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ロータダイナミクス基礎と振動抑制対策で回転機を安定運用

目次
はじめに
ロータダイナミクスは、モーターやタービン、ポンプ、圧縮機などの回転機器の運転信頼性や耐久性を大きく左右する重要な工学分野です。
現場では「振動が大きい」「ベアリングがすぐ損耗する」といったトラブルがしばしば起こりますが、その多くはロータダイナミクスの知見が活かされていないことから発生しています。
また、デジタル化が進む一方で、振動現象の本質や、現場ならではの対応が強く求められる、アナログの経験則の世界も存在します。
この記事では、ロータダイナミクスの基礎と現場で実践されている振動抑制対策、安定運用のための現場的な工夫までを、20年以上にわたって製造業現場で働いてきた筆者の目線で解説します。
バイヤーや生産現場の方はもちろん、サプライヤーの皆様にも役立つ内容を目指します。
ロータダイナミクスとは何か
ロータダイナミクスとは、回転する軸(ロータ)およびその周辺構成(ベアリング、支持部、ケーシングなど)に働く動力学的な挙動・振動現象全般を扱う分野です。
「バランスが悪い」「軸が振れる」「ガタガタ音がする」といった不具合の根っこには、このロータと本来静止すべき部分の間で発生する動的相互作用が存在します。
ロータ構造と基本的な用語
ロータは主軸、円盤、クランク、ロータリーブレードなど、回転体そのものを指します。
支持部は主にベアリング、時にはジャーナルベアリングやマグネティックベアリングも含みます。
軸の振れは「ランアウト」と呼ばれ、振動の発生点や伝わり方を把握するキーワードとなります。
振動のメカニズム
回転体が正常に動作するためには、質量バランスや剛性、減衰機能が確保されていることが大前提です。
ロータにアンバランス(偏心質量)があると、回転時に遠心力として周期的な力が作用し、回転数が高くなるほど大きな振動源となります。
また、支持部(ベアリング等)のガタや硬さ不足、はめあい不良などの要素も振動を助長する原因になります。
製造業現場で起こりやすいロータダイナミクスの課題
現場では、新しい装置立ち上げ時だけでなく、長期運用している機械についても様々なトラブルが発生します。
昭和時代から続くアナログ装置では、図面通り、仕様通りでも「なんとなくうまくいかない」現象に直面することがあります。
バランス不良とその実態
多くの振動トラブルの主因は「バランス不良」にあります。
鋳造や加工時に発生する質量分布の偏り、現地作業での組立誤差、長期運用による摩耗や沈み込みなど、現場では様々なバランス悪化の原因が見られます。
また、古い現場では「職人の勘」でバランスウェイトを貼り直すといった“昭和的”対策も根強く残っています。
共振現象への対応難
ロータの回転数が、システムの固有振動数(クリティカルスピード)に近づくと、共振現象が発生し、振動が急激に増大します。
工場の現場では、まず「設計上はクリティカルからずらしてあるはず」と考えがちですが、設置状況(基礎、配管、隣接機器)によって大きく実態が変わる場合があります。
現地測定や試運転時のトラブルシュート力が、アナログ現場で特に重要になります。
アンバランス以外の要因:摩耗から油膜振動まで
長期間の運用によるベアリングの摩耗、潤滑油の劣化、一時的なプラント異常停止後の再起動時の配置ずれ……これらは昭和から続く現場あるあるです。
ベアリングのクリアランスがルーズになると、油膜振動(油の流体力による軸のぐるぐる運動=ホワール)など新たな問題が出てきます。
ベテラン現場担当者が「どうも音が変だ」と感じる違和感が、重大トラブル発生のシグナルとなるのです。
振動抑制対策:基本と現場工夫の両立
バランス取りの徹底
アンバランス対策には、工場組立段階でのロータバランス測定と調整が必須です。
精密機器では動的バランス、必要に応じて複数平面でのバランス(ツープレーンバランス)を行い、現場据付後も再度測定することが重要です。
昭和的な「なんとなく大丈夫」ではなく、データに基づくバランス管理こそが本当の安定運用への第一歩です。
剛性・減衰の確保と設計再考
設計段階で、なるべく高い剛性や適切な減衰(ダンピング)を持たせることが振動抑制の大原則となります。
ただ、現場や既設設備では後から変えることが難しい場合が多いものです。
その際は、ベアリング支持部の補強、基礎のボルト増し締め、配管の追加支持など、地味ですが確実な対策を積極的に行いたいところです。
駆動条件管理と運用ノウハウ
回転数制御型のポンプやコンプレッサーでは、「クリティカルスピード近辺の運転を避ける」というシンプルな運用も有効です。
現場では、運転員が回転上昇(ランアップ)時・停止(コーストダウン)時に、異常な振動ピークを観察する習慣をつけておくと、未然にトラブルを察知できます。
リアルタイム監視とデジタル化の活用
近年では、IoTセンサーによる軸受け部の加速度・速度・変位のリアルタイム監視も急速に普及しつつあります。
ただし「異常箇所の特定」や「現場の肌感覚」との連携が非常に重要です。
最新鋭のモニタリング技術と、昭和から伝わる五感・経験測の両方を活かすハイブリッド運用が安定運用のカギです。
バイヤーとサプライヤーが抑えるべきポイント
バイヤーの視点:安定運用に直結するスペックの把握
バイヤーは、単にカタログスペックだけでなく、「バランス調整のやりやすさ」「現場での再調整対応力」「振動データの取得サポート」など、現場運用視点も重視するべきです。
また、据付現場の状況や輸送負荷によるズレの可能性、スペアパーツの供給体制についても、事前にサプライヤーと協議・確認を行うことが重要です。
サプライヤーの視点:エンドユーザー現場との距離感の短縮
サプライヤー側は、単なる製品提供者にとどまらず、「現場据付・試運転への立ち合い」「異常振動時のトラブル対応技術」まで含めたパートナーシップを意識すべきです。
とくに古い設備をリニューアルする際は、現場の“昭和的暗黙知”や運転ノウハウをリスペクトしつつ、理論やデータを用いて説得力をもって接することが信頼構築の近道です。
ロータダイナミクス分野の最新動向
最近では、シミュレーション技術(有限要素法FEAやマルチボディダイナミクスMBD)による事前解析や、AIを用いた振動データの自動診断が広がっています。
特に日本国内の重工各社は、予兆保全(CBM:コンディションベースドメンテナンス)技術にも注力し、突発故障リスクを未然に抑える動きが活発化しています。
とはいえ、現場では極端な温湿度や粉塵、油環境など“想定外”の要因も日常茶飯事ですので、結局は「現場観察力とデジタルの融合」が求められる時代です。
まとめと今後の展望
ロータダイナミクスの知識は、単なる理論や設計論ではなく、工場現場でのトラブル未然防止、機械の長寿命化に直結します。
バイヤー、サプライヤー、生産現場の担当者が、昭和から続くアナログ業界の泥臭い知恵と、最新デジタル技術の両方をバランスよく身につけることが、今後の製造業発展のカギとなります。
最後に、製造業の進化には一人ひとりの現場力の底上げが不可欠です。
今後もこうした知見を共有し合い、現場の知恵を未来へと繋いでいきたいと思います。
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