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ロール設計ノウハウがブラックボックス化しやすい問題

目次
ロール設計ノウハウがブラックボックス化しやすい問題
はじめに―ロール設計ノウハウが抱える課題
ロール(圧延ロール、ガイドロールなど)設計は、製造現場の根幹を支える重要技術です。
特に鉄鋼、紙、フィルム、食品など多様な業種で使われており、ロール形状や材料特性、表面処理、精度などのノウハウは、製品品質と生産性に直結しています。
ところが、こうした技術が担当者やベテラン技能者の「頭の中」や個人ファイルに留まりやすく、ブラックボックス化する現象が多発しています。
この現象は、業務継承の難航・設計品質のばらつき・調達対応の遅れなど、製造業全体の競争力低下にもつながりかねません。
なぜ、ロール設計のノウハウはブラックボックス化しやすいのか。その実態と問題点、そして「昭和的な現場文化」との関連も紐解きながら、打開するアプローチを考察します。
なぜロール設計ノウハウはブラックボックス化しやすいのか
設計者の属人的スキルとアナログ慣習
ロール設計には高度な知見が求められます。
たとえば、素材選定一つとっても摩耗特性、表面粗さ、ミクロン台の公差管理など多岐にわたり、「この条件ならこの仕上げ」「設備の癖に合わせて微妙に勘案」など、経験と勘の蓄積が重視されてきました。
特に紙・フィルムなど連続加工現場では「このロール担当は○○さん」と顔が決まっており、設計のポイントや失敗ノウハウは設計者の頭の中にしまわれたままになります。
設計パラメータ(曲げ剛性・芯振り・バランス…)はEXCELや手帳に散在し、「なぜその値にしたのか」を明文化しないまま蓄積されています。
また、「長年の感覚」「先輩の教え」のような言語化しづらい知見が幅をきかせやすく、システムやマニュアルにはなかなか落とし込まれません。
ファイル管理とノウハウ集約の壁
多くの工場現場では、設計図や仕様書はCADデータとして保管していますが、「設計の考え方」「経緯」「トラブル履歴」までは記録されていません。
図面だけが残されても「なぜこう設計したのか」が分からず、次担当者はゼロから考え直す羽目になります。
ロールに関するノウハウファイルは個人PCやメモ、限定社内フォルダに散在しており、体系的なナレッジ化が進みにくいです。
さらに昭和から続くアナログ慣習(紙のファイル、現場での口頭伝承など)は、DX化・標準化の障壁招いています。
顕在化する世代交代リスク
熟練の設計者が退職、配置転換、出向するごとに、「設計の魂」が工場から消え、ブラックボックス化した部分だけが残ります。
新任バイヤーや若手設計者が引き継ぐたび「過去の意図が読めない」「なぜこのサプライヤーを使い続けているのか説明できない」問題が発生します。
現場では「また最初から経験しないと理解できない」「同じトラブルを繰り返す」など非効率も生じています。
ブラックボックス化が招く現場課題
設計標準の乱立
ロール設計のノウハウが個人や部署ごとに閉じると、同じ工場内でも「似て非なる標準」「古い設計手法」が残存します。
サプライヤーも「Aラインは仕様A、Bラインは仕様B」と個別対応を求められ、調達交渉・生産管理を煩雑にします。
統一的な購買戦略や部品標準化が進まず、ムダな調達コストやリードタイム長期化の一因となります。
トラブル対応力の低下、品質リスクの増大
たとえば生産ラインでロールが破損した場合、現場対応は過去の交換履歴や仕様データの読み解きから始まります。
しかし「なぜその材料・形状・仕上精度が採用されたのか」が明確でないと、仮設立案~対応策検討に遅れが生じます。
結果として、現場でその場しのぎの修正や、無駄な過剰設計につながりやすいです。
また、過去のトラブルに学べず“杜撰なコピペ設計”が横行すれば、想定外の品質事故を誘発しかねません。
サプライヤーとの不信・最適提案力の低下
サプライヤー側から見ても「なぜその仕様要求なのか」「どう現場に役立っているのか」が不透明だと、単なる御用聞き、値引きだけの交渉になりがちです。
一方、バイヤーや現場設計担当者でも「あのサプライヤーしかノウハウを知らない」「他社比較ができない」という不安要素が増します。
パートナー戦略やコストマネジメントも不十分なまま、地盤沈下につながります。
サステナブルな工場運営が困難に
年々「技能伝承・業務継承」の重要性は叫ばれていますが、ブラックボックス文化が温存されれば結局は「人が辞めたら終わり」の属人依存型運営です。
データドリブンな改善やDX(デジタルトランスフォーメーション)に着手したくても基盤が育たず、昭和的な「現場頼み、勘頼み」から抜け出せない現実も浮き彫りです。
なぜ昭和的アナログ慣習からの脱却が難しいのか
“現場主義・経験重視”が根強く残存
多くの製造現場で「現場で見て、手で確かめる」「口伝でのノウハウ共有」文化が強く、“データ化=机上の理論”という警戒心さえあります。
現場リーダーや設計者が「設計の勘どころは現物を見ないと分からない」「自分しか分からない微妙な調整がある」と考えるのは、ごく自然なことです。
ただ、この考え方は現場担当者が定期的に入れ替わる時代には、とてもリスクの高い運用です。
DX推進の壁、現場DX人財の不足
ロール設計の審美眼や技能伝承は「AIやデジタルでは伝えきれない」との意識が根強く、デジタルツール導入やIT化への抵抗も残っています。
設計知識をデータベース化したり、設計理由や意思決定の履歴を「ナレッジ」として蓄積する習慣が弱い、という課題もあります。
また、そうした変革をリードできる人財(設計×IT×現場感覚のバランス保有者)が不足しています。
“やり直し”を許容しがちなコスト意識の低下
日本の製造現場では「同じ失敗を繰り返さない」強い姿勢もありつつ、古くから「やり直し・再発注」に寛容なムードも残っています。
短期改善よりも「今はこのまま」「いつかまとめて対策」のような先送り文化が、ノウハウ集約の遅れの温床となっています。
バイヤー目線・サプライヤー目線から見たブラックボックス化の本質
バイヤーにとってのリスク
調達・購買側にとってノウハウがブラックボックス化している状態は、数多くの調達リスクを内包しています。
たとえば
・「理由もわからず長年同じ発注条件が続いている」
・「過剰品質、高コストに気付かないまま使い続けてしまう」
・「新規サプライヤーを開拓しにくい」
・「トラブル対応の度、根本から仕様を見直す必要がある」
といった問題が山積します。
バイヤー自身が「現場ノウハウの背景」を掴めていれば、コスト圧縮、仕様変更提案、調達先見直しの際も根拠をもって交渉できます。
サプライヤーにとっての不利益
サプライヤーの技術担当・営業から見ても「設計者の本音・現場の狙い」が曖昧だと提案が的外れになりやすく、取引深化や独自価値提案につなげにくいです。
また、バイヤー側の担当変更のたびにゼロから仕様要求の聞き直し、過去の不透明な判断基準による無理難題が起こる可能性も高まります。
ブラックボックス化打破のために取り組むべきこと
設計ナレッジ、技術伝承の可視化・データ化
まずは「ロール設計ノウハウ」を、理由・背景・設計パラメータまで含めて見える化することが不可欠です。
ExcelやWiki、設計レビュー録、失敗事例集を使い、「誰でも辿れる設計履歴データベース」を作ることが第一歩となります。
例)
・各ロール毎に設計判断のポイント、実際のトラブル・修正履歴も時系列で管理
・なぜそのパラメータを選んだか(現場ヒアリングに基づくコメント記録)
・過去サプライヤー評価、設備交代時の調整対応フローも残す
この習慣は、手間のかかる“メモ”の蓄積ではなく、次担当者・バイヤーのための「ナレッジ資産」づくりという発想で行うことが求められます。
調達・設計部門の協働、プロセス連携を強化
調達(バイヤー)・設計が「お互いの意図・背景」を共有する現場会議を増やし、
・サプライヤーと直接、設計方針の勉強会を行う
・“なぜこの仕様なのか”を定期的に再検証
・コスト・品質・納期バランスの見直しなどをワークショップ形式で推進する
ことが有効です。
サプライヤーにもナレッジ共有できる部分をオープンにし、「当社はなぜそのロール設計を大事にしているのか」を説明すれば、値引きや単なる模倣品対応だけでない“業界共創”へと発展します。
現場DX人財の育成/昭和マインドの改革
設計のベテランと若手、調達担当、サプライヤーも交え“現場で気づいたこと・学んだこと”を電子共有するトレーニングも重要です。
昭和型マインドに由来する“口伝・属人スキル依存”を少しずつ崩し、「見える化・データ化」の価値をみんなで実感する文化を作りましょう。
これらの変革を現場リーダー層が主導し、小さな成功体験を広げていくアプローチがカギです。
まとめ ― 製造現場から新たな地平を切り拓こう
ロール設計のブラックボックス化は、業種・規模を問わず多くの製造業が直面する“永遠のテーマ”です。
しかし、支える技術が高度化し、多品種対応やDX化が進む中、属人性や暗黙知に依存していては、日本の製造業の競争力は伸ばせません。
設計ノウハウの可視化・データ化、バイヤーとサプライヤーの協働強化、そして現場の意識変革こそが、大きな差別化・価値創造につながります。
日本的な良さである「現物感覚」と世界標準の「データ経営」を融合し、ブラックボックスを“知的資産”へ変えていく。
その挑戦こそ、次世代ものづくり現場に今、求められています。
ロール一本の設計に詰まった知恵と経験を、社内資産から業界資産へ。
製造業の皆さんが、より力強く、自由な発想で未来を構想できることを願っています。
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