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転がり軸受選定と損傷メカニズム対策による寿命延長

目次
転がり軸受とは何か?基礎知識のおさらい
転がり軸受は、製造業の現場において、モーターや各種機械の回転部分に欠かせない部品です。
その役割は、回転軸を支持し、回転をスムーズにすることで摩擦や損傷を低減し、機械の性能と寿命を大きく左右します。
転がり軸受はボールやローラーを使って軸と軸受けの間で転がることで摩擦を減らします。
日本の多くの工場、特に昭和の時代から続く製造現場では、長く同じ型式や銘柄の軸受が使われ続けています。
それは保守や輸送コストの観点、過去の現場ノウハウの継承という理由から根強く残っています。
しかしグローバル競争が激しい現代、ただ”従来通り”ではコストアップやトラブルの温床になりかねません。
軸受選定は、製品の信頼性やメンテナンス性、自動化ラインの安定稼働に直結します。
転がり軸受選定の重要性と最近の業界動向
現場視点での課題:なぜ選定で失敗するのか
軸受の選定では「とりあえずカタログ値に合わせる」「前任者の踏襲」「シリーズ指定だけ」のような慣習的な選定が、いまだ多く見られます。
現場では手配のしやすさや急ぎの対応で短絡的な型番指定をしてしまうことも珍しくありません。
しかし、負荷条件や取り付け環境、必要な精度や潤滑方式が少しでも変われば、それが大きな損傷やトラブルの火種になります。
最近では、ISOやIATF16949など国際的な品質要求への対応力も重要なポイントです。
グローバル調達が進展する中で、海外メーカー品の導入や代替も増えてきました。
軸受けの設計や材料、熱処理技術も日進月歩です。
単純な「型番指定」から「用途・環境・コスト・寿命・メンテナンス性」まで見据えた多角的視点の選定が、時代の要請と言えます。
失敗しない選定のための現場ポイント
軸受選定を最適化するためには、以下のポイントを必ず押さえましょう。
– 予想される負荷(ラジアル荷重・スラスト荷重)の精査
– 使用温度、雰囲気(粉塵・水・薬品・乾燥など)
– 回転速度と許容回転数
– 振動や衝撃の有無
– 潤滑方式とメンテナンス頻度
– 取付形状や近隣部品との干渉有無
– 必要寿命(LM値・希望メンテ周期)
ちなみに、現場の”クセ”や予期せぬオペレーションも寿命に大きく影響します。
保守担当やオペレーター、設計者でミーティングを開き、現物を見ながら全員で意見交換することが極めて重要です。
転がり軸受の損傷メカニズム~なぜ寿命が縮むのか
軸受損傷の主なパターン
転がり軸受の損傷には様々なパターンがありますが、以下が主なものです。
– 割れ・はく離(フレーキング, スポーリング)
– レースの損傷・白濁化
– ベアリングの焼付き
– 異物混入によるかじり
– 潤滑剤切れ・グリース漏れ
– 固着や磨耗
– コロジオン摩耗(真鍮ケージの場合)
各損傷には、その発生メカニズムがあります。
例えば、「フレーキング」の場合、荷重が想定以上だったり、取り付け不良や過大な衝撃、表面粗さ不良などが原因です。
「焼付き」は潤滑剤の量不足や、給油不良、高温雰囲気下での運転が主原因になります。
不良が発生しても、原因が正しく特定・対策されなければ、同じトラブルが繰り返し発生する”負のループ”に陥ります。
昭和から続く現場でも、「とりあえずグリースを多めに塗って様子を見る」といった応急処置が常態化していませんか?
損傷パターンの原因分析:ラテラルな視点が大切
現場でありがちな「○○が原因だったから△△をやめる」では根本対策になりません。
設備ごとに運転負荷や稼働環境、保守体制も違います。
たとえば生産ラインのサイクルタイム短縮で負荷が増した、ライン停止回数が増え急加減速が増えた、工場の換気システムが変わり塵埃環境になった、など”些細な現場変化”が寿命低下の引き金になるケースは多いです。
また、サプライヤー変更による材料特性の変化やケージ材質の違い、新人工場員のオペミス、手順書の誤解など「直接見えない人・物・環境の変化」も疑ってかかるべきです。
ラテラルシンキングで「横断的・多面的」な現場分析を必ず行いましょう。
寿命延長対策の実践ポイント
適正潤滑と清浄度管理の徹底
潤滑管理の徹底はベアリング寿命の根幹です。
適量適材の潤滑剤選定、定期給脂のPDCAサイクルの確立、そして異物の混入防止が肝要です。
現在は自動給脂装置(オートルブリケーション)の導入や、IoTセンサー付きで温度・振動・摩耗をモニタリングできる製品も普及しています。
また現場の作業標準や点検リストも、誰でも見ただけで分かる「目で見える化」を徹底し、教育もセットで実施することで現場力が向上します。
取付け精度と緩み対策
軸受の本来性能を引き出すには、シャフトとハウジングの寸法公差・仕上げ面粗さをメーカー推奨レベルで厳守することが前提です。
さらに、圧入方向や挿入方法(プレスとハンマーの使い分け)、シムや止め輪の精度管理も無視できません。
現場で多いのは「勘と経験」に頼って規定トルクでボルトを締め付けてしまい、徐々に緩みが発生、異音や振動に繋がることです。
トルクレンチの定期校正や、目視だけでなく振動計・サーモグラフィ等のツールも活用し、未然に無理な荷重や緩みを発見しましょう。
早期異常検知システムの導入
軸受損傷は、異音・温度上昇・振動異常といった兆候が必ず現れます。
人の五感に頼るのは限界があり、特に省人化や夜間の無人運転が増える中ではIoTによる状態監視(CBM=コンディション・ベースド・メンテナンス)は強い味方となります。
現在、異常自動警報を出す小型センサーデバイスや、工場ネットワークを活用したクラウド診断ソリューションも選択肢に入ります。
昭和的な「人頼り」からデジタルによる予知保全へのトランスフォーメーションは、今や生産性向上&コストダウンの必須事項です。
現場目線でのバイヤー視点、サプライヤー視点
バイヤーが押さえるべき交渉・選定ポイント
– グローバル標準(ISO/EUROほか)準拠
– 評価サンプルの長期耐久テストとデータ開示
– サプライヤーの品質保証体制(トレーサビリティ、PFMEAの有無)
– 供給安定性(災害、パンデミック時含む)
– コストダウン提案能力(VA/VEの積極性)
バイヤーは単なる価格交渉だけなく、現場トラブルへの改善協力やデジタル管理対応まで見極めたいものです。
一方で、サプライヤーは現場での使われ方やトラブル情報、保守性・改善のニーズを積極的にヒアリングし、「現場起点の価値共創」が重要です。
昭和的アナログ慣習から脱却するために
いまだに業界には「FAX手配」「顔パス」「長年の慣習指定」といったアナログ体質が残っています。
しかし、調達購買・サプライヤー管理の最適化(SRM)や、リスクマネジメント・QCDバランスの全体最適を求める時代です。
現場に密着しつつ新しい技術・データを柔軟に取り入れ、従来型→次世代型の業務運営へのシフトが強く求められます。
まとめ:転がり軸受の最適選定・寿命延長で現場力を高める
転がり軸受の選定は「ただカタログから選ぶ」だけでなく、「現場で現実にどう使われ、どんな問題が起きているのか?」に着目すべきです。
損傷原因も単一要素ではなく、現場の運用・環境・組織体制が相関しています。
点検・潤滑管理・設置精度の徹底とともに、IoTやAIツールを活用した予知保全への転換が寿命延長の鍵です。
バイヤーやサプライヤーは、「現場課題の見える化」と「対話による価値共創」を軸にQCD最大化のパートナーシップを築きましょう。
昭和的慣習から柔軟に脱却し、現場起点の改善活動を続けていくことこそが、日本の製造業の底力をさらに押し上げていくのです。
製造業に携わる皆さんが、一歩進んだ軸受管理・選定の実践で、「止まらない現場」そして「勝ち残るサプライチェーン」を共に作り上げていきましょう。
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