投稿日:2025年10月15日

靴底のグリップ性能を高めるゴム配合と加硫温度の調整

はじめに

靴底のグリップ性能は、ただの安全や快適さを超え、製品の価値そのものに直結する重要な要素です。
製造業の現場では、作業員一人ひとりの作業環境を守るためにも、靴底のグリップ性能向上が日々求められています。
その技術の根幹をなすのが、ゴムの配合設計と加硫温度・時間の緻密なコントロールです。
本記事では、現場感覚に根ざした実践的な視点で、「グリップ力」の本質とその向上のための技術的ポイント、そして昭和的アナログ手法から最新動向まで踏み込み、解説します。

ゴム底の「グリップ力」とは何か?

滑りにくさを数値で語る難しさ

「グリップ力」と一口に言っても、その評価は簡単ではありません。
JIS規格や社内基準で滑り抵抗係数(CoF)などの数値化はされているものの、実際の現場では床材や環境(油分、水分、粉塵)でかなり変わります。
技術者や設計担当だけでなく、現場作業員の声も反映した評価が欠かせません。

主なグリップメカニズム

靴底が地面を「噛む」力は、大きく2つの要素で決まります。
一つはゴム自身が持つ「粘着力」、もう一つはデザインによる「噛み合わせ(機械的ロック)」です。
本稿では、前者=ゴムの配合と加硫による材料科学の側面にフォーカスします。

グリップ性能とゴム材料の関係

ゴム配合の基本

靴底に用いられる主なゴム種は、天然ゴム(NR)、合成ゴム(SBR、BR、NBRなど)、最近ではサーモプラスチックエラストマー(TPE)も一部使われます。
各素材の特徴を活かし、「粘着性」「耐摩耗性」「硬度」「耐油性」など、用途や求められる性能ごとに配合設計を行います。

グリップ力を高める配合ノウハウ

粘着性を高めるには、ソフトな「低硬度」配合が有効です。
しかし軟らかすぎると変形や摩耗が早くなるため、ナフテン油やパラフィン油といった可塑剤の添加量を慎重に調整します。
カーボンブラック(補強材)の種類や粒径でも、ゴムの分子ネットワークの緻密さや表面摩擦特性が大きく変化します。
例えば、SN#330やISAFクラスのカーボンブラックを選択する?耐摩耗性は高いがグリップは低下する。
一方で、粒径の細かいカーボンはグリップ性能を引き出せることが多いものの、コスト面や配合難度が上がります。

現場で使われる添加剤のリアル

界面活性剤の微量添加やシリカ配合も、実は大きな効果を生みます。
現場感覚では「この配合は冬場の床が濡れる工場に強い」「あの配合は高温工程の耐久性が弱い」など、レシピと作業現場の条件を熟知した技術者ならではのノウハウがあります。
一方で、成分開示やグリーンケミカル志向も進み、「人体への安全性」を理由に配合変更要請が増えているのも現代ならではの潮流です。

加硫温度が与えるグリップ性能への影響

加硫とは何か?

加硫とは、ゴムに硫黄を加えて化学的な「架橋」を作り、弾力や耐熱性を持たせる工程です。
靴底では、「グリップ感」を残しつつ耐久性も担保しなければなりません。

温度と時間―バランスが命

一般に、加硫温度を上げると反応が速く進みますが、分子の動きが激しくなり過ぎ、細かい物性コントロールが難しくなります。
逆に、低温・長時間の加硫は「柔らか過ぎる」グリップ力アップ配合には有利ですが、スループット(生産性)が落ちますし、天候・湿度によるロット差も生まれます。

現場での失敗例として、「コスト削減」のために加硫時間を短縮した結果、ゴム網目が粗くなり、摩耗や破損が急増。
逆に、「グリップ重視」として低温・長時間の配合を安易に採用し、成形不良や歩留り低下に悩まされる—といったケースがあります。
このジレンマこそ、現場技術者が「昭和の時代」から格闘してきた課題です。

デジタル×経験知—技術シフトの現状

AIやIoTが進展しても、「このラインでは20分未満だとグリップ感が甘い」「この原料ロットは気温次第で加硫温度にバラつきが出る」といった暗黙知は、いまだ現場から消えていません。
しかしながら、温度センサーの設置・データ当て込みによる「リアルタイムパラメータ最適化」は、失敗防止と品質保証の両立を目指すDXソリューションとして現場に浸透しつつあります。

設計・調達・生産現場での連携の重要性

バイヤーに求められる視点

単に「安価な靴底用ゴム」「JISのグリップ基準クリア」というだけで仕入れを決めてしまうのは、現場力を損ないます。
購買担当者は、工程ごとの歩留りや生産性、真の現場要求(油、粉塵、水、温湿度など)、さらには作業者の声に耳を傾ける必要があります。
「机上のスペック」と「現場パフォーマンス」の乖離を埋める目利き力が、これからは問われる時代です。

サプライヤー側が知っておくべきバイヤーの本音

現場で品質トラブルが起これば調達品の見直し(=コストダウン圧力)が現れる傾向は今も変わりません。
とはいえ、製造業の「安全」「安定」には高グリップ、高耐久といった技術力が不可欠です。
サプライヤーは、バイヤーと現場を巻き込んだ課題解決型提案(例:現場トライアル、データ持参、現場密着型技術サービス)が新常識になりつつあります。
ここが、価格だけでは生き残れない時代へのシフトだと言えます。

昭和から抜け出せない現場の本音と今後の展望

アナログ至上主義の終焉?

今でも「先輩が決めたレシピが一番」といった昭和型暗黙知偏重の現場が多いのが、製造業の現実です。
確かに、経験こそ最大の財産です。
しかし、レシピ・検査データ・トラブル情報をデータベース化し、PDCAサイクルを高速回転させることが、次世代競争力につながるのは間違いありません。

新技術・新材料と現場リアルの接点

従来の加硫ゴムから、ノン加硫TPE、バイオマスゴム、セルロース複合材へのシフトも、徐々に始まっています。
AI画像解析による歩行解析や、高精度摩擦試験データも、現場にフィードバックされる時代になりました。
「現場の汗」と「データ」「材料科学」のハイブリッドが、これからの製造業現場の生き筋です。

まとめ

靴底のグリップ性能を高めるには、ゴムの配合設計、加硫温度・時間の最適化、そして現場本位の使い勝手まで、幅広い観点からの技術力と現場知が求められます。
今後、昭和的アナログ精神とデジタル化、現場の声と理論値、この両輪を磨いていくことが、製造業の競争力維持・向上の鍵になるでしょう。
調達購買担当・生産現場・サプライヤーといった立場を越え、共創する視点を持つことが、製造業の新しい地平線を切り拓く道です。

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