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転がり軸受の基礎と選定・長寿命化およびトラブル対策

目次
はじめに:転がり軸受の重要性と現場での役割
製造業の現場において、転がり軸受は機械設備の稼働を支える基幹部品です。
航空機、工作機械、自動車、家電製品、さらには生産ラインの搬送コンベヤーまで、多くの回転運動を支え、効率的な生産活動を実現しています。
一方で、「転がり軸受は消耗品だから、トラブルは仕方ない」「指定品を使っておけば問題ない」といった考え方が、昭和の感覚のまま現場に根強く残っていませんか。
実際には、転がり軸受の選定や保守は生産効率・品質・コスト・安全性すべてに大きな影響を与えています。
本記事では転がり軸受の基礎から、最適な選定方法、長寿命化、そして現場で多発するトラブル事例と対策まで、現場目線の実践的なノウハウを解説します。
転がり軸受の構造と種類
転がり軸受の基本構造と機能
転がり軸受は、主に内輪・外輪・転動体(ボールやローラー)・保持器の4つの部品で構成されています。
内輪と外輪の間を転動体が転がることで、摩擦抵抗を大幅に低減し、軸の回転を滑らかにサポートします。
転がり軸受の最大の特徴は、すべり軸受に比べて「回転抵抗が極めて小さい」「グリース封入によるメンテナンスの軽減」「組付けと交換が容易」などの利点です。
主な種類と使い分けポイント
転がり軸受は、転動体の形状や荷重の受け方によっていくつもの種類に分かれます。
代表的なのは以下の通りです。
- 深溝玉軸受:最も普及しており、ラジアル荷重と一部アキシャル荷重を両立。モーター、搬送装置など汎用用途。
- アンギュラ玉軸受:角度つき接触により、アキシャル荷重に強い。ポンプ、工作機械の主軸等に。
- 円筒ころ軸受:ラジアル荷重が大きい用途。減速機や大型装置、重量物搬送に。
- 円すいころ軸受:ラジアル・アキシャル両荷重に対応。自動車車輪や工作機械の送り軸等に。
- 自動調心玉軸受/自動調心ころ軸受:取り付け誤差の吸収。重機械や農業機械など設置精度が厳しくない場所に。
選定にあたっては、負荷の方向・大きさ・回転速度・使用環境・潤滑方式・要求寿命など、複数条件のバランスを考慮することが重要です。
昭和から続く“指定品”の落とし穴:選定の見直しがもたらす現場改革
“昔からこれ”に潜むリスク
製造現場では「発注リストに書いてあるから」「先代の工場長が決めた型番だから」と、深く考えずに同じ軸受を使い続けているケースが多々あります。
しかし、昭和から続くこの習慣には、次のような課題が潜みがちです。
- 設備の運転条件が変わっても見直されず、実は過剰仕様・過少仕様のまま利用している
- 市場開放・新素材・潤滑技術進化によるコストダウンや高寿命化の機会を逃している
- 保全での在庫集約や後継品への切替タイミングを逸し、サプライチェーンリスクが高まっている
定期的な選定見直しや他社事例の導入検討が、現場改革の第一歩となります。
実践!現場目線の軸受選定フロー
以下のステップをおすすめします。
- 現場ヒアリング(設備運転パターン、故障履歴、保全負荷、潤滑トラブル有無)
- 主要仕様条件(荷重、速度、温度、潤滑方式・間隔、設置スペース、周囲環境)を整理
- 現状品のカタログ寿命・耐荷重の妥当性を評価
- 他軸受メーカー・新素材・潤滑仕様の最新ラインアップと比較
- トライルーン(1ライン、1台のみでの試行)や応力解析でリスクと効果を事前把握
- 効果確認後、標準仕様の見直し、拠点横展開
サプライヤーと連携しつつバイヤー視点を持つことも、持続的なコスト削減・安定供給に有効です。
バイヤーが考える「調達リスク」「TCO(総所有コスト)」の視点
バイヤーとしては、単なる直接購買コストだけでなく、以下の観点も重視しています。
- 複数社調達によるBCP(事業継続計画)の強化
- 輸送リードタイムの短縮および一貫供給体制
- 標準型番集約による在庫・発注管理コスト低減
- 設計仕様の共通化やグループ会社での横展開
サプライヤー側の皆さんも、品質・納期・端数対応などソフト面の提案で関係深化を強化すると、長期的なパートナーシップにつながります。
軸受長寿命化のカギ:設計・運用・保全の三位一体
正しい設計・取り付けのポイント
軸受寿命の8割以上は「取り付け方」や「周辺部品の設計」不備で縮まる――これは20年以上の現場経験からの実感です。
ポイントは以下の通りです。
- 軸とハウジングの寸法公差選定(国際規格JIS B 1514などを参照)
- 片当たりや歪みの発生を防ぐ座面加工精度
- 押し込み深さ、圧入位置、専用工具を使った取り付け
- 開放型・密閉型・シール型など環境(粉塵、湿気、水分)に合わせた選定
新設計だけでなく、「他部署が現地で取り付けている」「部品交換を短時間勝負でやっている」といった運用実態も加味してください。
潤滑・シール技術の進化と現場応用
メンテナンス負荷の軽減には、以下3つの新技術が有効です。
- 長寿命グリースやフッ素系オイルによる給脂間隔の延長
- 自動給脂器、給脂忘れ防止対策
- シールド・シール付き軸受の活用で異物混入を抑止
「とりあえず一年に一回軸受交換」から、「グリースアップ頻度の最適化」「グリース切れアラートの活用」「コンディションモニタリング(状態監視)」へと進化する余地があります。
現場発!軸受トラブルの具体例と即効対策
トラブルの”あるある”と対策例を、現場目線でまとめます。
- 打痕・ピッチング:ハンマー打ちや偏心組付けが主因。組付け治具と教育徹底を。
- 焼付き・ブルーイング(青変):過負荷や潤滑不足。給脂管理表&周期最適化ツールの導入を。
- 異物混入・腐食:屋外設置や水分多い現場で多発。密封型軸受+現場カバー改良で再発防止。
- 異音・振動:取り付け不良または寿命末期。定期振動診断や交換時期可視化で突発停止予防。
「発見者しかわからない小さな異音」を見逃さず、現場からの声を迅速に設計・保全スタッフへ伝え、PDCAをまわす文化が重要です。
これからの製造現場を支える軸受技術とバイヤーの新たな責任
スマートファクトリー化と軸受のIoT化
近年、IoTセンサーを内蔵した「スマート軸受」が登場しています。
稼働中の温度・加速度・回転数データがリアルタイムで取得可能になり、「兆候保全」に大きく貢献できます。
取り組みやすいのは「異常振動発生のアラートをLINEやメールで現場班長へ自動通知」「全ラインの軸受温度の傾向グラフ化による潤滑時期予測」など、現場で手応えが得やすいところからスタートすることです。
サプライヤー、バイヤー、現場が連携する新しい調達のかたち
調達購買担当は、単なるコスト比較にとどまらず「どんな現場課題を、どんな技術や仕組みで解決するか」を軸にパートナーシップを築くことが求められます。
サプライヤーにとっては、単調なカタログ紹介ではなく「御社のこのラインでは●●型よりさらに高負荷グレードを適用すべき」「IoTモデルをトライルーンしませんか」といった攻めの提案が、現場やバイヤーの信頼を獲得します。
また、現場側も故障・トラブル・ヒヤリハットを細かく調達部門へフィードバックすることで、最適調達・全体最適化を実現できるはずです。
まとめ:昭和から令和へ――軸受管理の新時代へ
転がり軸受は「ただの消耗部品」ではなく、現場の生産性・品質・安全・コストを根底から左右するキーパーツです。
昭和のままの“指定品使いっぱなし”を脱却し、現場ヒアリング→最新技術選定→サプライヤーとの協業→適正取り付け・保全→IoTスマート化まで、一歩一歩進めていきましょう。
製造現場で働く皆様、バイヤーを目指す皆様、サプライヤーの皆様が、互いの悩みや課題を“共通言語”にできた時、ものづくりは新たな地平線を切り拓くはずです。
軸受から始まる現場改善の取り組みが、貴社の競争力と現場力向上の支えになることを願っています。
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