トイレットペーパーの巻きがズレないロール張力と芯径制御

はじめに

トイレットペーパーのロールを使用していて、「巻きがずれて最後まできれいに使えない」「芯がゆるいせいで取り出しにくい」といった経験をしたことはありませんか。
このような問題は、一見些細に思えますが、ユーザー満足度やクレーム削減、商品のブランドイメージに大きな影響を及ぼします。
本記事では、製造現場目線でトイレットペーパーの巻きズレを防ぐロールの張力管理や芯径制御について、その技術的背景や課題、現場でのノウハウ、そしてこれからの自動化・デジタル化の流れも踏まえて解説します。

トイレットペーパーの品質と製造工程の関係

トイレットペーパーの基礎構造

トイレットペーパーは、長い紙のウェブ（原反）を一定の長さで巻き取り、芯にしっかりと巻きつけて切断することで製品化されます。
シンプルな工程に見えますが、実際は紙質・厚み・湿度・巻き取り張力・巻始めの芯径など、複数の要素が絶妙なバランスで組み合わさっています。

巻きズレ発生のメカニズム

巻きのズレ、すなわち「ケーキの断面」のような楕円や台形、蛇行巻きは、主に巻き取り時の張力の不均一・芯径のバラツキ・原紙自体の伸縮などが原因となります。
これらを放置すれば、リール径が大きくなるほどズレが増幅され、「巻き芯から外れやすい」「箱詰め機で詰まりやすい」など生産後のトラブルを招きます。

ロール張力管理の重要性

張力コントロールの基本

トイレットペーパーの巻き取り時、適切な張力で原紙を巻くことがポイントとなります。
張力が弱すぎれば芯から弛んでしまい、巻きがゆるくなりズレやすい。
逆に張力が強すぎると紙が伸びたりシワになったりして品質が落ちます。
最適な張力は紙厚・紙幅・湿度・速度によっても変化しますので、製造現場では経験に基づき微調整を繰り返しています。

古い設備と最新設備の違い

昭和時代のアナログ巻き取り機では、オペレーターの熟練技術で張力を感覚的に調整していました。
しかし、ロール径の変化や原紙バラツキには対応しきれず、バッチ品質に大きな差が出ていました。
現代では、インバーター制御やロードセルなどの張力制御装置が普及し、常にセンサーでロール張力を監視し自動で調整します。
この進化が狙い通りの品質安定化に直結しています。

芯径制御とその課題

紙芯の寸法公差と巻始めの難しさ

トイレットペーパーで意外と見落とされがちなポイントが、紙芯の「芯径」制御です。
芯径に公差があると、巻始めの際に原紙の食いつき不良や、セット時のズレが発生しやすくなります。
これにより、以降の巻きズレに繋がるだけでなく、自動梱包ラインでも詰まりやすくなります。

芯径ばらつきをどう抑えるか

芯材の巻き芯は、別ラインで製造されることもあり、その径に0.5mm単位のバラツキが生じます。
現場で「最小径基準」に揃えるか、「平均径狙い」で妥協するか、しばしば議論となります。
SQLなどのデータ分析やサンプル測定→即時の制御値フィードバックなど、最新のIoTや工程管理デジタル化が進む中で、昔ながらの「現物確認」「現場の五感」との融合も求められる重要なポイントです。

最新の自動化・デジタル化動向と課題

IoT・AI制御による巻き取り最適化

近年、IoTセンサーや画像認識AIを用いた巻き取り品質の自動監視が進んでいます。
外観検査カメラで巻きズレ・芯ブレをリアルタイム判定し、異常を捕捉した瞬間にラインを一時停止、原因をフィードバックして制御値を自動補正する仕組みが実現しつつあります。
こうした最先端技術の導入によって、人的バラツキの排除や、安定した大量生産が可能になっています。

コスト・歩留まり・熟練技能のバランス

一方で、機械がいくら高性能でも、歩留まり悪化やコスト増加を招いては意味がありません。
また、完全自動化に振り切ることで「現場の目利き力」「技能伝承」が弱体化する懸念もあり、設備投資や人材育成をどう両立させるかが経営的な悩みどころです。

昭和の「現物、現場、現実主義」的アナログ思考も、工程異常に矛盾を感じた際のヒントや仮説立てにいまだに役立っています。
アナログ×デジタルのハイブリッドで、勘とデータを両立させる仕組みづくりが、現代工場の強さを生むカギになっています。

メーカー・バイヤー・サプライヤー、それぞれの視点で重要ポイント

ユーザーメリットの最適化

サプライチェーンの要であるバイヤーは、最終エンドユーザー（消費者）目線で「巻き心地」「使い切りやすさ」「外観品質」を評価し、品質要件としてサプライヤーにフィードバックする必要があります。
単純な低価格・大容量志向だけでなく、トイレットペーパーの「使いやすさ」「トラブルの少なさ」も競争力・ブランド力強化のために重要視されています。

生産現場との連携がカギ

サプライヤー側も、工程設計や品質管理で張力・芯径・巻き工程のバラツキ低減にどこまで投資するか、その費用対効果をバイヤーと率直に共有し合う必要があります。
現場の「これ以上はコスト的に厳しい」「こういう工程異常が起こりやすい」といったリアルな声を、バイヤーも理解したうえで、合理的な落としどころを模索することが、サプライヤーとの信頼関係・最適取引の基本となります。

また、バイヤー志望の方が「巻きズレや芯径公差」といった現場細部の課題に興味を持ち、自分の言葉で現場に質問できるようになれば、単なる商談担当者から「現場から信頼されるパートナー」へ飛躍できるでしょう。

昭和から令和へ―製造業の転換とラテラルシンキング

トイレットペーパーのような成熟製品でも、「巻き取り張力」や「芯径制御」の高度化によって、現場のムダやクレーム・トラブルが劇的に減少し、生産現場の働き方・やりがいも変わります。
業界標準が固定的で革新が起こりにくいアナログ業界ほど、「なぜこれが問題なのか」「逆転の発想で解決できないか」といったラテラルシンキングが成果を生む領域です。

最先端技術と現場熟練力、調達側のユーザー目線、製造現場のリアルな課題、この三者を縦横無尽に結び付けていくこと。
そして、工場を単なる「モノづくり現場」から「知見・気付き・成長の現場」へと進化させることこそ、製造業に携わる者の責務であり、やりがいの源泉だと思います。

まとめ―求められるのは「巻きの精度」と「現場主義」の両立

トイレットペーパーの巻きズレや芯径管理は、一見地味ながらも毎日必ず誰かが困る「ミクロの品質課題」です。
これを解決するには、最適設計・最新技術・現場技能の三位一体の取り組みが必須です。

バイヤー志望の方は、現場のこうしたリアルな「悩み」「知恵」を対話の中で掘り下げ、サプライヤー側の改善意欲を引き出す力を磨いてください。
サプライヤーや現場担当者は、「巻きがズレない」「芯が常に一定」という当たり前を支えるため、日々細部にこだわり、ひとつひとつトラブルを潰していることに誇りを持ってください。

そして、製造現場での知見や経験を、業界全体・社会全体の発展のために広く共有できる「つなぎ手」となっていくこと。
これが、アナログに強く根付く業界を新しい地平線へ導く最善の道だと、私は信じています。