投稿日:2025年11月8日

靴のソール摩耗を防ぐラバー素材の硬度設計と試験法

はじめに

靴のソールは、日々の歩行や活動の中で常に地面と接触し、摩耗しやすい部位です。
この部分の摩耗寿命をいかに長くするかは、シューズメーカーや素材サプライヤーにとって重要な課題となっています。
特にラバー素材のソールは、耐摩耗性の高さからビジネスシューズ・作業靴・スポーツシューズなど幅広い用途で採用されており、その素材設計の優劣が最終的な製品の品質や評価を左右します。
本記事では、製造現場で実際に活用されているラバーソールの硬度設計および摩耗試験法について、現場目線で実践的に解説します。
さらに、昭和から続くアナログな現場でも変化の波が拡がりつつある最新業界動向についても触れていきます。

なぜソールの摩耗を防ぐことが重要なのか

機能性維持と寿命延長

靴のソールが摩耗してしまうと、グリップ力やクッション性といった本来の機能が著しく損なわれます。
特に安全靴やスポーツシューズなどは、機能低下がそのまま事故や怪我につながるリスクもはらんでいます。
したがって、摩耗をできる限り抑え、所定の寿命までしっかり性能を維持することが非常に重要です。

消費者満足度とリピート率への影響

ソールの減りが早いと、「すぐに履けなくなる」「コストパフォーマンスが悪い」といった消費者からの不満が高まり、ブランドイメージやリピート率の低下につながります。
耐摩耗性の高い製品を作ることは、長期的な信頼獲得に直結します。

ラバー素材の硬度設計がもたらす摩耗耐性

硬度設計とは何か

ラバー素材の「硬度」とは、外部からの力に対して変形しにくい性質、すなわち「かたさ」を定量的に示す指標です。
ソール用ラバーには、主にデュロメーターShore A(ショアA)硬度計が使われ、一般的には60~80程度の範囲で設計されます。
硬度が高いほど摩耗に強くなりますが、反面で弾性や屈曲性が落ちて履き心地が悪化します。

摩耗性と硬度のトレードオフ

例えば、ショアAで85以上の硬質ラバーを使うと耐摩耗性は飛躍的に向上しますが、屈曲性が犠牲になり、特に作業靴ではすぐクラック(割れ・亀裂)が発生しやすくなります。
一方、硬度60未満では非常に柔らかく足にフィットしますが、摩耗が早く進みます。
メーカーは用途やユーザー層ごとに最適な「摩耗~柔軟性バランス」を探る必要があります。
ここが現場設計者の腕の見せ所です。

各業界における硬度設計の傾向と動向

ビジネスシューズ

長時間の立ち仕事や歩行を想定し、ショアA硬度65~75程度。
若干の柔らかさを残しつつ、十分な耐摩耗性と滑り止めを確保します。

作業靴・安全靴

現場で油や突起物が多いため、ショアA硬度75~85。
耐摩耗と耐油性、グリップ力、多機能性を同時に求められます。

スポーツシューズ

着地時の衝撃吸収性や屈曲性を重視し、硬度55~70とやや柔軟寄り。
摩耗対策には専用のカーボンブラックや補強剤を積極活用します。

最前線の摩耗試験法

現場で主流の「DIN摩耗試験」

ラバーソールの摩耗性能は、単に履いてテストするだけでは不十分です。
現場で最も信頼されている指標が「DIN摩耗試験」です。
これは規定寸法の試験片を回転ドラムに押し当て、発生した摩耗量(断面体積g/mm³)や摩耗幅を数値化します。
国際規格DIN 53516(現在はISO 4649)に準拠しており、自動車タイヤ用ラバーにも使われている信頼のある方法です。

社内独自の歩行シミュレート試験

近年は実際の履き心地に近い形で、ロボットによる疑似歩行や、JIS規格に基づく屈曲摩耗試験も各メーカーで導入が進んでいます。
これにより、「現場でどのくらい減るか?」に近い定量データ取得が加速しています。

表面観察と機械学習の融合

最新の動きとしては、摩耗後のソール表層を電子顕微鏡(SEM)で観察し、摩耗メカニズムを解析。
さらに表面画像データと摩耗量の関係をAIで解析し、次世代配合設計に生かす企業も出てきました。

アナログ現場とデジタル革新の現在地

古き良き現場の直感と経験則

昭和時代から続く製造現場では、「この配合なら減りが早い」「この色合いなら強い」など職人の経験に基づく“勘とコツ”が今なお重要視されています。
特に汎用配合では、試作と現場評価を多数重ね、ユーザー現場の声を吸い上げて調整する“現場主導型ものづくり”が多く見られます。

デジタル計測とデータベース設計

近年はIoT機器やデジタル硬度計を使って全数計測やデータベース連携を進めている企業も増加。
摩耗試験から配合管理、現場フィードバックまで一貫してデータ管理することで、品質の安定化とトレーサビリティ担保を両立しています。

サプライヤー・バイヤー視点で押さえたいポイント

サプライヤーの現場目線

耐摩耗ラバー材料はコストアップ要因になりやすいですが、バイヤーにとっては「失敗しない調達」「現場でのクレーム防止」という視点が非常に重要です。
ラバー素材の摩耗試験成績書とともに、実際のユーザー現場からのフィードバックを示すことで信頼度を大きく高めることができます。

バイヤーが求める要件

バイヤーは、単なる「コスト」ではなく
・耐摩耗性能(試験成績書や現場データ)
・必要性能とコストのバランス
・大量生産時の安定性と納期対応力
・将来的なバージョンアップ(環境規制や新用途への適応)
を重視しています。
商談時には“現場での差別化”に直結する独自試験データや実績事例をしっかり説明することが重要です。

今後の展望:摩耗に強い次世代ラバーとAI活用

配合設計の高度化

これまでは「カーボンブラックを増減する」「硬化剤や充填剤を調整する」といった従来手法が主流でした。
しかし現在、ナノ粒子や新規有機補強材料を使った配合が急速に広がりつつあります。
これにAIによる最適化設計を加えることで、「高耐摩耗・高柔軟・低コスト」という三拍子そろったソール設計の道が開けています。

現場人材の役割シフト

モノづくり現場は今後、「ただ作る人」から「AIや試験データを読み解き、ユーザー現場へ最適解を提案するプロ」へと進化しています。
AI・ビッグデータ活用は進化していますが、実際の現場フィードバックや先手を打った材料開発は、依然として現場目線の“ひらめき”に大きく依存します。

まとめ

靴のソール摩耗を防ぐ素材設計と試験法は、製品寿命やブランド信頼性を支える“縁の下の力持ち”です。
現場で培われたノウハウと、AIやデジタル計測といった最先端技術の融合により、摩耗に強く履き心地のよい次世代ソールの開発が進んでいます。
バイヤー・サプライヤー双方が、「現場課題」と「技術進化」の間で新たな付加価値を見つけ出す時代です。
経験・データ・人の知恵を掛け合わせ、アナログの良さとデジタル革新が共存する現場目線のものづくりに、今こそチャレンジしていきましょう。

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