投稿日:2025年9月11日

製造業の国際契約で注意すべき製品保証の範囲設定

はじめに:グローバル時代における製造業の契約リスク

かつての日本の製造現場は、国内需要を中心に地道なモノづくりで成長を続けてきました。

しかし、少子高齢化による国内市場の縮小、グローバルサプライチェーンの常態化、さらには外部要因によるサプライリスク増大という現実を前に、製造業は“内向き”から“外向き”へのシフトが急務となっています。

どの企業も国外に販路を拡大し、現地法人や取引先と国際契約を結ぶ機会が着実に増えています。

この中で重大なポイントとなるのが「製品保証の範囲設定」です。

昭和的な“信頼ベースの口約束”はもはや通用しません。

ルール(契約書)主義が徹底する国際ビジネスでは、うっかりした“言葉足らず”や“想定漏れ”が、大きな損失や長引くトラブルの元になります。

この記事では、製造現場の実践的な目線から、“国際契約における製品保証範囲”の考え方と注意点を深掘りしていきます。

日本の“真面目なモノづくり精神”が国際社会できちんと評価されるためのポイント、そしてアナログな業界体質によって見逃されがちな要素にも焦点を当てて解説したいと思います。

製品保証の範囲設定がもたらすリスクと信頼

そもそも「製品保証」とは何か

製品保証とは、「納入した製品が一定の条件・期間のもとで機能・品質などを満たして動作することを保証する」取り決めです。

通常は契約書や取引基本契約、個別契約条項の中に記載され、保証期間や保証内容、不具合時の対応(修理・交換・損害賠償など)を明確に定めます。

国内取引では「いつもと同じ品なら問題ない」「何かあれば電話一本で…」という経験則が通じてきたかもしれません。

しかし国際契約では、この“阿吽の呼吸”は全く意味を持ちません。

そして、保証の範囲設定が甘いと、思いがけない損失やブランド毀損につながるのです。

保証範囲の取り決めで起こる典型的なトラブル

実際の現場ではこんな事例があります。

– 海外ユーザーから「通常使用で壊れた」と言われたが、現地の“標準的な使い方”と日本の“常識”が食い違っていたため揉めた。
– 材料サプライヤーからパーツを納入したものの、完成品の不良(エンドユーザークレーム)が製品保証の対象範囲か否かで係争に発展した。
– 法律上は保証の責任が限定されていると考えていたが、現地の消費者保護法や輸出国の法規制によって予想以上の範囲を負わされた。

このようなトラブルは、契約時点で「保証範囲/責任範囲」があいまいだったことが主な原因です。

国際契約における保証範囲の設定ポイント

1. 明確な保証期間・適用条件の明記

国によって、また取引の外形や製品カテゴリによって、適用する法制や保証慣行が異なります。

ですので、

– 保証期間(例:納入後12ヶ月または稼働開始後6ヶ月のいずれか早い方等)
– 保証対象となる“通常使用”の範囲(どこまでが通常か?)
– 保証の除外事項(消耗部品、誤使用、不適切な保管・取付等)

これらを必ず明文化しましょう。

漠然と“1年保証”とだけ書くのは危険です。
現地では“24時間稼働が通常”、日本では“8時間稼働”という認識の違いもありえます。

2. 責任範囲の線引きと分担

部品サプライヤーが最終製品メーカーと契約するケース、OEM・ODMといった委託生産契約など、サプライチェーンが複雑になるほど、

「どこまでが自社の責任か?」

の線引きが極めて重要になります。

自社でコントロールできる範囲(設計?製造?材料調達?)と、ユーザー側の責任(不適切な組立て・操作等)を論理的に仕分けして、万一の不良・事故時に曖昧さが残らないように設計することが不可欠です。

またサプライヤー側の場合、「バイヤーである完成品メーカーが最終市場でどんなリスクを想定しているのか?」を理解する努力も大切です。
これが分かることで、余計な“安心の押し売り”や、不必要な保険料相当のコストを抑えることになります。

3. 国や地域特有の法規制への対応

グローバル契約では、商取引に関連する条約(ウィーン売買条約CISG等)、各国の消費者保護法やPL法(製造物責任法)、ローカルな規格(EUならCEマーキング等)を事前に調査しておくことが必要です。

特に欧州や北米市場では、消費者保護が最優先される場合が多く、仮に契約で“免責条項”を入れても、現地法で「無効」とされる可能性があります。

専門家と協力し、現行法規の範囲、今後の改正動向、取引先国の商習慣まで丁寧に把握して、契約書の内容を随時見直しましょう。

品質問題の発生時、現場リーダーとしてどう行動すべきか

クレーム初動対応の鉄則

万が一、保守期間中に不良や問題が発生した場合、国際取引では
「まず最初に全体責任を認めてしまう(謝罪してしまう)」
のは危険です。

日本流の誠意が、海外では「全責任を自認した」証拠記録となり、のちの損害賠償や訴訟で大きな不利になるからです。

初動対応では
– 事実関係の客観的な記録
– 記録写真・調査報告・関係者ヒアリングの英語資料化
– 取引契約内容(保証範囲・免責事項等)の再確認

を冷静に進めましょう。

現場ならではの調査視点を活かす

モノづくりの現場リーダーとして、技術的な因果関係(設計由来か、製造上の問題か、材料サプライヤー起因か等)の切り分けも徹底してください。

この調査・レポートの質が、最終的には
– 自社がどこまで責任を負うべきかを論理的に主張する根拠
– 将来、同様トラブルの再発防止や品質監査のあり方のベース資料

となります。

サプライヤー視点で考える「バイヤーの発想」

バイヤーがサプライヤーに求める責任と保証の本質

サプライヤー位置で契約交渉に臨む際には、「なぜここまで厳しい保証要件を要求されるのか?」を冷静に考える必要があります。

– バイヤーは“第三者(最終ユーザーや法規制当局)に説明できる資料”を必要としている
– 万一の損害賠償やリコール費用をサプライヤーと分担・転嫁できるスキームを作りたい
– 信用リスクを最小化するため、想定しうる“抜け穴”を極限まで封じたい

これがバイヤー(特にグローバルカンパニー)の本音です。

製造現場の品質保証・生産技術担当者は、「自社でどこまで担保できるか?」を社内横断で事前にすり合わせ、海外法務・技術・営業が“一枚岩”となって対応を組み立てることが最重要です。

昭和のアナログ体質が生む落とし穴:標準化とデジタル化の遅れ

現実には、多くの日本メーカー(特に中堅・中小)は、いまだエクセルや手書き記録といったアナログ管理が主流です。

これでは、

– 保証範囲の詳細なやり取り(交渉記録・メール・契約書追記)が正しくバージョン管理できない
– 海外現地法人・代理店・商社とのインシデント共有が遅れる
– 過去トラブル事例のナレッジや蓄積が活用できず「属人的な対応」から抜け出せない

といった弊害が起きがちです。

製造業DXの一環で、デジタル記録管理・品質保証履歴の一元化を急ぐことで、国際競争力と取引リスク軽減に直結します。

国際契約に強い現場リーダーになるための心構え

国際契約、とりわけ製品保証の範囲・責任分界は
「正確な事実把握・論理的な説明力・海外法規/慣行の知識」
の三位一体で初めて“守り切れる”ものです。

– 「自分たちはここまで責任を持つ/それ以外は持てない」
– 「契約書で何をどう書けば自分たちはきちんと守られるか」
– 「相手国の商習慣・法律で思わぬ盲点がないか」

これを現場にいる自分たちが骨太に把握し、営業や法務と一体となって進める姿勢が不可欠です。

また、サプライヤー位置ならバイヤーの発想と懸念、バイヤーを目指す方はサプライヤーの現場感覚を知っておくことが、結果的に良いパートナーシップと“持続可能な国際取引”につながるのです。

まとめ:製品保証の範囲設定は戦略的競争力の礎

製造業のグローバル化が進む中、製品保証の範囲設定を「面倒な契約作業」と捉えるのではなく、
“会社を守る最後の防波堤”
“競争力の源泉”として捉えるべきです。

アナログから脱却し、現場情報のデジタル化、社内コミュニケーションと客観記録の強化を進めましょう。

国際契約で真に信頼されるバイヤー・サプライヤーを目指し、“昭和の現場感覚”をグローバル時代に合わせてアップデートしていきましょう。

現場リーダーこそ、会社の未来を守り、新たな価値を創造するキーパーソンなのです。

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