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製品保証の範囲を曖昧にして契約を進めるリスク問題

目次
はじめに:製品保証の範囲が生み出す現場のリスク
製造業の現場では、製品を購入するバイヤーと提供するサプライヤーの間で必ず交わされる「保証契約」ですが、その範囲――つまりどこまでがメーカー責任で、どこからがユーザー側の問題であるのか――を曖昧にしたまま契約を進めることで、大きなリスクに直面する場合が多くあります。
昨今のグローバルサプライチェーン強化やESG経営への注目が高まるなか、昭和時代から続く「なあなあ契約」や「暗黙の了解」で物事を進めることが、時代にそぐわなくなってきています。
この記事では、現場目線で見た実例やトラブル事例も交えつつ、製品保証の範囲設定が曖昧なまま契約が進んでしまうことで起きる問題とその本質的なリスクについて掘り下げます。
製品保証とはなにか?現場での現実的な意味
製品保証(プロダクトワランティ)とは、サプライヤーが製品の品質や性能、期間内での無償対応などを保証する制度のことです。
仕様通りに製品が動作するか、どこまでが正常な使用か、万一の不具合が発生した場合の補償内容や範囲を取り決めておくことで、バイヤーもサプライヤーも安心してビジネスができます。
しかし製造業界の多くでは、
「とりあえずメーカ側でなんとかしてくれる」
「使い方はユーザー任せ」
「細かい条件は省略、全体最適」
など“なんとなく”で話を進めてしまいがちです。
その分、納品後のトラブルが起きた時に「どこまでが保証範囲か」「無償修理・交換はどこまで」「ユーザー側のミス?設計上の想定?」「“通電試験”は保証対象か?」などで揉める事例が多発しています。
よくある「保証範囲が曖昧な契約」事例
ケース1:現場工事用の制御盤
制御盤メーカーA社が、プラント向け企業B社へ納品した制御盤。
「正常使用下での1年間の無償保証」とだけ契約書に記載。
半年後、現場で不具合が起きた際、B社は「届け出た使い方なのだから、当然メーカー保証範囲」と主張。
A社は「想定外の電源変動があったのでは?保証対象外」と反論し泥沼化。
このように「正常使用」「想定条件」などが曖昧なまま話が進み、後からトラブルになるケースは後を絶ちません。
ケース2:精密部品の海外調達
日本の大手メーカーC社が海外サプライヤーD社から精密部品を調達。
資格試験や耐久試験データの提出は受けていたが「納入後30日以内の目視外観チェックのみ保証」だったことに後で気付く。
実際の工程ラインに乗せて数か月後に問題が発覚し、すでに保証範囲外。
一方で生産上の工程異常か、納入部品の責任かも曖昧で、サプライヤーとの関係性にヒビが入った。
こうした「短期・狭義の保証範囲」設定のリスクは、ふだん現場担当者が細かく気に留めていない場合がほとんどです。
なぜ保証範囲が曖昧なまま契約が進んでしまうのか?
原因1:現場主導の“信頼ベース”取引慣習
昭和から続くものづくり業界特有の「現場信頼」「担当ベースでの口約束」が、今なお根強いです。
「担当者/設計者同士の顔が効くから問題ない」
「細かいことは現場同士で柔軟にやれる」
結果、契約書類も標準化されず、本来明文化すべき保証範囲が範囲不明確なまま交わされることが多いのです。
原因2:仕様・工程の複雑化・スピード化
一昔前に比べ、製品仕様やエンジニアリング工程が複雑化し、グローバル化・短納期化・小ロット多品種生産が加速しました。
現場に余裕がなく、細かな保証項目まで調整・検討する時間が物理的に取れません。
「まず製品を走らせてみて、不具合あったらその都度対応」
「保証や補償条件は個別対応」
という“走りながら”な運用が、リスクを拡大させることになります。
原因3:契約書や保証書のテンプレ運用
契約担当部門に「標準テンプレ」があり、それを大きく手直しする時間や意識を持たず使い回すケースも多いです。
内容を精査しないまま「無難な内容」「前回と同じで進めましょう」で進行。
情熱や現場感を持たぬ“書類上だけの保証範囲”が温床となっています。
製品保証が曖昧な契約による3つの重大リスク
リスク1:想定外コストの発生
バイヤーとしては「メーカー責任でしっかり直してくれると思ったのに有償?」
サプライヤーとしては「予想外の費用請求がのしかかる」
この食い違いにより、本来予算化すべきでなかった出費や、想定外の在庫損失・材料調達・サービスマン派遣など、現場を大きく揺るがすコスト増ジャンクションに直面します。
リスク2:パートナー関係・信用の崩壊
保証範囲の曖昧さは、バイヤーとサプライヤー双方の不信・齟齬につながりやすいです。
契約金額・仕様条件ばかりに意識が向き、
「こんなはずじゃなかった」
「現場の声を聞いてくれない」
といったマイナス感情が社内外で増幅されます。
この結果、一度信頼を損ねてしまうと、その後の関係回復にはコストや時間もさらにかかるようになります。
リスク3:納期遅延や社会的影響まで拡大
第三者(最終ユーザー、エンドカスタマー)や金融機関、投資家、マスコミなどの利害関係者も巻き込むリスクになります。
万が一納品した製品に社会的インパクトのある欠陥やリコール仕様があった場合、「どこまで保証できるのか」が明確でないと、取引停止や企業イメージ毀損、場合によっては訴訟や制裁のリスクにも発展しかねません。
なぜ今、保証範囲の明確化がこれまで以上に重要なのか
グローバルサプライチェーンのリスク管理が求められる時代
海外展開が当たり前となり、品質や安全基準への国際対応が課せられる中、日本国内だけの“空気を読む”ビジネスは徐々に通用しなくなっています。
また、サプライヤーが多国籍になると、契約書類の解釈や保証範囲におけるリスク認識も変化します。
「まあいいか」が通じなくなる現代において、自社を健全に守る意味でも保証範囲明確化は絶対となります。
DX・自動化の拡大で「責任範囲」の再定義が必要に
IoT・AI・ロボットなど工場自動化が進むことで、単純な部品・機器レベルだけでなく、システム全体・インターフェース・データ・ソフトウェア連携までが保証の対象となってきました。
どこからどこまでをサプライヤー責任とするのか?
「動作に問題が出た」際、それが設計上/運用上のどこに起因するのか?
製品保証の範囲合意が、これまで以上に複雑化し、その分リスクも増しています。
実践的に「保証範囲の明確化」を進めるポイント
現場目線で洗い出すべき保証範囲の基準
・製品仕様書の内容とリスクポイントを詳細に確認する
・どこまでが正常使用か、異常・不正使用かの境界を明文化する
・初期不良/工程起因/経年劣化/機能制限…など、保証しないケースもはっきり示す
・現場運用マニュアルや、納入後チェックフローも明記する
開発・調達・品質部門の連携で「想定外」を排除
契約時点で調達担当と技術・生産部門が必ず横断的にチェックし、“想定外使い方”や“納品現場特有事情”を現場目線で洗い直しましょう。
机上だけでなく「実際の現場・運用で何が起きるか」を想像し、リスクを可視化します。
テンプレート更新と教育で文化を変える
保証条項や契約書テンプレートの定期見直しを実施し、こまかな追加・修正を怠らない組織運用が大切です。
また、調達・品質・営業・設計など部署横断で「なぜ保証範囲明確化が大事なのか」を教育徹底し、“アンチなあなあ文化”を根付かせましょう。
まとめ:新しい地平線を切り拓く保証契約文化へ
製品保証の範囲を曖昧にした契約が、どれほど大きなリスクを現場にもたらすかは、長年製造現場に身を置いてきた身としても、数々の苦い経験とともに強く感じます。
従来の“信頼重視・融通運用”も一面の美徳ですが、それが通じない時代に入りました。
今こそ、現場目線に基づきながらも、ラテラルに「保証範囲明確化」に向き合うことが、製造業の未来を切り拓く重要な一歩だと確信しています。
サプライヤー、バイヤー双方にとって「正直で健全な商取引」を実現するため、実践的な保証契約文化を組織に根付かせていきましょう。
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