投稿日:2025年9月2日

港選定ミスでの内陸費増大を防ぐルーティング(IPI/RIPI)設計

はじめに:なぜ港選定ミスが内陸費増大を招くのか

製造業においてSCM(サプライチェーンマネジメント)は命綱とも言えます。
特に昨今のグローバル化や多様化する顧客ニーズの中で、納期遵守やコスト最適化は現場の最重要課題です。
その中でも、コンテナ輸送において港の選び方は利益・競争力に多大な影響を及ぼします。

港を誤って選択してしまうと、当初想定していた物流ルートよりも不利になり、結果として「内陸費」と呼ばれる港から工場や倉庫までの陸路での輸送コストが増大することになります。
特に北米・欧州向けのIPI(Interior Point Intermodal)/RIPI(Reverse Interior Point Intermodal)輸送は、港選定とルーティング設計が極めて重要です。

今回は、20年以上にわたり現場で調達・生産管理・バイヤー交渉・工場運営に関わった視点から、港選定ミスによる内陸運賃増加を防ぐ実践的なルーティング設計方法を解説します。

港選定が製造業の收益に与えるインパクト

内陸費の構成とコスト圧縮の必要性

内陸費(内陸運送費)は、港から納入先までの「港 – 工場/倉庫」区間で発生するトラック輸送・鉄道輸送・保管・仕分けなどの諸経費です。
大手メーカーでは数千TEU規模の年間輸送を行うことも多く、港の選定一つで数百万円~数千万円のコスト差が生まれることも珍しくありません。

港選定を誤ると、最適なルートから著しく外れた長距離トラック輸送や複雑な鉄道移送が必要となり、納期遅延やドレージ費(港からのトラック基本運賃)増加リスクがあります。
加えて、多くの荷主・メーカーはFOB(本船渡し)やCFR(運賃込み本船渡し)といった貿易条件を採用しているため、サプライヤーとバイヤーの間で運賃負担区分が交錯し、港選定の重要性はさらに高まります。

ある現場での失敗事例:新興国サプライヤーの盲点

例えば、ある日本の大手メーカーは北米向け製品調達でコストダウンを優先するあまり、最も運賃が安い西海岸の大都市港(例:ロサンゼルス港)経由でコンテナを動かしました。
ところが、納入先はシカゴ近郊の内陸都市。
結果として港からシカゴまでの陸送費と時間、コンテナ戻し費用が爆発的に膨れあがりました。

現場の購買部門は「港選定=海上運賃が安ければ良い」という思い込みがあり、総合的な物流費用の再計算や現地物流業者のヒアリングを怠っていました。
この「目先コスト」に囚われない広い視野と、現場ルーティングの実践知識が今、強く求められています。

IPI/RIPI ルーティングの設計とは何か

IPI(Interior Point Intermodal)輸送の基礎

IPIとは、北米をはじめとした広大な大陸でよく使われる輸送方式の一つです。
“内陸点複合一貫輸送”とも訳され、港でコンテナを揚げた後、鉄道やトラックを使って内陸都市までダイレクトにコンテナを運びます。

港から遠隔の工場・倉庫への納品や、バイヤー指定の納入拠点への複雑なサプライチェーン構築に不可欠な仕組みであり、海上・陸上運賃の分岐点をどこに置くかがコスト抑制の肝です。

RIPI(Reverse Interior Point Intermodal)とは

RIPIはIPIの逆パターンです。
たとえば北米内陸から港への輸出用途で、内陸発のコンテナを指定港まで鉄道やトラックで運び、そこから本船輸送する方式です。
どちらも、港単位ではなく“内陸地名指定”でB/L(船荷証券)を切ることができ、AIやTMS(輸送管理システム)との連携で最適ルート設計が進んでいます。

港選定&IPI/RIPI設計の失敗パターンとリスク

1. 海上運賃だけで安易に港を決めてしまう

多くのサプライヤーや調達担当者は、シッピングラインの見積りで最安の港を優先しがちです。
しかし、海上運賃が安くても、港から納入先までの内陸費用・混載コスト・通関リードタイムを加味しないと全体の最適化ができません。

2. 港湾インフラや混雑状況を軽視する

年々港湾設備への投資格差が広がるなか、特定の港にコンテナ集中が進み、湾岸ストや混雑による力車待機(ゲートアウト)時間の長期化も深刻です。
「港が空いているか?」「鉄道・トラックのキャパは十分か?」という現場インサイト抜きでの港選定は出荷も納品も遅延を生みます。

3. IPI/RIPIを理解していないバイヤーの交渉ミス

サプライヤー目線でバイヤー(製品需要家)が「港受け渡し」とだけ指定し、実はB/Lも“Place of Delivery”を曖昧にしたままだと、途中で責任・費用負担がねじれることが多いです。
現場の混乱は納品トラブル・信用失墜・追加費用請求の原因になります。

現場で実践すべきルーティング設計プロセス

Step1:納入先ポートフォリオと陸路地図の把握

まずは納入先(自社工場・顧客拠点)の正確な住所と地図を用意し、最寄り港・主なハブ港含む複数港のルート・距離・所要時間を可視化します。
サプライヤーと設計部・営業・物流部門の3者で、Google MAPや地元運送会社の知見を使いながら、現実的なシナリオを全て抽出します。

Step2:IPI対応港と鉄道コンテナ輸送網の確認

次に一覧化した港が、本当にその内陸都市までIPI輸送に対応しているかを調査します。
北米ならUP鉄道・BNSF鉄道、中国国内ならCR Intermodal、日本ならJR貨物など、主要インターコンテナ輸送網の運行ルート・所要日数・運賃を照会しましょう。

Step3:全体リードタイム・通関・費用計算の実施

単体コストだけでなく、「港での通関待ち+空コン返却+運送手配+納品先でのアンローディング」までを含めた全体リードタイム・総費用をシミュレーションします。
AIS(自動船舶識別装置)データや港湾のリアルタイム混雑情報を使い、複数ルートで比較表を作るのが現場プロのやり方です。

Step4:サプライヤー/バイヤー契約条件と分岐点の明確化

取引条件で「国内港渡し」「内陸着渡し」のどちらにするか、各種B/Lの“Place of Delivery(引渡地)”“Place of Receipt(受取地)”を契約書に正しく記載します。
ここが曖昧だと、現場対応費用の押し付け合いや納期遅延の温床となります。

Step5:モニタリングと港変更の機動性確保

実際に運用が始まった後も、港混雑情報・現地物流事情・港湾スト情報を定期モニタリングし「柔軟に港や陸送手段を切り替えられる体制」を現場と合意しておきましょう。

すぐに使える現場ノウハウとバイヤー視点

工場長・バイヤーは「現場の足」で実地を観察せよ

本社・管理部門のデータや見積もりだけでなく、必ず実際に現場を歩き、現地の物流代理店や通関業者から“リアルなボトルネック”を聞き出すのが重要です。
昭和時代からの“現場主義”の伝統は、アナログが残る製造業ならではの強みとなります。

サプライヤー視点:バイヤーがルーティングで重視していること

バイヤーは単なる購入価格だけでなく、「一貫輸送の安定性/遅延リスク低減/現地ルールの変化」も重視しています。
提案時は「この港→IPI→この工場まで、この日数で到着」「通関は現地拠点○○でハンドリング可能」など、全体最適視点でアドバイスできれば、サプライヤーとして信頼されます。

自動化・DXツールの活用(AIルーティング・TMS導入)

近年は物流AIや輸送管理システムで自動ルート最適化の精度が格段に向上しています。
港・通関状況・配車・在庫・内陸費の全体見える化とリアルタイム最適化をぜひ現場導入してください。

まとめ:港選定ミスを根絶し、現場主導のSCM改革を

港選定ミスによる内陸費増大は、製造業にとって利益圧迫の重大な要因です。
現場のプロアクティブなルーティング設計・港選定は、サプライヤー/バイヤー双方にとって極めて重要な競争力の源泉です。

特に昭和から続く「なんとなく慣例港」のままでは、グローバル競争には勝てません。
現場目線でIPI対応港、鉄道・トラック網の正確な調査、AIツールの導入、契約条件の明確化を徹底し、リードタイムと総コストの最適化を目指しましょう。

アナログな業界風土を一歩前進させる実践改革こそが、日本のものづくりを次の時代へ導くカギになると信じています。

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