投稿日:2025年8月31日

二社購買の配分をスコア化し価格競争と供給安定の最適点を維持する枠組み

はじめに:二社購買とは何か?現場からの視点で再考する

製造業における調達購買活動では、「二社購買」という考え方が長年定着してきました。
これは、特定の資材や部品を一つのサプライヤーだけに依存せず、必ず“もう一社”にも発注を分散する仕組みです。
その主な目的は、万一一社が納期遅延・品質不良・災害トラブルなどで供給不能となっても、事業活動を止めないためのリスク分散にあります。

とりわけ昭和から続く多くの日本のメーカーでは、抜群の安心感と過去のトラブル事例を受け、二社購買は暗黙の業界常識として根付いてきたと言えます。
一方で、仕入れ価格の交渉力を高めるために複数サプライヤーが競い合う構図づくりもまた、バイヤー・購買担当者が狙う重要な効果です。

しかし現代の調達現場では、「価格競争を激化させるとサプライヤーの供給安定力・協力度が下がる」「配分比率を誤ると、片方が撤退して結局一社依存になってしまう」等、新たな課題にも直面しています。

そこで本記事では、二社購買の配分を定量的に“スコア化”して、価格競争と供給安定性を両立する最適バランスを現場目線、かつ最新の業界動向も踏まえて論じます。

なぜ「配分スコア化」が必要なのか?昭和型アナログ管理の限界

従来の調達現場では、「A社へ70%、B社へ30%発注」などといった“どんぶり勘定”な配分、または「長年の慣習」「上意下達の指示」に基づく発注割合が普通でした。

しかし、VUCAの時代と呼ばれる現代、価格変動も需給逼迫も不確実性が高まっています。
単なる慣習・主観・経験則だけでは、安定供給とコスト競争力を両立した継続的な調達が難しくなっています。

ここでキーワードとなるのが「バイヤーの思考の可視化」と「定量評価による適正配分」です。

発注割合(配分)を定量的に“スコア化”することで、社内説明責任を果たせるだけでなく、サプライヤーへも公平・納得感のある取引を実現できます。
また、将来的なリスク予見や、調達戦略の見直し時にも役立ちます。

二社購買における配分スコアの設計手順

1.スコアリングのための評価項目の洗い出し

まず最初に重要なのは「何を基準としてスコアをつけるのか」の明確化です。
主な評価項目は以下のように設定できます。

  • コスト(購入単価、値引き率、発注ロット時の価格柔軟性)
  • 供給安定性(納期遵守率、バックアップ体制、キャパシティ・BCP対応力)
  • 品質(不良率、クレーム対応、検査提案力)
  • 技術・開発力(設計提案力、技術情報の共有度)
  • 対応力・協力度(イレギュラー対応、緊急時の協力実績、コミュニケーション)

加えて、昨今注目されるESG(環境・社会・ガバナンス)や、サプライチェーンの透明性といった非財務的な要素も、重要な差別化ポイントとなるでしょう。

2.各項目に重みづけを行う

次に、「自社にとってどの項目が一番重要なのか」を事業戦略や現場リスクを見据えて重みづけします。

例えば、新製品立ち上げ初期なら供給安定性・品質を重視し、ボリュームゾーンの量産期にはコストが最大化します。
生産終了間際には柔軟な対応力・継続供給の実現性が重要になるなど、時期・製品ステージによって配分の重点は移ります。

この重みもまた、「社内事情ではなく、市場動向やサプライヤーリスクの最前線」から下すことが大切です。

3.サプライヤーごとのスコア算出・定量評価

評価項目ごとに、主観ではなく“客観的指標”で各社を定量評価します。

例えばコストなら「昨年度平均価格」だけなく、「需給急変時の追加発注価格」「イレギュラー対応時の追加費用」なども点数化。
供給安定性は「納期遵守率(実績値)」「BCPの書類有無」「調達先の地理リスク」など、実データに基づきます。

このようにスコアを算出し、合計点を公平に比較することで“感情に左右されない”配分判断が可能になります。

4.スコアに基づく最適配分比率の決定

スコアをもとに、総発注量をどの割合で各社に振り分けるかを決定します。

仮にA社の総合スコアが65点、B社が60点なら、A社70%、B社30%といったシンプルな比例分配も考えられます。
しかし、“一方への偏り”を避けるため、「最低発注量ルール」や「単年の結果では変動幅を抑える」など、配分に制約条件を設けると、結果が安定します。

価格競争と供給安定は本当に両立できるのか?現場で実践した工夫

多くの現場責任者・調達担当は、「安定供給を優先すれば価格競争力が落ちる」「激しい価格競争を強いれば撤退や供給不安が生まれる」というジレンマに直面しています。

この矛盾をどう解決するか。
長年の実務経験からの実践的な策例を紹介します。

現場密着によるリスク予見と事前調整

サプライヤー訪問や現場監査を定期化し、“机上の理屈”だけでなく、実際の現場に起こりつつある生産負荷・物流ひっ迫・人員不足などを直接ヒアリングします。
サプライヤーの課題を把握した上で、「単年度限りの無理な値下げ」など、長期的な共存共栄に反する配分には歯止めをかけます。

配分比率と“信頼醸成”の相関

全てを数値で決めるのが理想論に見えても、「取引継続年数」や「災害時の協力履歴」など、現場独自の信頼尺度も加味すべきです。

たとえば、曾て大雪の数日間だけピンチヒッターで応援納品してくれたサプライヤー。
これは点数表には現れにくい資産ですが、配分見直し時の“ボーナスポイント”として評価できると、Win-Winな関係が築けます。

透明性と予見性のある配分ルールの共有

各サプライヤーに、自社のスコアリング配分ルールや評価軸を開示することで、「なぜ配分が今期変わったのか」「何を上げればよりシェアを取れるのか」が明確化し、サプライヤー側のモチベーションが強くなります。

価格競争と供給協力のバランスを、閉ざされた交渉材料でなく、両者の努力で調達網全体のタフネスが増す仕組みへと進化できます。

業界動向:デジタル化×スコア化の融合、昭和のアナログからの脱却

原材料高騰、海外生産拠点のロックダウン、昨今の半導体・電子部品不足――どの製造業も調達リスクの高まりを実感しているはずです。

そこに拍車をかけるのが「デジタル化」と「自動スコアリング」の流れです。

クラウド型のSRM(サプライヤ・リレーションシップ・マネジメント)ツールや、AI評価システムを活用することで、サプライヤー単位のスコア変動、取引条件の推移、リスク評価まで、すべてリアルタイムで見える化できる時代になりました。

特にアナログな帳票文化が根強い昭和型メーカーでも、「まずエクセルによるスコアリング管理表による可視化→徐々にシステム連携」といった、段階的なデジタル変革が推進されています。

大事なのは、人の目・感覚に頼り切らない“定量によるトータル最適”を全社意思決定の軸に据えることです。

まとめ:現場目線の“継続的最適化”へ、配分スコアを活かそう

二社購買の配分には、価格競争力と供給安定という相反するテーマが常につきまといます。

しかし、スコア化による配分設計は、単なる一時的な問題解決に留まりません。
サプライヤーごとの得意分野や潜在能力、自社の現場リスクや成長ステージを整理し、「なぜその配分なのか」を“見える化”することで、持続的な競争力を獲得できるのです。

バイヤーを志す方や、サプライヤーの立場の方も、この枠組みを理解することで、「どこを伸ばせば自社のシェア拡大に繋がるのか」「何が評価されていないのか」をつかめます。

製造業は変革の渦中です。
現場の知恵とデータ活用を融合し、柔軟かつ透明な購買戦略を共につくっていきましょう。

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