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営業優先の評価制度が調達品質を下げる現実

目次
営業優先の評価制度が調達品質を下げる現実
製造業に根強く残る「売上最優先」評価制度の現状
製造業の現場では、営業部門が業績評価の王座に君臨している企業が非常に多いです。
特に昭和世代の価値観が色濃く残るアナログ志向の企業では「売上至上主義」が根深く、会社の成長イコール売上増と信じて疑いません。
目立つのは「どれだけたくさん売れたか」にしか目を向けない評価軸です。
ですが、ものづくりの現場から見るとこの「売上重視」がボディブローのように調達機能、ひいては品質全体にも悪影響を及ぼしています。
私は現場で20年以上、原材料の調達、外注管理、サプライヤーの品質指導などに携わってきました。
多くの現場で「どこよりも安い原価」「とにかく急げ」という営業視点によるプレッシャーが、現実のものづくりや品質確保といかにズレているかを痛感してきました。
こうした「営業優先」の評価制度がどうして調達品質の低下を引き起こすのか。
その仕組みと実際に現場で起きているリアル、さらには新たな地平線として調達品質を起点にした経営価値の見直しまで掘り下げていきたいと思います。
なぜ「営業優先」評価が調達品質に悪影響を及ぼすのか?
営業部門が「売ること」「取ってくること」ばかり注目されると、調達部門やサプライヤーへの指示や期待も自ずと「コスト」「納期」偏重になります。
営業評価が、「低価格でどれだけ早く納品できるか」に大きくシフトしているからです。
こうした構造には以下の3つの根本的な問題があります。
1. 安かろう悪かろうの調達が蔓延
現場の調達担当者にコスト削減目標だけが強く押し付けられると、「多少質が悪くても、安くて早い材料・部品を選ぼう」というインセンティブが働きやすくなります。
定量目標ばかりが目立ち、「この品質なら、安全安心な製品づくりに耐えうるか?」といったプロフェッショナルな目利きが損なわれてしまいます。
サプライヤー選定でも、品質を13番目の指標くらいにしか見ていないことが暗黙の圧力となり、数字上の調達実績を追うばかりで、不良品発生や後工程の手戻りを誘発しがちです。
2. 短納期要求が品質管理を形骸化させる
「明後日の納品を死守しろ!」と営業部門からプレッシャーがかかると、現場では検品や受け入れ検査を省略したり、あいまいな状態で材料投入を進めてしまう場面が多くなります。
営業部門は受注実績としての納期厳守が評価に直結するため、調達品質よりも見かけのスピードを重視してしまうのです。
結果として、製品全体の信頼性低下や重大クレーム発生など、後戻りコストが膨れ上がります。
3. 調達・品質管理部門の士気低下と人材流出
「とにかく営業の顔色をうかがえ」というメッセージが現場に染みついてくると、品質やサプライヤーとの二人三脚でのものづくりにこだわってきたベテランほど意欲を失います。
自部門の役割が形骸化し、予算や人材育成が後回しになりがちです。
結果として現場のノウハウ伝承が進まず、調達品質を守る本来の力が削がれていきます。
営業部門と調達部門のすれ違い:現実の会話例
現場で見られる典型的なすれ違いを挙げてみましょう。
営業:「この案件、単価を10%落とさないと他社に取られる。すぐ対応してくれ!」
調達:「ですが、現行サプライヤーを外してまでのコストダウンは、品質リスクが高いですし……」
営業:「グダグダ言わずに、とにかく数字を合わせてよ。いつまでに出来るの?」
調達:(内心)現場の実情も知らずに……このままだと後戻り案件になって現場が火を噴くのに。
このようなやり取りが日常化してしまうと、「コストと納期だけを追っても品質は守れない」という基本原則が失われていきます。
昭和的「ハッタリ営業」文化からの脱却を
アナログ世代の成功体験が生きている製造業では、今なお「頑張って売る」「ハッタリも大事」という営業気質が主流です。
この気合主義は、調達部門にとっては「根拠なき圧力」以外の何ものでもありません。
こうした文化では、サプライヤーへの価格叩きや急な納期変更も「良い仕事」として評価されてしまいがちです。
結果、調達現場が正しくリスクシナリオや品質確保を主張する余地が小さくなり、長期的にモノづくりの現場力が失われます。
時代が求めるのは、表面的な営業数字よりも、安定した品質やQCD(品質・コスト・納期)の最適バランスを実現できる組織文化への変革です。
調達品質を上げるために必要な新たな評価軸
営業優先の評価制度からの転換は容易ではありません。
しかし、これからの製造業では、調達部門やサプライヤーパートナーと「競争ではなく共創」する姿勢が不可欠です。
そのためには、以下のような新たな評価軸が求められます。
1. サプライヤーパフォーマンスの「仕組み」評価
材料・部品の品質納入率やクレーム件数だけでなく、「品質管理プロセス」「事前リスク審査」「現場見える化」などサプライヤーがどれだけ本質的な取り組みをしているかを評価基準とします。
数字だけでなく、モノづくりの仕組みに注目すれば、急場しのぎのコストダウンが長期的リスクであることに気づけます。
2. 調達部門の「問題解決・価値創造」への評価
どれだけ値切ったかではなく、安定品質のためにどんな創意工夫をしたのか。
新規サプライヤー開拓、現場改善支援、ロジスティクス最適化など、業務プロセスの改善を正当に評価する仕組みに切り替えるべきです。
3. サプライチェーン全体でのトラブル未然防止数値
現場が「一見無駄に見えても」実施した予防保全や、品質パトロールの積極姿勢も評価軸に加えます。
営業数値だけでなく現場主導の“未然防止スコア”も評価項目に設定し、調達部門のリスク感度を会社全体で認める風土が重要です。
調達バイヤーやサプライヤーに伝えたい「これからの成長戦略」
バイヤー志望の方やサプライヤーの皆様には、これからの製造業に不可欠な視点を持っていただきたいと思います。
1. 調達品質は「攻めの経営資源」になる
良い調達は、良い営業の成果を最大化できます。
どれだけ素晴らしい顧客を獲得しても、肝心のモノがトラブルまみれなら全て水の泡です。
「調達品質こそ攻めの経営資源だ」と胸を張れる人財が、これからの製造業のエースになると信じています。
2. サプライヤーパートナーとの「共創姿勢」が競争力を生む
価格交渉や短納期プレッシャー一辺倒ではサプライヤーの成長も技術進化も止まります。
バイヤーやサプライヤーの皆さんには、お互いを信頼し「Win-Win」になる新たな共創型パートナーシップ構築を目指して欲しいのです。
3. 現場が主役!現場力の復権が会社全体の底力に
調達・品質管理・製造の現場が正しく意見を言え、働きがいと誇りを持てる評価制度への転換が迫られています。
人間の働き・現場の知恵にこそ価値がある――。
この原点回帰こそ、昭和的「売上優先」文化を超えて未来を拓く要なのです。
まとめ:営業だけが主役の評価制度はもう限界
製造業の現場では今なお営業部門主体の評価制度が根強く残っていますが、それが調達品質の低下・現場力の低下に直結している現実は否定できません。
これからのサプライチェーンや調達バイヤーには、真の価値評価軸として「品質確保・現場改善・パートナー共創・リスク未然防止」を正当に評価する時代が求められます。
皆さん自身が「単なるコスト交渉人」に甘んじるのではなく、「現場から日本のものづくりを変えていく上昇志向のバイヤー」になる、そのきっかけとなれば幸いです。
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