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図面の曖昧指示をなくして追加工コストを防ぐ記載ルール

目次
はじめに:図面の曖昧な指示が引き起こす問題
製造業では、図面が製品品質とコストを大きく左右します。
しかし、図面出図の現場では「なんとなく通じるだろう」「ベテランなら分かるはず」といった曖昧な指示や、責任範囲が不明確な記載が今もなお存在しています。
この曖昧さが、仕様の不統一化・現場間のトラブル・納期遅延・余計な追加工といった多くのコストや品質リスクを生み出しているのが実情です。
特に、バイヤーやサプライヤーが図面を受け取っても、「ここは自社で判断して良いのか」「追加費用は誰が負担するのか」といった不安や疑念を持ったまま無理を重ね、結果として歩留り悪化や過剰見積が積みあがっていきます。
この記事では、長年現場で培った視点から、「図面の曖昧さ」が起こる背景や問題点を整理し、具体的な記載ルール改善策まで解説します。
なぜ曖昧な図面指示が起こるのか
現場に根付く“暗黙知”文化
製造業とりわけ昭和時代から続く工場の現場では、「昔からの慣習」「一部のベテランだけが分かる記号や符丁」が未だに図面にも反映されている場面が多々あります。
たとえば、「仕上げの具合は現場調整」「バリは見た目でOK」「穴の端面Rは都度現物に合わせる」などというかたちで、言葉に明記せずとも分かるだろうという“属人化”した判断に頼る風潮が根強いです。
このノウハウの名残が、図面の曖昧表現として頻発し、設計者と製造現場、さらに委託先サプライヤーとの間で大きなギャップを生んでしまいます。
設計工数・スピードのプレッシャー
設計部門は短納期と多品種小ロット化の波により、詳細な仕様詰めや作り込みに十分な時間をかけられないケースも増えています。
その結果、「詳細は現場で…」という形で、一部曖昧表現や“お任せ”指示を盛り込みがちです。
しかし、これは自社工場だけでなくサプライヤー管理の点からも、無用な追加工やコストアップ、最悪の場合納期遅延の火種となっていきます。
サプライチェーン拡大とコミュニケーションの希薄化
サプライヤー選定がグローバル化・多拠点化する中で、相互の“阿吽の呼吸”や口頭伝達に頼るやり方は非常に危険です。
図面のやり取りがメールやデータで完結する現在、曖昧な指示は必ず誤解や揉め事に発展します。
だからこそ、業界全体であらためて“書き言葉”でルールを標準化し、図面をバイヤー・サプライヤー双方の共通言語とする努力が不可欠です。
具体例に学ぶ“よくある曖昧指示”とそのリスク
典型的な曖昧指示の例
– 「バリ取りよし」
– 「見た目重視」
– 「角部は手仕上げでOK」
– 「キズNG」
– 「ネジは市販品で」
– 「要所要所確認のこと」
一見丁寧に聞こえる指示ですが、
– 「どの程度バリを許容するのか」
– 「見た目=仕上げ粗さの明確な規格は?」
– 「キズ幅・深さの合格基準は?」
– 「市販品とは国内標準か、グローバル基準か」
– 「要所要所=どの工程・どの部位か」
など、現場ごと・作り手ごとに解釈が分かれる危険性が大いにあります。
もたらされるコスト増と品質低下
曖昧な指示がもたらすリスクを整理すると、以下のような悪循環が想定されます。
1. 受け手(製造現場やサプライヤー)が“自主的に”自主検査や保険をかけ、コストが膨らむ
2. バリの大きさやキズの許容範囲などで判定がぶれ、歩留り低下や不良混入が頻発
3. 海外サプライヤーや新規協力会社では毎回質問・再確認が発生し、納期や生産性を圧迫
4. 設計ルールや仕様の標準化が進まず、過去トラブルの再発防止策も打てない
このように、設計側の「書く手間」と現場側の「疑念」「やり直し工数」は常にトレードオフの関係になっています。
曖昧指示をなくすための記載ルールの作り方
すべての指示を“数値化”し“理由”をセットで書く
重要なのは、「何のために(Why)」「どれだけ(How much)」という2点を客観的な数値や規格で明示することです。
例)
・バリ処理:「0.1mm以上のバリ不可。ミクロン単位は研磨指定。理由:組立時干渉防止、手切りリスク回避」
・キズ:「母材損失0.05mm以下(サンプルNo.Xに準拠)。理由:外観グレードA維持のため」
・角処理:「R0.5またはC0.3。積層部は必ずR。理由:安全配慮と応力集中防止」
このように、工程や作業者によらず“一発で意図が伝わる記述”を徹底すべきです。
根拠となる企業内規格・JIS・国際規格を引き合いに出す
自社規格だけでなくJIS規格、ISO規格、業界標準などの参照記述(「XXに準拠」等)をつけ加えると、サプライヤーにとっても解釈が一本化され、納品品質の基準が揺るぎません。
この“規格で担保する”文化は、デジタル化が進む現代ほど一層重要度が増しています。
サプライヤーとの“突き合わせレビュー”文化の再構築
図面を一方的に送りつけるのでなく、初回はかならず
– 相手(外注先側)で一度“読み合わせ”する
– 「この表現で疑問点ないか?」とフィードバックをもらう
このレビューサイクルが、記載ルールの抜け漏れや誤解を炙り出し、現場に根差したPDCAの起点になります。
とくに新規調達先とは、この“すり合わせ”過程を必ず経たうえで図面発行する運用ルールがベストです。
すぐに実践できる図面記載チェックリスト
1. あいまいな用語は数値化・規格化し、理由を明記したか
2. 部材・表面処理・公差・仕上げ処理にすべて明細表を付記したか
3. サプライヤーの現場レベルで意図が読み取れる表現となっているか
4. JIS等の標準記号・記載法が守られているか
5. デジタル図面であっても、“現場合わせ”を前提とした表現は排除したか
上記をチェックシートで運用するだけで、曖昧な図面起因でのトラブルリスクは大きく低減可能です。
アナログ現場からデジタル現場への「記載ルール」の進化
AI設計支援や3D CAD、PLMなどで設計・調達現場のデジタル化が爆発的に進むなか、アナログ時代の“感覚値”や“ローカルルール”は通用しにくくなっています。
将来的には、図面記載内容がデジタルデータとして「自動判定」「自動見積」と直結する時代がすぐそこです。
今こそ、社内でも“誰が書いても・誰が読んでも”ぶれない記載ルールを磨きましょう。
現場・調達・サプライヤーが一体で進めるルール作り
自社の標準図面記載ルールを設計部門だけに留めず、実際に現場作業する製造部・調達部門・品管部門・さらには主要サプライヤーまで巻き込んで、全体最適へ磨き上げる取り組みが今後必須になります。
たとえば、「年間でもっともトラブルが多かった図面五選を洗い出し、ルールに反映」「サプライヤー別に改善提案会議を定例化」など、継続的なPDCAが求められます。
まとめ:製造業の未来に必要な“新しい図面文化”
図面の曖昧な指示が及ぼすコストとリスクは、想像以上に現場と経営を苦しめています。
裏を返せば、「正しい記載ルールの構築」によって、サプライヤーやバイヤー、現場の全員が“無駄なコスト”や“誤解による品質トラブル”から解放され、真のモノづくりへと一歩進むことができます。
昭和型の“暗黙の了解”にいつまでも頼るのではなく、誰もが“読めば通じる・作れば同品質”な図面文化へ。
図面を“現場・調達・サプライヤー”の共通言語に進化させることが、これからの日本の製造業を持続的成長へと導く大きなカギです。
明日から「曖昧な図面指示ゼロ」への一歩を、ぜひ現場から実践し、業界全体を一緒に変えていきましょう。
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