投稿日:2025年10月9日

プリント滲みを改善するスクリーンテンションと版厚管理

はじめに

プリント基板や電子部品、塗装など様々な製造業の現場で活用されるスクリーン印刷技術ですが、生産現場では「プリント滲み」という現象に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
現場における品質トラブルの代表格とも言える「滲み」は、顧客からのクレームや不良率増加、歩留まり悪化など、多くの課題を引き起こします。
昭和のモノづくりDNAを継承する現場でも、抜本的な改善に向き合う機会は今なお求められています。

本記事では、「スクリーンテンション」と「版厚管理」という2つのキーワードに焦点を当て、現場が即明日から実践できる滲み対策と、時代に即した生産性・品質向上のアプローチを解説します。
調達や購買、生産管理、サプライヤーの立場でも役立つ視点を盛り込み、現場力の底上げを目指しましょう。

プリント滲みとは何か

滲み発生のメカニズム

スクリーン印刷における「滲み」とは、本来意図したパターンよりもインクがはみ出して広がったり、エッジがあいまいになったりする現象を指します。
この滲みが発生する主な原因は、印刷時のスクリーンメッシュ(版)のテンション不足、版厚の不均一や経年劣化、さらには使用インクの粘度管理不良やスキージ圧管理の曖昧さなど、多岐に渡ります。

滲みにより起こる現場トラブル

滲みは見た目の悪化だけでなく、機能性能低下や回路ショート、マスキング不良などの工程不良の温床にもなります。
加えてリワークや手直し工程の増加によるリードタイム延伸やコスト増、サプライヤーとのトラブルにも発展しやすいため、一時的対応ではなく「根源的な改善活動」が不可欠です。

なぜスクリーンテンションと版厚が重要なのか

スクリーンテンションの役割

スクリーンテンション(版の張力)は、印刷パターンの再現性と正確性を決定付ける基礎です。
十分なテンションが掛かったスクリーンは、インクのにじみを防ぎ、パターンエッジのシャープさを維持できます。
反対にテンションが甘いと、スキージ圧によって版が沈み込み、インクが本来転写されるべき範囲から外れてしまい滲みを起こします。

版厚のコントロールと均一性

スクリーン印刷版の厚み(版厚:ステンシル層の高さ)は、インクの塗布量に直結します。
過大な版厚はインク量が多すぎる原因となり滲みが増えやすくなり、一方で薄すぎると転写ムラや断線不良を招きます。
均一な版厚管理は、狙い通りの塗布量を確保し、歩留まり向上や安定生産の根幹をなします。

現場で起こりやすい“昭和”のアナログ問題

“職人技”への依存と管理指標のあいまいさ

製造業の現場では、テンションや版厚の測定が「目測」や「勘と経験」に頼りがちな場面が見受けられます。
長年の職人による“手の感覚”を重視する言葉は耳障りこそ良いですが、再現性や外部監査対応の観点では大きなリスクです。
調達やサプライヤー監査の際も、定量指標や管理履歴がない現場は信頼を得にくくなります。

管理台帳の属人化と“検証なき再利用”の横行

版の再利用や保管台帳の未整備もアナログ現場の典型問題です。
テスト済みの版を何度も使い回すうちに、目視では判断できないテンション低下や版厚異常が蓄積し、気が付いたら滲み不良が増加します。
サプライヤーポイントでも「なぜ最近品質トラブルが増えたのか」の深堀が不十分なケースが散見されます。

滲み防止へ、現場が明日から実践できるポイント

スクリーンテンションの測定・管理

スクリーンテンションの管理には、「テンションメーター」という専用の測定器を活用しましょう。
基準値としては、メッシュの種類や用途によりますが、例えば電子基板印刷では18~25N/cm程度が一つの目安です。
印刷開始前後、版の張り替え・再利用時、さらには定期的な棚卸し管理として、数値で可視化し記録することが最も重要です。

版厚の管理・均一化

版厚計(非接触レーザーやマイクロゲージなど)で各印刷領域の厚みを定期的に計測しましょう。
狙い値だけでなく、厚みの「ばらつき」も重点的にチェックすることで、局所的な滲みや転写ミスを未然に防止できます。
また、版製作時のカラーチェックや生産前検証試験の実施など、「作りっぱなし」にならない仕組みの導入もおすすめです。

管理履歴のデジタル化と継続的改善

紙台帳や手書きメモ管理から、エクセル・クラウドベースに移行することで、トレーサビリティを確立しましょう。
テンション値や版厚履歴、不良率推移、交換記録などを一元管理し、異常時の迅速な原因究明に役立てます。
購買担当やバイヤーも、サプライヤー選定時に「管理データの見える化」を重視する企業が増えていますので、現場力強化だけでなく、企業競争力向上にもつながるポイントです。

サプライヤー・バイヤー視点での見落としがちなポイント

調達時の仕様要求とコミュニケーション

調達・購買部門が版の仕様書やスクリーン条件を発注段階で明確に指定し、「求める品質レベル」の擦り合わせを重視しましょう。
不良トラブル後の価格交渉や再発防止も大切ですが、事前の技術要件共有・「なぜこの仕様が必要か」の説明・質問の掘り下げが肝心です。

サプライヤー選定基準に現場力・管理力を

単純な価格競争や納期短縮だけでなく、サプライヤー自身が「テンション・版厚管理の体制を持っているか」、「ISOやIATFなど品質管理認証を有しているか」を選定基準に加えると、自社の安定生産に直結します。
実地監査時には現場作業者の実践状況や記録ログの実物確認を必須項目とし、“アナログな属人現場”に埋もれたリスクを排除しましょう。

最新動向:自動化・IoT活用による省人・標準化

自動テンション管理&版厚計測システム

近年、大手メーカー現場ではスクリーン版の自動テンション管理装置や、AIカメラによるオンライン監視システムの導入が加速しています。
人間の目や勘に頼らず、常時最適な張力・厚みを維持することで「属人化リスク」の解消と“昭和からの脱却”を実現しつつあります。

データ活用でサプライチェーン全体を最適化

印刷条件やトラブル履歴データをERPやMESなどと連携させ、設計部門や調達先ともリアルタイムに共有することで、全社最適な現場づくりが可能となります。
現場発の改善を経営やバイヤー視点にフィードバックすることで、「品質コスト」と「柔軟なサプライチェーン」両立にも寄与します。

まとめ:プリント滲みの本質的改善が次世代製造業の競争力につながる

プリント滲みは単なる現場の作業ミスやインクの問題に矮小化されがちですが、その真因には「テンション・版厚管理」という地味ですが根本的な要素が存在します。

属人的な管理から脱却し、科学的指標・履歴の“見える化”、さらには自動化・IoTへのチャレンジを組み合わせることで、品質・生産性とコスト競争力を支える現場力が高まります。

調達・バイヤー・サプライヤーが一体となり、「現場の目線」と「経営の目線」「デジタル技術の目線」を融合させることで、次世代のグローバル市場でも選ばれる日本のものづくりを実現しましょう。

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