当事者の確実な認証手続き
署名者権限の明確化、二重認証(上長・法務部門)の導入など、人為的なミスやなりすまし対策を強化してください。
形式的な印鑑文化から脱却し、電子署名等への移行もおすすめです。
4. LOIのリスク説明と内部教育
LOIが持つ法的責任・リスクについて、経営層・現場担当含め定期的な教育を行い、安易な依頼・発行を抑制しましょう。
特に新任バイヤーや現場責任者など、実際にサプライチェーン管理を担う従業員のリテラシー向上は不可欠です。
5. 保険会社・法務顧問との連携
発生し得るLOIリスクと自社の責任範囲を明確化し、保険カバーの妥当性や、トラブル時の法的対応体制を事前に整備しておきましょう。
うやむやな運用は全面的な損失拡大に直結します。
バイヤーが重視するサプライヤーの信頼性とは
購買現場で働いた経験から、バイヤーが特に重視するのは「サプライヤーの誠実な運用・トラブル予防能力」です。
価格や納期だけでなく、下記のポイントが選定基準となります。
1. 正確なドキュメントワーク
B/LやLOIなど貿易実務での書類の正確性・迅速性は、信頼を決定付ける最も基本的な要素です。
2. リスクに対する透明な説明
たとえ顧客からの要望でも、法的リスクやトラブル防止について明快に説明し、安易な約束を控える姿勢は評価されます。
3. 問題発生時の迅速な対応力
万一の事故時には、すぐに現地・社内関係者へ情報展開し、再発防止策もセットで素早く実行できることが重要です。
時代の変化に合わせた現場力のアップデートを
Switch B/LやLOI運用は単なる貿易“事務手続き”ではなく、会社全体の信用や取引先との長期関係を左右する経営リスクです。
今後は、DX推進や国際的なコンプライアンス強化も踏まえ、現場担当者一人ひとりの「考えて動く力(ラテラルシンキング)」がより重要になります。
まとめ
Switch B/LとLOI(保証状)の運用については、単に取引案件の流れに流されるのではなく、「何のために、どこまで対応するのか」「リスクや責任はどこにあるのか」を現場レベルから経営層に至るまで社内共有し、不断のアップデート・見直しを繰り返すことがポイントです。
製造業に携わる皆さん一人ひとりが、現場目線と経営目線をもち、変革を恐れず安全なスキーム構築の旗振り役になることを期待しています。
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