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開発者の“こだわり”が過剰になり技術が複雑化する危険性

目次
はじめに:技術の「こだわり」は本当に価値を生むのか?
製造業において「技術へのこだわり」は美徳とされてきました。
特に昭和の高度経済成長期を支えてきた日本の現場では、開発者の情熱や執念こそが世界に誇る高品質を生み出し、グローバル競争をリードしてきたという歴史があります。
しかし、現代の成熟社会では「こだわり」が複雑性やコスト、さらには属人化リスクといった新たな問題を生み出す要因にもなっています。
本記事では、過剰な技術へのこだわりがもたらす危険性や、その背景にある日本特有の業界構造、そして調達・品質・生産管理の現場から見た課題と解決策を、製造業のベテラン視点からラテラルに掘り下げます。
“こだわり”が生み出す過剰な技術仕様の現場事例
一品モノ志向が生産現場を混乱させる
例えば量産品であっても、「この製品だけは他社に負けたくない」という開発者の熱意が全体最適よりも個別最適を追求し、ミクロなパーツの形状や仕上げ方法、材料選定にまで独自の基準を設けるケースがあります。
小さなバネ一つの寸法精度を、JIS以上の社内規格で細かく縛る。
結果、手配や作り込みの難易度が上がり、標準パーツが使えずコストアップ。
調達購買部門は割高な部品に苦労し、複数サプライヤー化も難航します。
このような「オンリーワン仕様」を積み上げた結果、現場は多品種少量生産の様相を帯び、「量産しているはずが、実態は試作品の連続生産」――といった矛盾に直面することが多々あります。
暗黙知・属人化が根付く昭和型文化
特定のベテラン社員しか理解できない暗黙の「ノウハウ」。
その高度な“こだわり設計”は時に会社の強みにもなりますが、文書化・標準化が遅れがちな日本製造業では、いつの間にか「属人化リスク=技術伝承断絶」の温床ともなりえます。
たとえば、品質異常が発生した際に「この部分は、先輩がこんなやり方でやっていた」と口伝えで再現しようとしても、ロット成績や工程管理の記録と突き合わせができず、問題の原因究明が遅れるのです。
なぜ“こだわり”が過剰化しやすいのか? ~日本固有の業界背景~
サプライヤー任せの丸投げ構造
日本の製造業は分業が進んでおり、サプライヤーが「ユーザー要求を何とか形にしてくれる」ことを前提に仕事が組み立てられています。
発注元も設計部門も、過剰なまでに細かい仕様書をサプライヤーに渡し、「これでOK」と思いがちです。
しかし、その実現可能性やコスト感覚、量産ノウハウについては、現場とのディスカッションが十分に行われないまま“要望”が通ってしまうことが散見されます。
結果、サプライヤー側も“お客様は神様”意識で無理な要求に応え続け、業界全体がコスト高・非効率に陥るパターンが定着しているのです。
「前例踏襲」主義による複雑化の連鎖
もう一つの問題は、「前例踏襲」によって仕様がどんどん積み重ねられ、設計が複雑怪奇になる点です。
設計変更のたびに「念のため残しておこう」「過去に失敗したから追加要件をつけよう」と枝葉末節な条件付けが進み、標準化から離れてゆきます。
この傾向は、調達購買・品質管理・現場作業の各プロセスで、余計な検査項目や帳票、管理ルールの増大をもたらし、現場力向上を阻害する要因になっています。
過剰なこだわりがもたらす弊害
購買・調達コストの増大と納期遅延リスク
部品・資材の仕様が独自にカスタマイズされてしまうと、市場在庫が使えず、製作リードタイムやコストは跳ね上がります。
サプライヤーは特注用の金型や治具を新調しなければならず、「この案件のためだけに特別対応」となれば、生産負荷はサプライチェーン全体に波及します。
昨今、半導体不足や原材料高騰、世界的なサプライチェーン混乱が頻発していますので、「社内だけ」で自己完結できない購買・生産体制は、大きな納期遅延リスクにもつながります。
品質トラブルの温床、柔軟な改善活動の阻害
「設計者の意図」が過剰に反映された仕様は、一度トラブルが発生すると、標準的な改善フローが適用できず、原因究明や対策立案が遅れがちです。
また、「なぜこの設計になっているのか」が現場に伝わらず、「この要件は外してもいいのでは?」という提案すら出てこない――といった課題も見られます。
品質マネジメントの基本は標準化と継続的改善です。
しかし「特殊なこだわり」によって現場が“何もさわれない聖域”を生み出してしまうと、成長の芽を自ら摘むことにもなりかねません。
技術伝承・人材育成のボトルネック化
設計意図やノウハウが属人的・暗黙知になれば、若手や新規メンバーの教育がとても困難になります。
また、働き方改革・定年延長など現代的な流れの中で、ベテラン層のリタイアとともに「失われる技術」も深刻な経営リスクです。
曖昧なこだわり文化は、結果的に「誰も責任を持てない」「全員が保守的になる」悪循環を生み、業界の停滞感にも直結します。
アナログ業界における“こだわり”脱却のカギ
現場・サプライヤーとの「対話型開発」へシフト
メーカーの開発担当者は、「顧客価値」に直結しない過剰品質、個人的なこだわり仕様に疑問を持つことが大切です。
仕様をつくる際には現場リーダー・調達購買担当・生産技術・サプライヤーと直接対話し、「本当に必要か」を繰り返し検証する体制が求められます。
「現場の声を聴き、ムダをそぎ落とした現実的なスペック」に落とし込めれば、生産性もコストも競争力も各段に向上します。
設計初期段階でのコスト意識と標準化
バイヤー(調達購買担当)は部品の規格・グレードについて相談を受けた際、「社内の美学」と「グローバルな市場規格」の両方を冷静に比較する目線が不可欠です。
設計・製造・購買とのトライアングルディスカッションを通じて、標準品活用のメリットやサプライヤーとの共創可能性を意識しましょう。
業界によっては、設計審査段階で「標準部品で対応可能な項目、特注対応が本当に必要な部分」を仕分ける社内ルールやレビュー会議を徹底することも、有効な手段となります。
デジタル化・自動化の波を活用する
日本の製造業はデジタル化の面で欧米に遅れをとっていますが、設計情報や仕様書の電子管理、自動シミュレーションやBOM一元化、データドリブンの現場改善など、ツール活用の余地は大きいのが実情です。
標準仕様・設計意図をデジタルで可視化し、誰もがアクセスできる状態をつくることで、「こだわり」の質的転換(アナログからデータ駆動型へ)を目指すべきです。
サプライヤー視点でバイヤーの“本音”を知る
サプライヤーがバイヤー(発注元)の“本当の意図”を理解することは、取引を有利に進める大きな武器となります。
顧客の要望ではなく「顧客の課題」を一緒に定義し直すことが、シンプルで高品質な製品提案につながります。
たとえば、仕様書に「ただちに○○対応せよ」とある場合も、冷静に背景をヒアリングし「どの工程・どの顧客価値のための条件ですか?」と踏み込む姿勢が重要です。
プロアクティブに提案型交渉を行うことで、「御社であれば、標準仕様でこの品質レベルに到達できます」とリードすれば、Win-Winの関係構築が可能になります。
まとめ:こだわりから“価値創出”への進化を
昭和から続く日本の製造業文化は、職人・現場主義の輝かしい歴史とあわせて、「過剰なこだわり」が全体最適を阻害しやすいという弱点も孕んでいます。
本当にお客様や社会が求めている“価値”を再定義し、現場やバイヤー・サプライヤーと対話しながら、シンプルで効率的なオペレーションを組み立て直す――
これが、これからのVUCA時代を生き抜く製造業のカイゼンの神髄です。
一人ひとりが「こだわり」の意味を問い直し、イノベーションにつなげる勇気を持つことが、業界全体の底上げと、次世代技術者の育成・持続的成長への第一歩となるでしょう。
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