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木製時計の印刷で湿度変化による版ズレを防ぐための室内環境管理

目次
はじめに:木製時計印刷の現場で起きる“版ズレ”問題とは
木製時計の文字盤や装飾部分に印刷工程を施す際、私たちがしばしば頭を悩ませるのが「版ズレ」の問題です。
「昨日までは綺麗に印刷できていたのに、今日は微妙に位置がズレてしまっている――。」
こうした現象は意外と多くの現場で発生しています。
とくに昭和から続くアナログ主体の製造現場では、長年“経験と勘”で何となくやり過ごしてきた部分も少なくありません。
しかし、モノづくりのグローバル化、サプライヤー品質への要求レベルの高まりとともに、今や「版ズレ」ごときで納期遅延や再納品・コスト増が許される時代ではなくなりました。
この記事では、木製時計の印刷工程における「版ズレ」の主因となる「湿度変化」と、その根本解決策としての室内環境管理について、製造現場目線でわかりやすく解説します。
なぜ木製素材は“湿度”で寸法が変わるのか
木材を使った製品の大きな特徴として、「吸湿・放湿」による寸法変化があります。
木は生きている材料ともいわれ、空気中の湿度が上昇すれば水分を吸い込んで膨張し、逆に乾燥すれば水分を放出して収縮します。
これにより、寸法が微妙に伸び縮みするのです。
特に、日本のように夏場と冬場で湿度差が激しい気候、また工場ごとの室内環境のバラツキの中では、この寸法変化が顕著に現れます。
この「わずかな変化」が、印刷工程における「版ズレ」の最大要因です。
版ズレの本質的なメカニズムを知る
木製文字盤の印刷工程では、寸法変化によって発生する“ズレ”がしばしば問題になります。
たとえば、湿度60%の環境で木材を保管し、その後急激に湿度40%の室内で印刷を行えば、一見見えないレベルでも0.1mm程度の収縮が発生します。
これは、時計の目盛のような精密なパターンでは「致命的なズレ」となることがあります。
つまり、印刷現場で調整技術や作業精度をいくら上げようとも、湿度コントロールが不十分なら「正しい再現性」は保証できません。
なぜ“経験と勘”から脱却できないのか?
古くからの製造現場ほど、“職人の勘”や“現場経験”に頼って工程が回っているケースは少なくありません。
これは、「湿度」という一見目に見えないファクターが版ズレの根本原因であると体系的に認識されにくいからです。
昭和の時代であれば「あの時季はズレやすい」「乾燥してきたら版位置をちょっと調整しろ」といった“暗黙の知恵”で済んでいたかもしれません。
しかし、再発防止や標準化、他拠点での多品種少量生産など、現代の要求には対応できません。
現場の“あるある問題”と実例
たとえば、九州の本社工場で製作した木製時計の文字盤が、関東の提携工場に送られて仕上げ印刷を行ったところ、「全ての製品でわずかな版ズレが発生した」という事例。
調査を進めた結果、
– 九州工場出荷時:湿度70%
– 関東工場受入時:湿度60%
– 印刷時室温:20℃、湿度40%
という環境差が判明。
一度乾燥した状態の木が印刷直前で収縮し、想定外の“ズレ”の原因となったのです。
このように「輸送経路」や「一時保管」、「工程間の環境差」も、現場では見落とされがちなリスクポイントです。
湿度変化による版ズレ防止のための室内環境管理のポイント
では、どうすれば湿度変化からくる“ズレ”を防げるのでしょうか。
ここで現場目線での対応策を整理します。
一定湿度で木材を保管・ストックする
原材料・加工済みワークは、印刷直前まで「一定湿度」で管理することが非常に重要です。
工場内に加湿器・除湿機を設置し、RH(相対湿度)45〜55%を目安に保つと良いでしょう。
また、エアコンと連動するタイプの産業用加湿器を導入し、「年間を通じて安定した湿度」を目指すことが肝要です。
印刷工程も同じ湿度帯で統一する
最大のポイントは、印刷工程に投入する製品と作業室が「同じ温湿度環境」であることです。
ワークを現場に投入する「前日」から最低数時間、「印刷室」と同環境で製品を“慣らし”ておきます。
このプロセスを怠ると、直前まで保管室で安定していた製品でも、急な湿度変化でまた収縮・膨張を起こしてしまいます。
工程間移動・輸送も湿度コントロールを意識する
工程間でワークの移動や輸送が生じる場合、特に注意が必要です。
段ボール梱包だけでは外気の湿度変化を完全に遮断できません。
温湿度コントロールが可能な「恒温恒湿倉庫」や、積載コンテナ内部の除湿技術導入も有効です。
自動記録装置による“見える化”
現場の勘から脱却し、「標準化・再現性」を確立するには温湿度計を設置し、データロガーなどで自動記録として管理することが不可欠です。
異常値が現れたときにはいつでも工程を振り返り、PDCAを素早く回せます。
デジタル化やIoT技術の活用とアナログ現場の融合
近年、安価で高機能なIoTデバイスやセンサー技術が普及しつつあります。
これにより、中小・小規模工場でも「温湿度の常時モニタリング・記録」が手軽に実現できるようになりました。
IoT対応の温・湿度センサーなら、工場内の複数地点をリアルタイムで監視し、“異常時にのみアラートを出す”など、現場負担を最小限に抑えつつ高度な湿度コントロールが可能です。
また、クラウド連携が可能なら、離れた拠点間でも温湿度情報を共有でき、「どの工程、どのロットで何が起きているか」を全員が“見える化”できます。
バイヤー視点での品質管理・サプライヤーへの要求事項
木製部材に印刷を施すバイヤー側の立場でも、「湿度によるズレリスク」を明文化し、サプライヤーに管理基準(たとえば洗い出し/再現実験、室内温湿度環境の管理方法、logデータ記録提出等)を要求する動きがますます重要になっています。
この点を曖昧なままにしてしまうと、最終製品の精度不良によるクレームや再作業・返品リスクがサプライチェーン全体に波及する恐れがあります。
現場で今から始められる“対策の第一歩”
「いきなり最新IoT機器を導入するのはハードルが高い」と感じている現場も多いでしょう。
しかし、まずは“湿度計の各所設置”“印刷直前に湿度合わせ”など、ローコストかつ即効性のある改善を進めるだけでもリスク対策の第一歩です。
– 湿度40〜50%帯維持を意識した環境作り
– 各工程担当ごとの「環境管理責任者」を任命
– 毎日の温湿度記録をカレンダーに手書きで残す
など、小さな積み重ねが不良率低減・標準化につながります。
まとめ:昭和から令和へ「室内環境管理の標準化」で価値を上げる
木製時計の印刷工程で起きる“版ズレ”は、単なる印刷技術や作業ミスだけでなく、「材料が湿度変化で膨張・収縮する」ことから発生する本質的な現象です。
これをしっかりと認識し、「室内環境管理」を標準業務として根付かせることが、品質・納期・コスト全ての面で業界競争力につながります。
今やIoTツールや温湿度制御機器も身近な時代です。
“職人技と経験”の良さは残しつつ、デジタルや客観データと融合した「再現性ある現場力」を、製造業全体で磨いていきましょう。
工場長や現場リーダー、バイヤーそしてサプライヤーの皆様。
“見えない環境変化”を“見える化”し、製品価値を「環境管理力」でさらに高めていきましょう。
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