投稿日:2025年10月6日

低温焼結可能な銅粉の選定と活用方法

はじめに:低温焼結銅粉の可能性を探る

製造業界ではコスト削減と品質向上が永遠のテーマです。
特に電子部品やパワーモジュールでは、使用する材料の種類や加工条件が製品性能や生産効率に大きく影響します。
今回は近年注目されている「低温焼結可能な銅粉」について、現場目線の知見を交えながら、その選定ポイントと実践的な活用方法にフォーカスして解説します。
アナログ思考が残る昭和型生産現場においても、この新素材の採用がいかに有効か、そしてどんな業界トレンドが根底で流れているのか、ラテラルシンキングの視点で深掘りします。

低温焼結銅粉とは何か? その魅力と応用分野

基本定義と焼結温度の違い

銅粉は導電性や放熱性に優れる反面、酸化しやすく従来は高温焼結が主流でした。
しかし、近年ではナノ〜サブミクロンサイズの粉末や特殊な表面処理を施した銅粉によって、200~350℃程度の比較的低温での焼結が可能となっています。
これが「低温焼結銅粉」です。
従来の鉛フリーはんだや銀系焼結ペーストに比べ材料コストが抑えられ、環境負荷低減などの魅力も備えます。

主な用途と新たな市場機会

低温焼結銅粉は、パワーモジュール、車載インバータ、LED実装、RFIDや通信機器の基板、パッケージング分野など、様々な先端電子製品の接合用途で脚光を浴びています。
伝統的にはんだでは耐熱や強度・導電が課題だったところにも適用可能となり、新たな市場を創出しています。

なぜ今、「低温焼結」なのか? 業界動向と製造現場の変化

時代背景とユーザー現場のニーズ

ここ数年で業界を覆う大きなトレンドは、電動化と小型・高集積化です。
車載の電動化(EV化)、パワー半導体の革新、および工場のIoT化などでは、「発熱量の増加」にどう対応するかが核心テーマになっています。
部品の密度が高まり、従来の実装法では熱や電気特性の課題が顕著に。
その解決策として、銅ならではの優れた熱散逸性・導電性に期待が寄せられています。
一方で、部材自体の熱耐性は必ずしも高くはなく、「低温」で高強度な接合が求められる流れにあります。

規制・環境への配慮とコスト要件

環境規制、RoHS2指令などでは鉛の全面排除が進んでいます。
この影響で、鉛フリーはんだの置き換えとなりうる低温焼結材料の需要が急増しています。
また、銀はんだなど貴金属依存がコスト面での障壁となっていた現場では、比較的安価な銅材料の選択が経営的にも賢明といえるでしょう。

低温焼結可能な銅粉の選定ポイントと評価方法

粒子径・形状・表面状態の評価

現場で実際に焼結ペーストの材料を選ぶ際は、まず銅粉の粒度(平均粒径)、粒子分布、形状(球状・フレーク状など)、表面の酸化度合いと被膜の有無を確認します。
粒子径が小さいほど低温で焼結しやすくなりますが、酸化リスクも増します。
ナノ銅からサブミクロンサイズを組み合わせることで焼結性と流動性の両立が狙えます。
また、表面改質技術(PVPコーティングや還元銀被覆など)が評価基準となる場合も多いです。

焼結性の評価:DTAと実用試験

候補銅粉の焼結特性はDTAやTG-DTA分析により、焼結開始温度や反応挙動として評価します。
また、調達購買の立場からは最終的な焼結体の引張強度、導電性(体積抵抗率)、熱伝導率などのスペックシート評価は必須要素です。

コスト・供給安定性・調達先とのコミュニケーション

現場実務では、「材料単価だけ」で選定するのはリスクがあります。
昨今の原材料高騰や地政学リスクを考慮し、継続供給能力や調達ルートの多様性、トレーサビリティにも注意が必要です。
サプライヤーとの技術・品質コミュニケーション(供給前のサンプル提供、技術情報の開示、工程QAフローの確認など)が、安定生産実現のカギを握ります。

低温焼結銅粉を現場で生かすための実践的アプローチ

ペースト設計と印刷性・焼結条件の最適化

実際の工場現場では、銅粉だけでなく配合成分(溶剤・樹脂・界面活性剤等)の最適化も重要となります。
ペースト状にした際の粘度調整、印刷マスキング性、セルフアライメント性(自己整合性)、焼結時の揮発成分除去プロセス(プリベーク条件など)も製品歩留まりを左右します。
設備との適合(ディスペンサー・スクリーン印刷・ダイボンダー等)評価も抜かりなく行いましょう。

少量多品種時代に不可欠なQA体制とプロセス制御

高度な自動車・エレクトロニクス分野では、わずかな焼結条件の揺らぎが致命的な不良原因となります。
いわゆる「昭和的なカン・コツ」に頼るのではなく、異常検知AIやインライン計測機器など最新の自動化技術と組み合わせることで変動を最小化しましょう。
さらに、「フェールファースト(早期失敗)」視点で、設計初期から多変量実験系を組んだり、複数調達先でA/B評価を徹底する文化醸成も効果的です。

サプライヤーと共創する開発型調達のすすめ

調達購買担当やサプライヤー視点では、単なる価格交渉ではなく「工程改善・設計へのフィードバック」や「新素材・新工法の共同開発」を志向すると付加価値が上がります。
例えば、試作段階から各種銅粉を比較評価し、求められるスペックを明確化したうえで共同研究の枠組みを整えるといった連携です。
こうした取り組みが次代の調達標準になる可能性があります。

アナログ業界ならではの課題とラテラルな解決策

現場慣行・技術伝承の壁をどう突破するか

多くの工場現場では、「新材料」に対する心理的ハードルや設備・工程の保守主義が根強いです。
従来工法の成功体験が変革の妨げとなる場合も珍しくありません。
この壁を突破するには、現場メンバーとの情報共有と「小さな成功体験」の積み重ね、小規模検証を繰り返すアジャイル開発的視点がカギです。
また、若手・ベテラン混成チームを組み、視点の多様化を図ることで新材料導入の抵抗感を和らげることができます。

現場“共感型ストーリー”で推進力を生み出す

「低温焼結銅粉の採用で、〇〇の不良率が30%減った」「新しいペーストのおかげで○○工程が自動化できた」など、現場で実際に体感できる成果やエピソードを、数字やストーリーで可視化して共有すると推進力が格段に増します。
とりわけ、実装ラインの生産性向上や、省エネ・省人化の具体的事例は経営層への説得材料として非常に有効です。

まとめ:低温焼結・銅粉活用の先にある製造業の未来

低温焼結可能な銅粉は「安価」「高効率」「環境配慮」「自動化対応」を同時に満たす、新時代のキーマテリアルです。
ただ新技術を導入するだけではなく、その選定・活用プロセスの中で、現場独自の課題や慣習も同時にアップデートすることが、製造業の競争力を左右します。
バイヤーやサプライヤー同士が立場を越えて共通ゴールを描き、現場発信のラテラルな思考で「自分たちだけの成功パターン」をつかむこと。
この積み重ねが昭和から令和、そして未来へと日本のものづくり現場を進化させていくでしょう。
低温焼結銅粉はその大きな一歩を後押ししてくれるはずです。

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