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ロール調整に熟練者が必要になる属人性

目次
ロール調整の現場が抱える「属人性」の壁
ロール調整とは、板金やフィルム、紙などを加工する工程で用いるロール機器(ローラー)の隙間や圧力、平行度など、多岐にわたる調整作業を指します。
工場や製造現場では、ごく当たり前の工程ですが、その調整作業には経験に裏打ちされた「勘」と「コツ」が求められます。
現場に長年根付いてきたこの属人性が、時代の転換期にどう対応していけばよいのでしょうか。
今回は、ロール調整の現実や属人化が招く課題、新たなアプローチまで、多角的な視点で解説します。
なぜロール調整に熟練者が必要なのか
高度な「勘」と「手触り感」
ロール調整は一見、数値を合わせるだけの単純作業に見られがちですが、実際には素材の微妙な厚みや表面性状、季節による環境変化までも加味する必要があります。
とりわけ、多品種・小ロット化や特殊な新素材の需要が高まる現代においては、「過去の実績を基にした調整」だけでは不十分なケースが急増しています。
多くの現場では、微妙なアタリ調整や圧力のさじ加減を、手先の感覚・音・異常な振動の違和感など、五感を総動員しながら仕上げていきます。
過去のトラブルや成功例の「蓄積された経験知」が不可欠となり、「誰でもできる工程」に落とし込むことが困難です。
仕上がり品質への影響
ロール調整が失敗すれば、材料のヨレ・しわ・厚みムラ・表面粗度不良など、エンドユーザー製品の品質に直結する不具合となります。
検査部門や後工程での見直し・再加工・手戻りリスクも増加し、生産性・歩留まり、ひいては企業の利益に大きく響きます。
そのため「熟練者によるロール調整」は、現場の品質を守る最後の砦であり、絶対に外せない工程と認識されています。
属人性がもたらすリスクと課題
技術伝承の難しさ
技術伝承の壁は、まさに日本の製造業全体が直面している深刻な課題です。
教科書やマニュアル化しづらいロール調整は、とにかく現場で「体得」し、「経験値」を積み上げていくしかありません。
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で何度も失敗を重ねながら技術を修得するため、人材の育成には想像以上の時間とコストがかかります。
また、昭和・平成時代の熟練者が高齢化や定年によって現場を離れることで、ノウハウが一気に失われる可能性も懸念されています。
ムラや属人的な判断リスク
「Aさんならうまく仕上がるが、Bさんだとうまくいかない」といったムラが毎日のように生まれるのは、属人性が高い工程の特徴です。
人による出来・不出来が品質の安定化を妨げます。
特に24時間稼働の工場などでは、シフト差による「レベルのブレ」が製品の均質性に影響を及ぼします。
「今月は不良率が高い」「Aラインだけトラブル頻発」などのトラブル報告も、突き詰めてみれば人による“差”に起因しているケースが多いのが現実です。
なぜアナログ作業が残るのか~現場目線から見る業界動向
自動化・デジタル化の壁
生産現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進む現代でさえ、ロール調整などの「人の勘」がモノを言う作業工程には自動化装置の導入が追いついていません。
各種センサーやモニタリングシステムを用いた自動調整機能も普及してはきているものの、
・材料ロットによるわずかな性質差
・機械装置側の年次劣化や微細なガタ
・現場独特の“癖”への対応
といった問題は、理論値だけでの解決が難しい現状があります。
メーカー側も「経験値による微調整が最終的に必要になる」と考え、装置選定や投資判断に慎重姿勢を崩せません。
サプライチェーン全体への影響
バイヤー視点で考えたとき、「安定した調達」「品質保証された製品供給」を求める立場としては、こうした属人性に大きなリスクを感じざるを得ません。
サプライヤー(供給側)は「人に依存しない、仕組みで保証できる体制」を求められる時代になっています。
しかし現実は「安定した品質管理に熟練者の力が必要」という構造から抜け出せていません。
このミスマッチがサプライチェーン全体の非効率化や、取引先間の信頼関係悪化を生んでしまう要因にもなっています。
ロール調整属人化の受け止め方―現場での本音
「勘とコツ」は悪なのか?
近年の若手バイヤーや新規事業担当者にとって、「勘とコツに頼る職人仕事」は「古い」「時代遅れ」とネガティブに捉えられがちです。
ですが、変化が激しく需要多様化が進んだ現代製造現場こそ、そうしたアナログな対応力が不可欠なのも事実です。
むしろ現場では、「全てを機械任せにすると逆にトラブル増加」「時に想定外のイレギュラーが頻発するので臨機応変な判断が必要」といった声が多く聞かれます。
現場が誇る「応用力」とは
熟練者によるロール調整の本質は、「過去にない状況が発生したときでも“現場流の最適解”を導き出す応用力」に他なりません。
工場ラインの立ち上げ時、全設備を新品に交換したはずなのに「なぜか片寄りする」といった現場トラブルも、「コツを知る人」がわずかな金具の締め付け順や、負荷のかけ方調整でサッと改善した経験が多々あります。
この柔軟性と対応力は、デジタル化で全てを置き換えることができない現代製造業ならではの強みです。
属人性から脱却する新たなアプローチ
「暗黙知」を「形式知」へ―ノウハウの見える化
近年注目されているのが、日々の調整過程や現場での気付きを逐一デジタル化し、ノウハウとして「見える化」する取り組みです。
・写真や動画を交えた作業マニュアルの作成
・IoTセンサー活用による各種調整データの記録
・現場の熟練者たちによる勉強会やナレッジミーティング定例化
など、“技能の言語化・体系化”を目指す工場も増えてきました。
サプライヤーであっても、こうした取り組みを積極的に発信することでバイヤーの信頼獲得や新規受注拡大につながります。
デジタル技術の導入―アナログ技能に寄り添うDX
現場力の根源を否定するのではなく、「人の技能とデジタル技術を掛け合わせる」方向が、これからの主流になっていくでしょう。
・AI画像判定による最適設定のレコメンド
・過去のトラブル分析データから“NGパターン”を自動アラート
・スマートグラスでの遠隔支援や作業ライブ配信
といったハイブリッド型のソリューションが急速に現場へ導入されています。
これにより、初心者作業者でも一定レベルの工程品質確保がしやすくなるとともに、品質トレーサビリティや再現性が飛躍的に向上します。
まとめ―属人性を生かし、乗り越えるために
ロール調整における属人性は、製造業現場の“壁”であると同時に“強み”でもあります。
弱みと強み、その両面を正しく認識しながら、以下のアプローチが求められます。
・現場人材の経験値や技能をしっかりと資産化する(形式知化・ナレッジマネジメント)
・AIやIoT、データ解析を駆使した「人に寄り添うDX」を推進する
・若手や異業種出身者も活躍できる仕組みで、人材の多様性を強みに変える
これこそが、昭和から平成、そして令和の製造現場で生き残り、サプライチェーンの信頼を勝ち取る最大のポイントです。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場力を磨く方、それぞれの立場で「現場の属人性」に向き合うヒントを本記事から得ていただければ幸いです。
いまこそアナログとデジタルの融合で、新たなモノづくりの地平線を切り開きましょう。