投稿日:2025年8月15日

直送化と越庫で在庫・輸送の二重コストを圧縮するSCM設計

はじめに:製造業の現場から見たSCM問題の本質

製造業の現場では、材料調達から製品出荷にいたるまで、サプライチェーン全体でのコスト削減と効率化が常に求められています。

とくに、在庫コストや輸送コストがダブルで発生しやすいのは、倉庫や中継拠点を複雑に活用する従来型の物流体制に根本原因があります。

そこで注目されるのが「直送化」と「越庫」という二つのSCM設計思想です。

現場管理者として20年以上、調達購買や生産管理に携わってきた経験値をもとに、実践的な視点でこの記事をお届けします。

サプライヤー視点やこれからバイヤーを目指す方、現場で改善を模索する中堅社員の方にも役立つ新しい地平線を開拓できる内容です。

直送化と越庫とは何か?──基本の整理

直送化(じかそうか)とは

直送化とは、メーカーが自社在庫を持たず、調達品や完成品をサプライヤーからエンドユーザーや組立拠点へ直接納入する方法です。

これにより、従来は製品が「サプライヤー→メーカー倉庫→顧客・生産現場」と二段階で移動していたルートを、「サプライヤー→顧客・生産現場」と一直線にできます。

越庫(クロスドッキング)とは

越庫、またはクロスドッキングとは、複数サプライヤーから届いた資材や部品を一度中継拠点(クロスドックセンター)に集約し、そこからJIT(ジャストインタイム)で各工場や得意先へ振り分け直送する物流形態です。

在庫をせず「通過」させるイメージが強いですが、集約・分配の最小限のストックは発生するのが現実です。

昭和アナログ体質からの脱却ポイント

日本の製造業では今なお「倉庫=安心」と考え、物流の中継点や予備在庫を減らせない企業が多くあります。

これが結果として、在庫・輸送のダブルコスト原因となっています。

直送化と越庫はこのアナログ発想を根本から変革するものであり、それゆえに現場での抵抗感も根強いのが実情です。

なぜ在庫・輸送の二重コストは発生するのか?

業界特有の二重コスト構造

製造業では、部品や原材料を仕入れ、倉庫に一旦ストックし、生産計画に合わせて現場へ供給します。

一方、製品完成後も一旦自社倉庫や配送センターで管理し、顧客の指示通りに出荷します。

この2回の「中継拠点」を経由することで、「在庫保管コスト+倉庫間輸送コスト」を二重で支払う形になります。

サプライヤー→倉庫→生産現場や顧客、これにおける余分な「一手間」が、物流費や保管費を大きく圧迫しています。

昭和流「在庫こそ命」の根強さ

高度経済成長からバブル期を経て、需要予測が難しい時代をのりきった現場経験者ほど、「多めの在庫を持って備える」安心感は大きいものです。

欠品がNGの日本的サービスメンタリティも、この二重コスト構造を温存してきた背景です。

在庫を減らし、物流をシンプル化する発想自体が、いまだに「リスク」ととらえられやすいのです。

IT対応の遅れと現場のアナログ運用

最新の需給予測やリアルタイム出庫管理が可能なはずの現代においても、「手作業の入出庫管理」「FAXや電話での発注」が当たり前の現場が多いのは事実です。

このため、SCMの最適化が技術的にも人的リソース的にも難しくなっているのが、現場目線のリアルな課題です。

直送化・越庫導入による劇的なコスト圧縮効果

在庫コスト削減の核心

直送化や越庫を導入すると、まず自社で抱える在庫(保管品・仕掛品)のボリュームが減ります。

それにより、倉庫スペースの圧縮、在庫ロスの減少、在庫管理スタッフの負荷軽減など、直接・間接双方の在庫コストが減少します。

輸送ルートの最短化による効率化

複数拠点を経由することなく、サプライヤーから必要ロット分だけをJIT供給することで、トラックの走行距離・アイドル時間・無駄なピッキング作業までトータルで減少します。

複数企業で共同越庫・共同配送を導入すれば、積載率が上がりCO2削減にも大きな効果があります。

「見える化」と無理のない運用設計がカギ

ただし、どの部品・どの製品も単純に直送・越庫化できるわけではありません。

需要変動が激しいものや、仕掛在庫が避けられないラインについては、最小限の緩衝在庫はやむを得ません。

そのため、現場が納得する「在庫可視化」や、今ある自社倉庫を有効作業スペースに転換するアイデアも同時進行で考えます。

実際に直送化・越庫化を進める際の現場での実践ノウハウ

現場主義の「段階導入」こそが成功のポイント

急激に全量直送化・全拠点越庫化するのはハードルが高すぎます。

まず、「流動性・回転率の高い品目」や「安定した需給・リードタイムを持つサプライヤー」との間で、限定的にトライアルを始めることが大切です。

パイロット運用で小さく成果を出し、そのメリットを現場・経営層双方に可視化するプロセスが不可欠です。

在庫の可視化とデータドリブンな意思決定

越庫を導入する場合でも、各サプライヤーからの入荷実績・生産現場の消費データを日次単位で一元管理し、リアルタイムで現場が在庫状況を見られるIT環境を構築します。

これにより、計画の精度を高めつつ、現場リーダーの判断も迅速に行えるようになります。

現場社員が「主体的に動ける」仕組みづくり

効率化の目的を「現場負荷の軽減」「働き方改革」と正面からリンクさせることが、社員の納得感・協力を引き出すコツです。

例えば、輸送効率化・在庫削減分のコストメリットを一部、現場改善投資や奨励金として「見える化」し、全員で目標を共有する手法は効果的です。

サプライヤー・バイヤーそれぞれに異なる狙い

バイヤー(調達側)の狙い

バイヤー側は、直送化・越庫化によって余分な在庫を減らし、自社のキャッシュフローの改善と管理コスト削減を狙います。

また、サプライヤーへの発注頻度やロットが最適化され、調達そのものの効率性が向上します。

サプライヤー(供給側)のメリット・課題

一方、直送化の要請はサプライヤー側にとって「自社在庫・生産体制の強化、バラ積み出荷や分納などの柔軟な物流体制対応」を求められるプレッシャーにもなります。

しかし、バイヤーとの連携が深まれば、在庫リスクを共有化でき、安定受注や生産計画の平準化といった恩恵も得られます。

単なる「押し付け」にならないよう、バイヤー側はサプライヤーとのコミュニケーションやサポートを丁寧に設計する必要があります。

失敗事例から学ぶ注意点──現場現実主義で進める意義

越庫センター運用負荷の見落とし

入出庫点数が膨大になり、結局集約点で「突発的な在庫積み増し」や「ピッキング待ちトラックの渋滞」など、現場運用トラブルが頻発することも少なくありません。

現実的な運用能力と流量予測の正確さが重要です。

サプライヤーの負荷無視による関係悪化

バイヤーの効率化だけを一方的に追うと、サプライヤーの出荷業務や人件費増加、リードタイム短縮による残業過多…といった負荷増につながります。

数字だけでなく、現場オペレーション全体をシミュレーションし、率直な課題MTGを重ねる姿勢が信頼関係の鍵となります。

IT化だけで満足しない──「アナログ強者」の現場対応

在庫システムやEDIを最新化しただけでは、最終的にピッキングや積み込みを担う現場パートやドライバーの「現実解・運用知識」が追いつかず、逆効果にもなりかねません。

小さな習慣の改革、現場OJT、アナログ手順の極限までの改善とセットで考えましょう。

まとめ:SCM改革は“共創型”がベストプラクティス

直送化と越庫による在庫・輸送の二重コスト圧縮は、「理論的なコスト削減」だけでなく、「現場での運用実態」「サプライヤーとのパートナーシップ」「全体最適より一歩ずつの部分最適」からはじめる地道な改革です。

業界の昭和的体質やアナログ実務の現状を尊重しつつ、段階的な実装と現場主導のプロジェクト管理で成功体験を積み上げましょう。

経験値を共有しあうことこそ、未来志向の日本製造業復活のカギとなります。

読んでいただいた皆さまと共に、より強いSCMを実現していければ幸いです。

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